浅草には大から小まで、美味しい天麩羅屋が数ある。

 私が手頃な店として通ったのは天健…カウンターで、掻きあげが半分くらいになると親方が「天麩羅もちあげて」…もちあげるとサッと青ノリを掛けてくれる、これだけで味が新鮮になる…味変というヤツだ。

写真:残念な閉店した在りし日の天健。

 

 が、残念ながら、天健はコロナのせいなのだろう、閉店したが、その対面の角に天藤がある。

 天藤は、鬼平犯科帳/吉右衛門主演・剣客商売/藤田まこと主演、仕掛人藤枝梅安/緒形拳主演などの名作を書いた、池波正太郎御用達の店。

 創業明治35年という老舗だが、気軽に入れる下町の天麩羅屋だ…ちなみに天藤と書いて、テントウと読むようだ。

 知る人ぞ知る食通の、池波正太郎御用達の店なら旨いに決まっている。

 ここの天麩羅は浅草らしい、江戸伝統の下町風天麩羅で、少し衣が厚く、それほど甘くはないタレは、少し濃いめだが、行列店の大黒屋ほどではない。

 胡麻油であげるというのも、江戸からの伝統と言えるかもしれない。

 江戸は、武士と町人の町で、町人の大半は労働者だから、全ての料理の味は、濃いめがあたりまえ…天麩羅は町人の食べ物らしく、味が濃かったのも想像がつく。

 

 さて天籐だが、下町の天麩羅屋らしく気軽に入れるし、広くない店内だが、清潔で気が張らないのもいい。

 揚場のノレンの上に立派な木彫り看板の天籐。それを囲むように王貞治の色紙が二枚。

 ここは天丼も旨いが、私は好物の掻き揚げだ。丼の蓋が掻き揚げで持ちあがった姿を見ると、なぜか食欲がわいてくる。蓋をとると少々色濃い姿があらわれる。中身は、小柱・いか・小海老がたっぷり。そして三ツ葉・なめこ・豆腐の味噌椀は絶妙な味つけだ。

 目の前に、楊子・七味・山椒に加えてなぜかカレー粉が…天麩羅にカレー粉?と誰もが思うだろうが、途中で少しフリかけると、いわゆる味へん、これが意外といけるのだ。

 七味唐辛子は、浅草らしく、当然のように薬研堀=ヤゲンボリである。

 昔はなかったが、TVの食レポ番組がふえたせいか、壁に色紙が…佐野史郎、梨元勝なんて~のもあった。