無事に王国会館を抜け出した私と姉は取りあえず小道の先にあった空き地に向かい、ブロック塀に腰掛けます。

 

「なにあの教会!」

「臭いし!」

「ボロいし!」

「なんか気持ち悪いし!」

「つまらないし!」

 

悪口はエンドレスで続きます。

 

すると突然、

「わぁぁん、お母さんごめんなさぁ~い、お母さんごめんなさぁ~い」

 

と絶叫する子供の声。

それに対して

「お母さんじゃない!エホバに謝りなさい!」

 

と叱り付ける母親。

何事かと思い声のする方に駆け付けると、五歳くらいの男の子の腕を乱暴に引っ張りながら王国会館から出て来た母親が、会館の横に設置された物置小屋のような建物に入って引き戸をぴしゃっと閉めるところ。それでも物置小屋の中のくぐもった声は少し離れた所にいる私たちの耳にも届きます。

 

「エホバごめんなさい、エホバごめんなさい、うわぁ~ん」

「お母さんが今からあなたの中に入ったサタンを追い出します。お尻を出しなさい!」

「うわぁ~ん、何回ぶつの?」

「何回ぶつかはエホバが決めます!早くお尻を出しなさい!」

バンバンバンバンバンッ

「ぎゃぁ~ん、うわぁ~ん、あ~ん」

「1,2,3で泣き止まなかったらもう一回ムチよ!はい1,2,3!」

「ひぃ~ん、ひくっ、ぐぅっ」

必死で涙を飲み込む悲痛な声。

 

私と姉は顔面蒼白。心臓がドキドキして、キーンと耳鳴りがします。

何…今の?何が起きたの?

私たちはまるで殺人現場を目撃したかのように恐怖に凍り付いて立ち尽くします。

 

でもそこで終った訳ではありません。

最初の親子が再び王国会館に戻ると、それを待っていたかのように次の親子、そして3組目の親子も同じようなシーンを繰り返します。

 

続きます。