1966 年 2 月 4 日  午後 7 時

 

乗員・乗客 133 名を乗せたまま

 

全日空 60 便は突然消息を絶った

 

羽田沖で着陸態勢に入った直後に

 

 

 

 

海上で一瞬

 

閃光が走ったとの情報が入り

 

捜索の焦点は羽田沖に絞られた

 

 

 

 

「  漁船でも何でもいい チャーターしろ !! 」

 

デスクが叫ぶ

 

吹きすさぶ真冬の東京湾へ

 

数十隻の船は向かう

 

 

 

 

無数のライトで照らされた漆黒の海

 

消防、海保、警察の船が入り乱れ

 

チャーター船はそれを追い

 

氷点下の水しぶきが

 

体中を打ち付ける

 

 

 

 

午後 9 時、誰かが言った

 

「 燃料の切れる時間だ 」

 

全員の胸に同じ思いがよぎった

 

その時

 

 

 

 

『 何かあるぞ  機体の破片だ! 』

 

『 人だ!  生きてるか? 』

 

『 油だらけだ  大勢浮いているぞ! 』

 

数多くの浮遊物の中

 

救助を最優先に懸命に捜したが

 

生存者は見つからない

 

直視できない遺体ばかりが

 

波間を漂っていた

 

 

 

 

 

 

寒かったろう……

 

引き揚げながら誰となくつぶやく

 

 

 

 

 

 遺体の中に一人の修道女がいた 

 

胸に光るものがあり

 

氷かと思ったが違う

 

 死を覚悟して首にかけたのか

 

それは銀色に光るロザリオだった

 

 

 

 

「 そこにも浮いてるぞ 」

 

「 二人だ  二人だぞ  」

 

 

 

 

 まるで引き寄せられる様に

 

船に近づくその大きな影は

 

固く抱き合う男女だった

 

 

 

 

私たちは固まった

 

ライトで照らし

 

船の鞆にしがみつき

 

二つの影を追いながら

 

私の目には

 

いや、おそらく全員が

 

妻、娘、母親の傍らで

 

力尽きている自分の姿が見える

 

 

 

 

 

 

やり場のない怒りが

 

 吹雪の中を渦巻く

 

 

 

 

 

 

悲しみと怒号の一夜が明けようとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B - 727 型機

 

 

3つのエンジンを尾翼に集め

主翼も思い切り鋭角に

機体後部に配置した

その美しいフォルムは

私をはじめ今でも航空ファンの

根強い人気を得ている

 

だがその反面、操縦が難しく

旋回性、降下率、上昇率ともに

従来機より格段に優れているため

一瞬で海中に突っ込んだとの

パイロットミス説が有力となるが

特別なロザリオをつけた修道女

抱き合った男女がいた事で

 原因究明に 一石を投じた

 

 

 

 

悲惨な事故

毎日ニュースで流れる

前方不注意

わき見運転

ペダルの踏み違い

 

 

怒りを胸に声なき声に

もう一度耳を傾けると

 

 

違う答えが出てくるかもしれない

 

 

 

 

 

 柳田邦男著 「 マッハの恐怖 」 より

抜粋し一部脚色致しました  スミマセン