( 続編です )
エルサレムの町を見下ろす
一人の男がいる
ユダヤの祭司らが訴え出た
イエスの事をずっと考えている
彼はユダヤ属州総督
名はポンテオ・ピラト
ローマからこの任地に来て日は浅く
元軍人である彼は
権力争いに明け暮れるユダヤ人に
ほとほと嫌気がさしていた
イエスは律法とやらを次々と破り
自らを 「 王 」 と名乗る不敬の輩だと言うが
民衆の支持を得ている彼が目障りで
何より恐ろしくもあるのだろう
ピラトはイエスのような扇動者を
決して殉教者に祀り上げるつもりはない
敵ながらスパルタクスやハンニバルは
今でも民衆の人気は根強く
第一、捕える必要もなかった
彼等は逃げも隠れもせず
付き従っているのはわずかな人数
周りは老人や病人ばかりだった
確かに初めは過激派も近づき
容易ならざる勢力となり
総督府も緊張したが
熱狂的に受け入れられるのは初めだけ
布教するにつれ反乱分子は去り
今では見る影もない
『 ユダヤ人らしい頑固な男だ‥ 』
宗教家であれば別の道もあるだろう
ユダヤの祭司らを見習えばいい
処世を知らないのか
ピラトには名も知らぬ僻地で
わずかな賄賂に気を配らず
斃れていった多くの戦友がいる
彼自身は名門でも金持ちでもなく
立身のために軍役を務めたにすぎなかったが
やがて彼はそれを踏み台にし
腐れきった元老院の中で猟官運動を始め
辺境の中でも統治が難しいとされる
ユダヤ属州総督に大抜擢された非凡な男
手始めに彼は戦友達を追い込んだ
愚鈍な官僚や将軍たちを
全て過酷な北方守備へと飛ばした
『 俗物 ! 』 と
城壁の上から吐き捨てながら
マリアは信仰の日々を送っている
昼は彼の教えに従い
救いを求める人々の手を取り
夜はイエスをはじめ
弟子達の世話を献身的に努めた
だが、聴衆は日一日と減っている
若者らの訴えに耳を傾けないイエスに
失望する者もいる
それは弟子たちも同じだ
自分らの声にも応えようとしないイエスに
夜が明けると姿を消す者もいた
だが、ユダは
彼はイエスの教えをよく守った
少しでも理解しようと努め
弱き者達に心から接したが
兄弟子たちは複雑な思いで見ている
大祭司や祭司長らは
移ろ気な群衆を熟知している
いつかは民が離れ
教団が孤立する日も来るだろう
その日こそ自分らに協力しないイエスを
決して見過ごしにはしない
そう考える弟子達の心も激しく揺れ動く
様々な人の思いが絡み合う夜
明日はエルサレムへ入城する
この物語はフィクションです
クリスチャンではありませんのでお許しを