厚い雲の合間から光の筋がカーテンのように差し込むと、

そこが神様のいる場所だと分かりました。

 

そんな時、私はその光に向かって短い祈りを捧げました。

祈りの内容はいつも同じで、私の不注意や無知のために死なせてしまった

昆虫や小動物への謝罪と冥福を願うものでした。

 

母方の祖母の家に泊まりに行くと、彼女は毎朝祖母の兄の写真にお水を供え、

手を合わせてお祈りしていたので、私も真似して手を合わせました。

 

会ったことの無い祖母の兄はとても若く、美しい顔立ちの青年でした。

祖母の説明によると、この青年は仏様になって私たちを守ってくれるのだそうです。

 

小学校に入学する時もお祖母ちゃんは

安全祈願の小さなお守りを贈ってくれました。

 

家にあった木彫りの仁王像は、

たぶん中華街のお土産。

少し怖い顔をしていましたが

私はこの像が大好きで

嫌な事や悲しいことがあると

いつもこの神様に話を聞いて貰いました。

仁王様は私の代わりに怒ってくれて

それで随分気持ちが救われたのでした。

お話をする間、私はきれいな布を使って

像をピカピカに磨き上げるのが習慣でした。

 

神社やお寺での参拝も好きでしたし、

教会の祭壇に飾られたキリスト像やマリア像の前にひざまずくと、

神様と仲良くなれたような安心感がありました。

 

父方の祖母は熱心なカトリック教徒。

彼女は私たちに「主の祈り」のとなえ方を教えてくれました。

 

天にましますわれらの父よ   み名をあがめさせたまえ

み国を来たらせたまえ 

み心の天になるごとく、地にも成させたまえ 

われらの日ごとのパンを今日も与えたまえ 

われらに罪を犯す者をわれらがゆるすごとく、

われらの罪をもゆるしたまえ 

われらを試みに会わせず、悪より救い出したまえ 

み国と力と栄とは限りなくなんじのものなればなり 

アーメン

 

祖母は食事の前の祈りは子供たちに順番にとなえさせ、

私たちが言葉に詰まると必ず助けてくれました。

アーメンの後は十字を切ります。

 

私が楽しみにしていたのは寝る前の祈りでした。

全く同じ主の祈りですが

これは祖母が一人一人のベッドの前にひざまずいて、

私たちのために捧げてくれる祈りでした。

 

彼女の祈りの言葉を聞くと、まるで天使たちが降りて来て

朝陽が差すまで私たちを見守ってくれるような安心感に包まれました。

 

祖母は、いつも神様があなたの事を守ってくださるようにと言いながら

木製の十字架をプレゼントしてくれました。

私はこの十字架をベッド代わりの押し入れに飾ってもらい、

寝る前に必ず、祖母がしてくれたように

主の祈りを捧げていました。

 

そして1976年のある日、

今度はエホバという神様がここに加わることになったのです。

 

続きます。