エホバの証人の教える予言や教義が時代によってコロコロ変わるのは有名な話ですが、私が子供の頃、この世の終わりに関しては大体次のように教えられていました:

 

ー ハルマゲドンへのカウントダウン、つまり「終わりの時代」というのは1914年から始まっている。

 

ー この年に勃発した第一次世界大戦や、その他の災厄を実際に見て来た人たちが死に絶える前にハルマゲドンが来る。 (現在はその時代の人々がほぼ死に絶えているので、テキトーな理由を付けて時期が延期されている)

 

ー いよいよ終わりが差し迫ると一時期「平和だ、安全だ」と人々が言い出す。

(86年の国際平和年や30年前の冷戦の終わりに「よし!予言の成就!」と思ったJW多し)

 

ー その直後に「大患難」と呼ばれる時代が始まり、エホバの証人を含むあらゆる宗教が政府により禁止され弾圧を受ける。 (現在コロナにより集会や野外奉仕が行なえないため、「よし!予言の成就!」と思っているJW多し)

 

ー エホバの証人に対する迫害はことさらひどく、この期間が長引くと誰も生き延びることはできない。

 

ー 迫害がピークに達したところでハルマゲドーンと来る。

 

ー エホバの証人以外の全ての人類が一掃され、サタンとその手下は拘束され、千年間封印される。

 

ー 「千年王国」という時代が始まる。

ハルマゲドン以前に亡くなった死者が復活し、皆で地球を美しい楽園に造り変える。

 

ー 平和な時代が千年続いた後に拘束されていたサタンとその手下が一時期解放され、信仰の弱そうな者たちを誘惑。サタンの側に付く人々は非常に多く、「海の砂ほどの人数」になる。

 

ー 再びハルマゲドンに似た裁きがあり、サタンと反抗的な人類は一掃される。

 

ー やっとついに、邪悪な者が全ていなくなった美しい地上の楽園で永遠に生きられる。

 

 

と、ざっくり書いているだけでもう勘弁してくださいと泣きたくなるようなウザい教えをエホバの証人は「喜ばしい良いたより」として本気で信じており、その日を待ちわびているのだ。

 

ご苦労なこった。

 

 

 

私も他のJW二世の例にもれず、事あるごとに

 

「そんな事では楽園に入れない」とか

 

「ハルマゲドンで滅ぼされる」

 

と母親に言われ続けていたので、

 

「こんなしょうもない事で滅ぼされるんだったら、自分がハルマゲドンを生き延びるチャンスは無いんだろうな」

 

と、割と早いうちに永遠に生きる希望は放棄していました。

 

ただ、ハルマゲドンそのものは「嫌だな・・・私が生きているうちは来なければいいな・・・」と願いつつも、絶望的に怖いとまでは思っていませんでした。

自分の命はエホバからもらったのだから、もしエホバが、「プー子がいると人類や地球に悪影響があるので排除しよう」と言うのであれば、それはもう仕方ない。ジタバタしてもしょうがないという諦めの境地でした。

 

それに神様ならきっとジワジワ、ネチネチ苦しめたりせずに、

スカーンと一発でキメてくれそうな信頼もありました。

 

それよりも私が本当に怖かったのは、エホバの証人への残酷な迫害があるという大患難でした。

 

70年代当時は情勢が不安定だったアフリカのマラウイのエホバの証人が激しい弾圧を受けており、その詳細が繰り返しJW文書で扱われていました。

現地の信者たちは政治活動を毛嫌いするJW本部からの無責任な指示を守り、政治に関与したり政党に加入しなかったという理由で住む場所を追われ、大ナタで切り付けられたリ厳しい拷問を受けました。幼い私が輪姦という言葉を初めて知ったのもこの経験談からでした。私は恐怖に凍り付き、何度も悪夢にうなされました。

 

マラウイの話題は信者同士が集まるといつも熱いテーマとなっており、間もなく来る予定の大患難では日本でも似たような弾圧や迫害が待ち構えているだろうと言われていました。

 

生爪はがし、親指つぶし、逆さ吊り…信じられないような残酷な拷問について信者たちはお茶にお菓子をつまみながら、意外と楽しそうにぺちゃくちゃと話しており、その異様な光景は今でも鮮明に目に焼き付いています。

 

その中でもひときわ大患難を楽しみにしているように見えたのが私の母でした。

 

 

「プー子、大患難の時に一番厳しい拷問を受けるのは、長老、開拓者、研究生だったら誰だと思う?」

 

 

「え?えっとぉ・・・長老・・・かな?」

 

 

「フフッ、そう思うでしょ?違うのよ。長老や開拓者みたいに信仰の強い者は、いくら痛め付けても信仰を曲げない事を迫害者は知っているの。だから真っ先に攻撃を受けるのは、まだ信仰が弱い研究生なのよ!」

 

 

母はいかにも嬉しそうによくそんな話題を振って来たものです。

 

 

私はその度に、そんな恐ろしい目に遭うくらいならいっそ生まれて来ない方が幸せだったかも・・・と重苦しい気持ちになるのでした。

 

 
母がなぜこんな怖い迫害が来ることを心待ちにしていたのかいまだに理解できませんが、ちょっとしたアクション映画に出演しているようなノリだったのかもしれません。
 
 
 
 
母は何人かの開拓者の姉妹たちと、コードネームで連絡を取り合っていた時期があります。
 
 
当時の母のアドレス帳には、
 
 
「アトム」
 
 
「オバQ」
 
 
などの電話番号が並んでいました。
 
 
私が笑うと、
 
 
「何を笑っているの!迫害が始まった時に仲間の居場所を知られたら大変なことになるのよ!」
 
 
と怒られました。
 
 
母は秘密警察に縛り上げられ、
 
 
「オバQの居場所を吐けぇ!!」
 
 
と脅されても口を割らない絶対の自信があるようでした。
 
 
 
 
そんな母が、ある日ぽつりと弱音を吐きました。
 
 
 
 
「お母さんね…実はこれだけは絶対に耐えることができない迫害があるのよ・・・」
 
 
 
 
「へ?どんな迫害?」
 
 
 
 
「うふふ。あのね、ぜっ・しょ・く
 
 
 
 
「はぁ?絶食ぅ??何それ全然怖く無いやつじゃん!」
 
 
 
 
「そうなのよ。だから絶食させるぞって脅される事もきっと無いと思うのよね。良かったわ」
 
 
 
 
何が「良かった」なのか全く理解できませんが、大患難で迫害に遭わない一番の方法はやっぱりエホバの証人を止めてしまう事なんじゃないかなと私は思っています。