我が家には母が子供の頃に使っていたという、それはそれは立派な雛人形のセットがありました。

 

本格的な衣装にうるし塗りの道具類は子供の目にも上品で、毎年のひな祭りを心待ちにしていたものです。

その雛人形を今年は飾らないと、申し訳なさそうに母が言う。

エホバという名の神様は雛人形がお嫌いらしい。

 

どうして?こんなに美しい物のどこに嫌いになる要素があるのだろう?

全く分からない。

母も、そこのところはうまく説明できない。

ただ、母の真剣な様子に駄々をこねる気にもなれず、三人娘はおひな様を仕舞って置くことに同意しました。

 

うん、確かにとても特別で神聖な雰囲気の我が家の雛人形。

この特別な感じがダメなのかもしれない。

 

だったら本格的じゃないおひな様は?

子供が折り紙で作ったやつは?

さすがに子供の工作を嫌がる神様なんかいないだろう。

 

じゃあ皆で折り紙で作ろうよ!昔幼稚園で作ったのを覚えている。

小さい妹にも折り方を教えてあげて、色鉛筆で顔を書いて、小皿にひなあられを入れて。。。

と、楽しく作っていたら突然姉がスーパーアイディアの提案。

 

「ねぇ、おひな様とお内裏様をピピちゃんとチチちゃんにやってもらうのは?」

ピピとチチはペットの手乗り十姉妹。

え?なにそのアイディア、最高じゃん!

 

折り紙のおひな様とお内裏様はその場で従者に降格。

私たちは鳥かごのピピとチチを指に止まらせ、母に言う。

「あのね、すっごく素敵なものを作ったから一緒に見に来てくれる?」

おごそかにゆっくりと、一列になって子供部屋に向かいます。

 

「ジャジャーン」

手作りのひな壇にそっと十姉妹を降ろす。

「ピピッ!」

まるで「いや~だよ~」とからかうようにピピとチチは私たちの肩と頭に戻って来てしまいました。

残念、もう少し練習が必要かもと思った時に、

「ごめんね!ごめんね!」

と母が涙声で私たちに謝ります。

「すぐにおひな様出してあげるから!ごめんね!」

 

え?ちょっと待って。

あのおひな様って確かダメなやつじゃん?

ダメなやつ出しちゃったらマズくない?

子供たちは混乱。

しかし、何度も涙ぐみながら母はひな壇を飾り付けます。

 

何か・・・いけない事をしてしまったみたい。

本物のおひな様はダメで、手作りのものは結局良いのか悪いのかも分からなくって。

でもそのせいでダメなはずのおひな様が飾られて。

頭の中が大混乱。

 

その後、聖書研究にやって来た姉妹に母が言い訳します。

「子供たちがあまりにも悲しむから、可哀そうで。。。」

姉妹はやれやれという表情で「まぁ、最初の頃は仕方がないですよ。」

 

ちょっと待ってよお母さん、誰も悲しんでないよ。

おひな様、飾らない事に同意したじゃん。

勝手にダメって言って、勝手にまた飾って、私たちのせいにしないでよ~。

 

エホバの証人って何かややこしい宗教だな~。