「楽園待ち」というJW用語があります。
旅行に行きたい
趣味に打ち込みたい
もっといい暮らしがしたい
子供が欲しい
などなど、
普通に人間やっていれば誰もが自然に持つような願いですが、エホバの証人の目標は目前まで迫ったハルマゲドンを生き延びて楽園に行くこと。
そこでは健康な身体と完璧な能力、そして永遠の命を手に入れる事ができるので目先の欲望(?)に時間とエネルギーを使わず、今はがむしゃらに宗教活動に打ち込め、という考え方。
私はこの「楽園待ち」という考え方が大嫌いで、やりたいことがあったら楽園なんか待たずに今やればいいのに、といつも思っていました。
そんな私ですが、唯一「楽園待ちだな。。。」と実感していたのが恋愛と結婚でした。
なぜならJWは信者同士での結婚しか許されていないから。
17、18歳頃までに私の周りにいたJW信者男性はほぼ例外なく、
フラフラ
ヨロヨロ
ネトネト
ナヨナヨ
としか表現のしようの無い、
基本的に幽体離脱したような、セミの抜け殻のような男性ばかりだったからです。
この頃、私の姉は母に内緒で大学生の彼氏と付き合っていました。
私も会ったことのあるこの青年はしっかりと自分の考えを持った、誠実で礼儀正しい男性でした。
姉は既にバプテスマを受けていたので信者でない人と付き合うのはアウトでしたが、私は密かに二人の事を応援しており、定期的に届く彼からの手紙を母にバレないようにそっと姉の部屋に運んであげたものです。
さて、そんな不毛地帯のような会衆でしたが、ある時3~4歳ほど年上の若い一世の兄弟が転職のために上京し、私たちの会衆に引っ越して来ました。名前は和男兄弟(仮名w)。
見た目はごく普通、性格はややシャイ。
でもボストン眼鏡の奥の瞳が真っすぐに澄んでいて、語尾を伸ばすように話す訛りが穏やかで温かく、何よりも地に足がしっかり着いた雰囲気が新鮮で、いつの間にかとても気になる存在になっていました。
ある時、母が自分の研究生の家族をJW信者たちと仲良くなってもらう目的で我が家の焼肉パーティーに招待しました。ご主人も招待していたので話し相手に何人かの兄弟たちも呼ばれ、その中の一人に和男兄弟も含まれていました。
和気あいあいとしたした雰囲気の中でシャイな和男兄弟はいつになく楽しそうにしており、そのうち自分の身の上を話し出しました。
兄弟は中学生の時に両親を同時に亡くし、その当時すでに嫁いでいたお姉さん夫婦の家で世話になっていたそうです。高校を卒業と同時に就職して、その後出会ったJWから復活の希望について知り、バプテスマを受けたとの事。
「両親に会いたいですね。話したい事が沢山あるんです。」
決して湿っぽくならず、丁寧に言葉を選んで話す和男兄弟の事を本当に大好きとこの時に意識しました。
母はパーティーの様子を撮った写真を参加者に配るために焼き増しをしていましたが、それを封筒に入れて皆に配るように母に言われた時に、私はちょっとしたアイディアを思いつきました。
写真屋さんで無料でもらえる小さな写真アルバム。
ここに和男兄弟に渡す写真を入れて、漫画のふき出しのように切り抜いた紙にちょっと面白いセリフを書いて貼り付けたら、きっとすごくびっくりするだろうし喜んでくれるんじゃないかな?
でも一人で作ったらちょっとキモイと思われる心配があったので、姉を巻き込むことにしました。
姉は「面白そう!」とすぐに協力してくれて、二人でワイワイ言いながらセリフを考え、アルバムに張り付けて行きました。美味しんぼに出てくるような大げさな味の感想や、和男兄弟から発射された目線ビームが誰かのお箸に当たって「肉盗られたー!」とか、そんな他愛のない内容でしたが、これは絶対に喜んでもらえるという自信がありました。
姉と連名でこのアルバムをプレゼントして数日後、近所に住む和男兄弟からなんと郵便でお礼の手紙が届きました。
それも2通。
一通は私宛、もう一通は姉宛でした。
姉宛の手紙は白い厚紙の封筒に記念切手。封の所にボールペンで音符♪が描かれていました。
内容は、心のこもったアルバムにどれほど感動したか、嬉しかったか、感謝の言葉で一杯でした。
そして私宛の手紙。
こちらはペラッペラの茶封筒、観音様の普通切手。そしてなんと封の所には、
でっかいバツ印!!
内容もごく簡単にどうもありがとうと書かれているだけでした。
これだけでもショックなのに、姉がこの対応の落差に大爆笑!
何度も白封筒と茶封筒を見比べては、
ぶはははは!
と吹き出しながらお腹を抱えて笑い転げるのです。
妹の失恋をネタにここまで爆笑できる姉も姉ですが、それよりも何よりも、
そもそも告白もしていないのに、
こんな露骨にお断りをしてくる和男兄弟!
あのね、このアルバムを企画・作成したのはあたしなのよ!
姉はあくまでもアシスタント!ね?
第一姉にはJW的にはアウトな、でもとってもカッコイイ彼氏がいるの!
その上和男兄弟が絶賛する姉ちゃんは、フラれた妹をあざ笑うような悪魔なのよ!
ちょっと!聞かせてよ!
あんた馬鹿なの??
その日以降私が和男兄弟を完全無視するようになったのも無理はありませんが、
姉からもノーリアクション、完璧スルーされた兄弟は、
きっと戸惑ったに違いありません。