九州の中央にある熊本

 

阿蘇を熱源とする大小の温泉があり

 

その中の一つ、小国郷杖立は

 

昔から湯治場として知られている

 

 

 

 

 

「 世界一のジグゾーパズルを作ろうか? 」

 

ソフトボールでお世話になっている

 

先輩が突然言って来た

 

小柄だが全身ばねのような方で

 

ちなみにこの方のソフトボール

 

ウィンドミル投法は素晴らしい

 

 

 

先輩は全国で見られる鯉のぼり祭り

 

彼が企画部にいた頃の

 

その発案者でもある

 

 

 

 

 

客が集まって町が賑わう

 

そんな便利なイベントはないか?

 

その時、ピンとひらめいたのが

 

息子さんの節句に買った

 

今は使っていない何匹かの鯉のぼり

 

 

 

川に沿って一面に

 

数十匹吊るしたらどうなるだろう?

 

きっと勇壮な景観が

 

出来上がるんじゃないか?

 

 

 

とりあえずやってみる事にした

 

田舎ではどの家にも

 

使わなくなった鯉のぼりの

 

一匹や二匹は押入れに眠っている

 

 

 

初めは川の両側にある

 

ガードレールにロープを張り

 

町中から集めた十匹余りを吊るしてみたが

 

みんなには意味が分からない

 

 

 

鯉のぼりを吊るして

 

何の宣伝になるんだと言わんばかり

 

しかも雨に打たれた鯉のぼりは

 

洗濯した布おむつの様に垂れ下がり

 

風を受けると信じられないほど重く

 

ガードレールを土台から引っこ抜き

 

全て川に流してしまった

 

 

 

 

「 川で鯉が泳いどる 」

 

そんな陰口があちこちで聞かれ

 

これが逆に先輩に火を付けた

 

 彼はみんなを説き伏せ

 

鯉のぼり用のポールを

 

川の両側に数十本立ち並べた

 

成功するかどうかも分からない

 

鯉のぼりを吊るす為だけに

 

 

 

 

この川は有名な暴れ川で

 

まともに降ると5~6mは水かさを増し

 

よく聞くと川底を

 

岩の転がる音がする事もある

 

当然ポールは頑丈でなければならず

 

数百万の予算が必要だったろう

 

 

 

と、同時に全国に向かって

 

不要になった鯉のぼりを

 

記念品と交換する一大キャンペーンを展開

 

その数は数十、数百と増えていき

 

今では数千匹を超えていると言う

 

 

 

 

 

 

 

( 左端に例のポールが見える )

残念ながら今年はコロナのせいで中止となったらしい

 

 

 

 

 

先輩にはもう一つ逸話があって

 

彼は小さいお土産屋さんを開いてる

 

この町は渓谷沿いに

 

旅館や商店が張り付くように並んでいて

 

道は狭く週末、連休の度に

 

何キロもの交通渋滞ができるため

 

迂回する長いトンネルができ

 

当然のごとく町は素通りされ

 

自然と廃れていった

 

 

 

これが鯉のぼり祭りの

 

きっかけの一つにもなった訳だけど

 

彼が目を付けたのはこの新しいバイパス

 

まだ 「 道の駅 」 もない時代

 

大きな物産店をオープンさせ

 

これがヒットした

 

 

  

 

農協が受け取らない

 

曲がった胡瓜や規格外の大根を

 

軽トラで走り回って安く分けてもらい

 

泥つきのまま店頭に並べると

 

飛ぶように観光客が買っていく

 

名も 「 豊作市場 } とつけた

 

 

 

ただ彼が儲かりだすと妬む者も出て来る

 

案の定、地主が色気を出し

 

「 うちも店を出すから出て行ってくれ 」

 

と、横槍を入れてきた

 

 

 

窮地に追い込まれた先輩は

 

また、ひらめく

 

その隣の地主に話を付けると

 

土台ごと3階建ての店を持ち上げ

 

200m ほどスライド移動

 

何事もなかったかの様に再オープンさせた

 

 

 

 

 

 

 

( 実際のお店です )

 

 

 

 

 

 

経緯を知っている町の者も見物に来て

 

ちょっとしたお祭り騒ぎになり

 

これを見た地主は

 

とてもかなわないと思ったのか

 

お店は今も出していない‥‥らしい

 

 

 

 

 

 

「 世界一のジグゾーパズルを作ろうか? 」

 

 

この話はまた次の機会に