私たちが当時通っていた会衆の集会スケジュールは次の通りでした:

 

日曜日 午前10時~12時(2時間) 公開講演とものみの塔研究

火曜日 午後7時半~8時半(1時間) 書籍研究

木曜日 午後7時~9時(2時間) 真剣宣教学校と奉仕会

 

週に3回も!日曜日の野外奉仕や行き帰りの時間も入れると相当な時間をエホバに拘束されていたのが分かります。夜の9時過ぎまでつまらない話を聞かされるのは小さな子供でなくとも苦痛です。

 

そんな中、楽しみとまでは言わなくても唯一「マシ」だった集会が火曜日の書籍研究。

ここでは協会が出版した様々な書籍を、順番に質問と答えで扱います。

 

まず時間が短い。(それでも普通は夜の団欒の時間のはずですが。。。)

グダグダと司会者のもったいぶった前置き無しに本題に入り、賛美の歌は歌わない。(私はこの賛美の歌が嫌いでした。だってメロディーも歌詞も気持ち悪いんだもん)

 

そして書籍研究だけは王国会館ではなく、十数名の小さな「群れ」に分かれて信者たちの個人宅で行ないました。他人の家というのは色々と面白いものです。

その上、当時は集会が終わるとお茶とお菓子で「交わり」と呼ばれる社交タイムもありました。

 

初めて訪れた書籍研究の家はN野姉妹の六畳二間の木造アパートでした。

N野姉妹には二人の幼い娘がおり、ご主人は信者ではありませんが自宅を使用することに同意していたようです。ただ、身体を壊していたというこのご主人、集会の時間はいつも隣の寝室で休んでおり、時々「ゴホッ、ゲホッ」と苦しそうに咳をするのが聞こえてきました。

 

信者でもない病気のご主人がいる家を崇拝の場に利用して会場の使用料も支払わないなんて、改めてこの宗教の図々しさを思い出してしまいました。そう、私はずっと書籍研究の部屋に置かれている寄付箱の中身の一部は会場を提供している人に支払われるものだと思っていましたが、違うんです。びっくりです。

 

さて、書籍研究が終わるとお待ちかねのお菓子タイム。袋菓子は持ち寄りで、お茶はN野姉妹が煎れてくれました。お腹も空く時間なのでこれは楽しみでしたが、数年後に「崇拝とは無関係」という理由で廃止になりました。私たちはお菓子を一通り食べると、そろそろ帰りたいな~と思っていましたが、社交が大好きな母は結構長居をしていたものです。

 

ある日、N野姉妹の娘たちが退屈している私たちを廊下の本棚に案内して自分たちの絵本を見せてくれました。我が家とはまた違うチョイスの絵本が面白くて、集会が終わると廊下に座り込んでいつまでも読みふけっていたものです。

 

一通り子供の本を読み終えると、私たちは上段の大人の本にも目を向けるようになりました。

人の家の本棚を物色するなんて実にお行儀が悪かったと大きくなってから反省しましたが、母は子供たちがおとなしくしていれば満足する人で、一度も注意されたことはありませんでした。

 

そして私たちは見付けてしまったのです。

楳図かずお全集を。

 

私も姉も漫画が大好き!

楳図かずおと言えば「まことちゃん」。ちょっと不気味な絵と、シュールな笑いのギャグ漫画です。

私たちはこの作者が恐怖漫画の第一人者であることを知らず、「赤んぼ少女」に手を伸ばします。

赤ん坊のようなキャラの少女が活躍するドタバタコメディーを想像しながら表紙を見た私たちは主人公タマミのような表情でのけぞりました。

 

きゃあ~~~っ 怖い!!

いや、正直ここまで怖い絵を今まで見た事がありませんでした。

ページをめくる姉。

「ちょっと止めなよ、怖いよ!これ子供が読むマンガじゃないよ!」

必死で止めますが、

「じゃあ向こうに行ってなよ。読まなきゃいいじゃん。」

 

人一倍怖がりなのに、好奇心だけは無駄に旺盛な私。

姉の背中にしがみ付きながら肩越しに覗き込みます。

「あっ!まだめくらないで!」

「もう!早く読んでよ!」

いちいちもめながら二人で読み進んで行きます。

 

物語はテンポ良く進み、すっかり引き込まれたところで、

「さあ、帰るわよ!」

こんな時に限って早めに引き上げる母。

 

家に帰った私たちは続きが気になって仕方ありません。

次週の書籍研究を私たち以上に楽しみにしていた人は、熱心な信者の中にもいなかったと思います。

 

そしてその日以来書籍研究の時間は、私たちにとって「楳図かずお研究」の時間になったのでした。

 

おわり
 
※ 昭和のノスタルジーに浸ってみたい方、「赤んぼ少女」お勧めです。
本来は可愛くて無力なはずの赤ん坊をここまで怖い存在として描いた楳図かずおは天才だと思います。
徹底的に怖いだけでなく、意外と切ない物語でもありますし、「まことちゃん」も読み合せるとさらに味わい深いかもしれません。
BGMにははっぴぃえんどの「暗闇坂むささび変化」なんかどうでしょうか?
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