キャッチ&ディッシュ…これは僕の勝手に作った造語であり、僕の釣りの信条のひとつです。

この言葉が生まれたのは20年ほど前の事。
遊び仲間にロバートというジャマイカ人が居て、ある夜、彼も含めた仲間達と近所の野池にナイトバスゲームに出掛けた際、その
ロバートがドブみたいなアーモンドグリーンの池でへら鮒を手掴みで仕留めるという驚異の身体能力を発揮した。

皆が驚く中、彼が驚愕の一言を放つ。
『ワイ コレ タベル』

『ナー、マン!(だめだよ!)』

『ナゼ!』

『ナー!ポイゾン!』

『ボンボクラーッ!(マジかよ!くそ!)』

皆に説得されてリリースして、しょんぼりしている彼におどけて言ってみたのが

『キャッチ&ディッシュ?www』という言葉。

しょんぼりしていた彼も大笑いして
『ヤーマン!キャッチ&ディッシュwww』とツボっていた。これがキャッチ&ディッシュ誕生秘話(?)である。


それはさておき、そもそもこのキャッチ&ディッシュとは何ぞや?と言いますと、そのまんま、釣って料理(ディッシュ/皿に盛る)という事。

んじゃキャッチ&イートでよくね?

ノンノン、ただ食べるだけじゃ駄目なんです。『おいしく料理して』食べるのです。

ここからは、僕の戯言です。




そもそも【釣り】というものは、非常に残酷な遊びです。
僕らはその魚を釣らなくても飢え死にする事はないし、食べるものは容易に手に入る世界で暮らしている。もちろん魚を釣って帰らないと家族を殺されたり村を焼かれるような事もまず無いだろう。

だけど、魚は食べないと死ぬ。長い間エサにありつけない魚も居るだろう。厳しい自然の中で、生き抜く為に捕食する。テリトリーを守る為に侵入者に闘いを挑む。
それを僕らは、時として最新の技術の塊のようなタックルで、時には圧倒的な力で、魚達をねじ伏せる。非常に残酷で、アンフェアな遊びだ。

勿論釣りそのものを否定している訳ではない。釣りは楽しい。僕も大好きだ。ただ前提としてこの認識がなければ愛も感謝もない、一方的なジェノサイドになってしまう。釣り場でよく見る無残な光景…海岸や無機質な岸壁の上で何者の糧になることも許されず、海に帰ることも叶わずに干からび、腐敗する魚達の果ての姿を目にする度、嫌悪感と憤りを覚えます。
例え望んだ釣果ではなくとも、命を賭して竿を曲げてくれた魚に対して何という仕打ちかと。例え釣られて傷ついた身体であっても海にも還されず、釣り上げた人間に食べられる事もなく、他の生き物に捕食されて生命を全うする事さえ許さないだなんて、釣り人にそんな権利は無い。


だから僕は、食べる。

小さな魚や食べられない魚はリリースして、食べる分だけを持ち帰る。そして持ち帰った魚は全身全霊を以て美味しくいただく。自分の知識と技術、時間と手間とおこづかいの赦す限りを尽くして最高の状態でギリギリまでしゃぶり、貪る。ぶっちゃけ、時には抱卵個体であっても食べる事もある。何故か?魚卵を食すのもまた、文化だから。魚卵は昔から、人間やその他の生き物にとって貴重な栄養源。無差別に食べまくったりせずに、感謝をしてその生命の塊を味わうのも悪い事ではないと思う。それすら赦せないのならば、それは個人の自由だから食べなければ良いだけの話かなと思う。


それが僕なりの魚への敬意と感謝、キャッチ&ディッシュなのです。


先にも述べましたが、これはあくまでも僕の戯言です。個人的な考え方なので、別に皆にそうしろと無理強いする気もないし、食べずにリリースをする人もどうこう言う気もない。「魚への感謝、魚への供養」とかそういう類いの考えは人間のエゴに過ぎないとか言いたい方がいらっしゃるのならば、それはそれでひとつの考え方だし否定はしないがそれを僕に押し付けるのも勘弁してほしい。愛のかたちは人それぞれ。その人なりの愛がそこにあるのなら、僕はそれで良いと思うんです。


という事でここからは、このキャッチ&ディッシュ、どのように魚を食べているか、一尾の魚にどれだけ愛を食欲を以て接しているかのおはなし。

ではその一例として、今回はこのお魚です( ´∀`)


少し前に仕留めた(過去のブログ、【PESCE ROSSO!】参照)、ショアレッド。こやつをどのように食べたかをご紹介したいと思います。

先ずは熟成。

釣れたての状態で先ずは血抜きと神経締めを施します。熟成の大敵は血と内臓、そして水分と酸素。最初に脳をアイスピックでひと突きして脳死状態を作り、脊髄の神経にワイヤーを通して神経締めをして死後硬直を防ぎ、エラと尾にナイフを入れて流水で血を抜きます。次に腹に最小限の包丁を入れて内臓、血合いを掻き出し、エラを外します。今回は肝、胃袋、卵巣を丁寧に外して、別に冷凍しておいて食べる際に湯引きして食べたり肝醤油を作ったりします(画像右側)。
そして水分を拭き取り、鱗のついたままキッチンペーパーで包み、ぴったりラップをして寝かせてます。熟成期間は魚にもよりますがだいたい平均3~7日間。大型の根魚などは10日以上も熟成する事もあります。


そして熟成完了後、さっそく解体→料理にしていきます!ちなみに今回の鯛は5日間熟成でした。



先ずはやっぱり刺身から。

今回は熟成がいつも以上に上手く行った。乳白色の吸い付くような白身に手前味噌ながら見事な血合いの朱よ。見た目だけでなく味も抜群、危うく全部刺身でイキそうになる。



そして定番・昆布締め。昆布締めの作り方は人それぞれだが、僕はスライスせずにサクのまま、浅めに締める派です。そして適度に水分の抜けた鯛を切りつけておぼろ昆布を添えた「W昆布造り」で食します。昆布締めは昆布で挟む事で余計な水分と共に雑味を抜き、そこに昆布のグルタミン酸が旨味を加える、言わば和食の基本『引き算』の料理なのだが、これに更におぼろ昆布の風味を加えた『引き算&足し算』のひと皿なのです。



そして三枚におろした時に出た頭、中骨など…いわゆる『アラ』も有効に使います。打ち塩をして軽く焼き、生臭さを消して焼き目の香ばしさを出して、昆布と一緒に出汁を採ります。
この作業は色々な魚でやって来ましたが、使う魚によって、それぞれ表情の違う出汁の風味が楽しめます。過去、色々な釣魚料理を作って来ましたが最終的に出汁こそが最高の魚料理なんじゃないかな…とか時々思います。


そしてこの出汁を採った後の出汁ガラも無駄にしません!


骨の間に残った身を丁寧にほぐして小骨を取り除き、ほぐし身を取ります。これを時にはパスタやリゾットの具に使ったり、今回のような和え物にしたりします。ちなみに今回は同じく出汁を採った後の昆布を刻んでネギやニラ、にんにく、生姜に醤油、胡麻油と韓国唐辛子でヤンニョム的なものを作り、ヤンニョム和えを作ってみました。

そして出汁と半身を使って…




ハイ!以前のブログでもご紹介した鯛めしを作りました!今の僕の持つ知識と技術をフル稼働させて作った、本気の鯛めしです!


お後は解体時に出汁に使わずに残しておいたカマを…

塩麹に2日ほど漬けて塩麹焼きに。麹のほんのり甘味を帯びた風味がたまりません!焼きたてのアツアツに山葵を載せて・・・

そして最後に伏線回収!


鯛めしを作った残りの出汁、そしてヤンニョム和えを使ってもうひと品、鯛クッパ!
優しい風味の鯛出汁のクッパにピリッと辛いヤンニョム和えのアクセント。出汁茶漬けにしようかと思いましたが、ちょっと裏をかきたくなってまさかのクッパw高校生の頃焼肉屋でバイトをしていた頃の経験がこんなところで役に立つとは…


という事で、今回は1尾の鯛から全6品。鯛めしで半身を使ってしまったので品数はあまり多くありませんが、捨てたのは胃や肝、卵巣以外の内臓とエラ、あとはヒレと骨のみ。全身全霊を以てして、完膚なきまでに味わい尽くしてやりました( *´艸`)

タラタラと駄文、長文を垂れ流してしまいましたが、これが僕のキャッチ&ディッシュ、魚への愛とリスペクトのかたちなのです。



生命を賭して闘ってくれた魚達に、敬意と食欲を…!