( 前回の続きです )

 

 

 

  

 

鯉のぼり祭りは定着してきた

 

期間中は多くの観光客で賑わい

 

夜はライトアップして

 

宿泊客の目を楽しませ 

 

発案者の先輩は

 

一目置かれるようになっていた

 

 

 

天狗になってもいいのだけど

 

この全身エネルギーのような方は

 

いつも何かを探してる

 

彼はもうひと押し

 

子供達も参加して遊べる

 

大きなイベントを考えていた

 

それでひらめいたのが

 

世界一のジグゾーパズルだった

 

 

 

 

小国郷は杉の産地

 

豊富な間伐材がある

 

これを利用し角材をたくさん作り

 

木枠にはめ込み絵を描き

 

ジグゾーパズルに見立てようと言うのだ

 

僕は美術部にいたから

 

企画部の看板づくりを手伝っていたけど

 

問題はその大きさと場所だった

 

 

 

縦3.5m、横7mの変則的な五角形

 

しかも作業は野外

 

屋根などあるわけもなく

 

国道下の垂直に近い石垣が

 

町の真ん中で見栄えがするからと

 

企画部で決めたらしい

 

 

 

予定日が迫っているため

 

枠に角材をはめ込んで

 

一度完成させてからバラバラにし

 

当日に子供たちを呼び

 

また組み立てればよかろうとなった

 

 

 

 

『 … そんな簡単に… 💧 』

 

 

 

 

君は何もしなくていいから

 

ただ、絵だけ描いてもらえば

 

後は俺達がするからとニコニコして言う

 

 

 

いつもの決まり文句

 

聞きたい事はたくさんあっても

 

これで飲み食い、打ち上げはタダだぞと

 

暗黙の了解に受ける事にした

 

彼は実に男らしい方で

 

言葉の遊び、駆け引きを一切しない

 

僕も彼の真似事をした訳で

 

言い訳や弁解も封印した

 

 

 

とりあえず後悔は後回しに

 

2枚の下絵を描き上げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ふ~ん 」

 

と、” 男らしい ” 先輩は黙り込んだ

 

 

 

彼のイメージとは少し違ったようだ

 

悪くはないと思ったのが甘かった

 

彼は子供を描き入れろという

 

 

 

『 … 確かに 』

 

 

もっと楽しく

 

もっと子供の喜ぶような

 

『 … そうだ、マンガでいいんだ 』

 

僕もたまにはひらめく

 

 

 

もともと夢はマンガ家

 

そのイメージで描いたのが下の絵

 

先輩はにっこり笑い

 

「 これ、これ 」 と、言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バックは地球にしたかったが

 

子供には難しすぎるという事で

 

夏の入道雲にした

 

後は角材をはめ込み

 

描き写せばいいのだけど

 

立て看作りの経験はあっても

 

これだけのものを一人で作るのは

 

もちろん初めてだった

 

脚立に乗っての作業だし雨も降る

 

ちょっとしたプチ・ミケランジェロ体験

 

 

 

 

下を見れば川まで10m近くあり

 

ジェットコースターにも乗れない私は

 

冷や汗を垂らしながら

 

迫り来る期日に追われ

 

時折、川向こうの喫茶店で

 

コーヒー飲みながらのチェック

 

描き終わるまで約一か月

 

気が付いたらあっという間に

 

ゴールデンウィークに突入していた

   

 

 

 

 

ほったらかした仕事に追われ

 

イベントには参加できなかったけど

 

河川敷の駐車場から見上げた

 

僕の目に映ったのは

 

 

 

角材を必死に探す子供と

 

母さん達のはしゃぐ声

 

親父はみんなビール片手に

 

鯉のぼりの下

 

喜ぶ顔、顔、顔

 

 

 

 

 

ハンドルを握る僕はあやうく

 

橋から落ちそうになった