「キャベツ畑人形、アメリカで大人気。売り切れ続出、奪い合いも」

 

 

 

80年代にこんな見出しが新聞に載っていた時期があります。

 

 

 

 

 

 

 

キャベツ畑人形というのは…

 

 

かなりアメリカンなテイストの、可愛いのか不気味なのかよく分からない人形。

 

人気の理由は「二つとして同じ人形は無い」という点でした。

 

髪の毛、瞳、肌の色やエクボの有無など無限のコンビネーションによって世界にたった一つの、自分だけの人形を手に入れる事が出来ます。さらに人形の箱の中には出生証明まで入っており、誕生日や名前を確認できるだけでなく、付属の葉書を送れば一年後には人形宛のバースデーカードを受け取ることもできるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから何?

 

 

 

と言われればそれまでですが、それを素晴らしいと思う消費者も少なからずいるのでしょう。

 

ちなみになぜキャベツなのかと言うと、コウノトリの伝承のように「赤ちゃんはキャベツ畑で生まれるんだよ」という言い伝えから来ているのだそうです。このため、アメリカでの正式名称は 「Cabbage Patch Kids」つまり「キャベツ畑の子供たち」というものでした、

 

 

 

それから間もなくキャベツ畑人形は日本にも上陸しました。

 

ここでも発売日に長蛇の列が出来るなどちょっとした社会現象になりましたが、それも割と間もなく下火になりました。

 

そりゃあそうだ 

という感じですが本家アメリカほどのブームにはならなかったようです。

 

 

 

 

さて、世間の誰もがキャベツ畑人形の事などすっかり忘れた頃、母が大きな包みを抱えて帰って来ました。

 

「見てこれ、安かったの!」

 

はい、賢明な読者さんならもうお分かりでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

キャベツ畑人形です。

 

 

 

 

「ええ~何で~?」

 

 

みな戸惑いを隠せません。

そう、末っ子の妹でさえもう赤ちゃん人形で遊ぶ年齢をとうに超えていたのです。

 

 

「すごいでしょ!これなかなか手に入らないのよ!」

 

 

いや、もうとっくに旬が過ぎたからセールで山積みになっていたんじゃあ…。

 

 

娘たちはドン引きです。

 

 

過ぎ去ったトレンドに一足遅れで飛びつく母。

 

 

典型的な、株投資で大損するタイプです。

 

 

それでも話題になっていたキャベツ畑人形を間近で見た事が無かったので、

 

 

「これがあの、奪い合うほどの…」

 

 

と思うと感慨深いものがありました。

 

 

 

 

 

 

ただ…これ…

 

 

ちょっと…

 

 

作りがじゃね?

 

 

もしかして、

 

 

パチもん?

 

 

お母さんパチもんつかまされた?

 

 

 

「何言ってるの!ほら、ここにちゃんとオリジナルって書いてあるでしょ!」

 

 

 

いや、まがい物であればあるほど「オリジナル」は欠かせない一言なのだよ。

 

 

 

「出生証明は?」

 

 

 

「あ、そうそう。出生証明が入っているはずよ…」

 

 

 

母が早速箱を開けますが、当然と言うか何と言うか、そんな物は入っていません。

 

 

 

やっぱパチもんじゃん。

 

 

 

たまたま忘れたのよ!いいじゃない、そんなの入って無くても!」

 

 

 

ちょっとキレ気味な母。

 

 

 

「名前が無いのね、可哀想な子!」

 

 

 

妹が芝居がかった口調で言ったタイミングでTVのニュースが流れて来ました。

 

 

 

〇〇県に暮らす大熊モムさんが世界最長寿の女性として。。。

 

 

 

 

 

 

モム…

 

 

 

 

 

モム?

出典 blogs.yahoo.co.jp/画像はイメージです。写真の子はもちろんパチもんなんかじゃありません(謝)

何かもうモムにしか見えない(笑)

 

 

 

まがい物のキャベツ畑人形の名前は大熊モムに決まりました。

 

 

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それからしばらく、モムは居間のソファーに鎮座していました。

 

しかし私だけで無く、母にさえも我が家を訪れる人たちの感想に含められた本音が聞こえていたようです。

 

 

「わあ、これキャベツ畑人形?

(お宅バカなの?)」

 

 

「へえ~、これが例の?

(いまさら?)」

 

 

「すごい、本物?

(作りが雑だわ)」

 

 

などなど…。

 

 

やがてモムは居間から撤去され、妹のベッドの上に。

 

しかし、すぐにまた妹によって居間に戻されてしまいました。

 

母は次にモムを私のベッドに座らせ、それを今度は私が母の寝室に。

 

そして再び母が妹の部屋にと、この順番で何度かたらい回しにされていましたが、ある日を境にその姿を消しました。

 

 

おそらく母が会衆の子供に無理矢理プレゼントしたのでしょう。

 

 

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今でもファービーなど、アメリカ発の謎のおもちゃが流行ったりするたび私はモムの事を思い出し、

 

 

「もう少し優しくしてあげれば良かったかな…。」

 

 

と、ちょっぴり切ない気持ちになるのです。