私の父は稼いだお金はすべて旅行と余暇につぎ込む、家や車には全く無関心な人でした。

 

私は色んな所に連れて行ってもらえるのが面白かったので、中学に入る頃まで狭い中古マンションで家族5人のギチギチ暮らし、6畳一間が三姉妹共有の子供部屋でも何の不満もありませんでした。

 

しかし父の会社もバブルの波に乗って住宅手当が支給されるようになり、大型犬を迎えるタイミングでついに庭付きの借家に引っ越すことになりました。

 

愛犬エピソードはこちら↓↓↓

 

 

新しい住まいはごく普通の外観の古い二階建てでしたが、所々に遊び心のある空間や飾り窓が付いており、あめ色のニスを塗った重厚な木材がふんだんに使われていて古民家のような趣がありました。

大家さんと共有の庭は手入れの行き届いた美しい日本庭園で、こんな素敵な家に住めるなんて本当に夢のようでした。

 
母はこの広い家を早速エホバの証人の社交の場として提供しました。
日中はほぼ毎日十数人の信者たちがガヤガヤと居間で飲み食いしており、さらに開拓者の姉妹たちの小遣い稼ぎに習い事の教室としても開放して、ピアノ、生け花、習字、ソロバン、子供のお遊戯教室まで、公民館並みのフル稼働で信者たちに利用されていました。
 
思春期の難しい年齢を迎えていた私は毎日毎日我が家に入り浸っていた大勢の信者たちにイライラしていました。皆と顔を合わせたく無かったので、学校から帰ると居間には行かずササっと自室にこもり、お腹を空かせながらヘッドホンでラジオを聴いたりして過ごしていました。
そんな私を母は「非社交的だ」といつも叱りました。きちんと皆に挨拶し、信者同士の交流に参加しろと言うのです。
 
疲れるから嫌だと断ると「素直になりなさい!」と怒られました。
自分の気持ちに素直に引きこもっている私に「素直になれ」とはこれいかに。神殿の商売人を追い出したキリストのように食卓テーブルをひっくり返して欲しいのでしょうか。
 
それから数年が経ち、学生だった姉が一人暮らしをするために家を出たので、母は余った部屋を信者のための宿舎として提供するようになりました。
 
1、2泊の短期もあれば数週間から数か月までの長期もありました。ほとんどが何らかの事情で仮の住まいを探していた開拓者の独身姉妹たちでしたが、正直なところ一握りのまともな姉妹を除いてほぼ全員メンタルの崩壊したイカレポンチばかりだったのは、この宗教の異常さを物語っていると思います。
 
そんな時、ある兄弟の依頼で一人の研究生に部屋を貸すことになりました。
研究生の名前はサマンサ(仮)、日本人と結婚しているブラジル人女性です。事情は良く覚えていませんが、旦那さんの反対か暴力が原因だったのかもしれません。
 
改めて思い返すと、多分うつ病か神経症を患っていたのか、サマンサはブラジル人とは思えない暗い表情の顔色の悪い女性で、どよんとした重苦しい雰囲気を背負っていました。
 
それでも正規開拓者だった母は研究生が我が家に滞在するのは大歓迎のようでした。サマンサに聖書やエホバの話をしては、一緒に過ごす時間を全て奉仕報告に記入していたはずです。
 
さて、そんなある日学校から帰ると母が興奮気味に武勇伝を話してくれました。
 
サマンサと聖書研究をしていた時、「エホバ神は心霊術を憎まれます」という一文の所で急に彼女が白目をむいて、男性の声で「ウォ~~」と唸り声を上げたと言うのです。
 
「やめて~っ 怖い!!」
 
そう、私はホラーやオカルトが超苦手で、可愛いマシュマロマンのポスターに釣られて観たコメディ映画の「ゴーストバスターズ」さえもトラウマになるくらい怖いのです。
 
いつもは冷めた態度の私が過剰に反応したので、母は水を得た魚のように嬉しそうに続きを話しました。
 
唸り声を上げたサマンサに、これはサタンだ!悪霊だ!と確信した母は即座に、使徒たちが悪霊を追い出したという聖書のページを開き、そのページを彼女の顔に押し付け、
 
「サタンよ離れ去れ~~!!」
 
と声を限りに叫んだそうです。
 
サマンサは「ギャーッッ!!」と断末魔のような声を上げ、床に倒れ込んだと思ったら
グオ~グオ~と大いびきをかきながらそのまましばらく深い眠りに落ちました。
 
数分後に不思議そうに起き上がった彼女に、今あった出来事を話すと、覚えていないと言うのです。それで、一緒に彼女の部屋に行って持ち物を調べたところ心霊術の道具が出て来ました。
これを今すぐ捨てるようにと言ったら急にキレて、荷物をまとめて出て行ったとの事です。
 
彼女の捨て台詞は、
 
「エホバはアナタのことミテルからネ!!」
 
だったと母は笑いました。
 
一体何を笑う事があるのでしょうか?
 
冗談じゃありません。
 
怖過ぎます。
 
 
その後のサマンサの消息については何も知りませんが、
彼女はちょっとした置き土産を置いて出て行ったようです。
 
そう、得体の知れない「何か」が我が家に棲み付いたのです。
 
② に続きます。
 
****
 
このサマンサと母のエクソシストについて、私は長い事本当に悪霊の影響があったと信じていました。
 
ただ、今となってはこれはきっと何かの発作だったんだろうと思います。
本来であれば白目をむいて変な声を上げた時点ですぐに安全な場所に移し、声を掛けながら脈を計るなどをして体調を確認するべきです。
 
訳の分からない聖書なんかを顔に押し付けるなんてもってのほか!
下手したら息の根を止めてしまうかもしれません。
発作を起こしている人にとどめを刺すなんて、もう立派な殺人行為ではないですか。
 
その証拠にサマンサは叫び声をあげて気を失っています。可哀相に、母に呼吸を妨害されて死の恐怖を味わったはずです。心霊術だか何だか知りませんが、母がここで行なうべきだった事柄はただ二つ:
 
1.気道確保
2.救急車を呼ぶ
 
以上です。
 
なんだか基本的すぎて情けなくなってきました。
エホバの証人ってほんとマジヤバ過ぎ!