土曜日の夜。

仕事中から今日は終わったら何処に行こうかなーとか、いつもの病気。
いつもの面子からのお誘いもないし、のんびりソロ釣行もいいな。それとも相棒が御前崎でアジング中らしいから足を伸ばしてみようか、でも現場はタフコンらしいしな…
明日は休みだし、ちょいと独りで遠出してみようかな。夏に南~西伊豆ランガンした時に立ち寄った港、あそこメバルも楽しそうなんだよな…

なんて仕事なんてそっちのけに考えているとLINE受信。

『お久しぶりです!KROさん、今夜出ますか?』

メッセージの主は二年前、某釣りアプリで知り合った釣り仲間のみうたく君。彼と釣りに行ったのは去年の春。今のところ1年に1回ペースで同行しているレアキャラだ。どうやら忙しくて釣りに行けず悶々としていたらしい。やっと取れた休み、釣りに行きたくて連絡をくれた。それならばいっそ、西伊豆釣行に拉致してしまおうかと、上がりの予定時間を確認。

『いやー、朝には帰らないとなんないんすよー…』

んーなるほど。では近場でメバゲームと洒落込もう。とりあえず最寄りのコンビニで待ち合わせ。挨拶を交わして、早速作戦会議。

『んー、どーしよっか?メバルやりたいんだよね?ズーヌマ行ってみるかい?』

『ズーヌマ!いいっすね!ずっと行ってないので。あ、テクトロ教えて下さいw』

『アハハハ、了解。んじゃズーヌマ港行こうか』


…テクトロとはハイプレッシャーを極めたバス釣りブーム黄金期に編み出されたメソッドで、護岸のキワにルアーを落として、そのまま犬の散歩のように歩いて釣るという小技。テクテク・トローリング→テクトロという名で呼ばれるようになった。ソルトウォーターゲームでも東京の湾奥シーバスなどでもいまだに使われている釣りだ。


僕はこのテクトロを得意としていてテクトロに向いた岸壁を見つけるとすぐテクテクトロトロしてしまう。初めてバスを釣ったのもこのテクトロ。30年近く前、まだテクトロという言葉も無かった中学生の頃、300円のパックロッドに友人にもらったジグ&ポークのテクトロで40㎝のバスを仕留めた、謂わば僕のルアーゲームの原点。ソルトウォーターゲームをやるようになってからはカサゴ、ハタ、コチ、チヌ、シーバス、タコ…この釣法で数え切れない魚を釣ってきた僕は、いつしか自らを『テクトロニスタ』と呼称するようになった。
そしてこのテクトロ、例外なくメバルにも効く。
むしろとびきりセンシティブなズーヌマのメバルにはこのメソッドが効果覿面で、この港で仕留めたメバルの9割がこのテクトロによる釣果と言っても大袈裟ではない。

ただこのテクトロ、釣り方が釣り方だけに、『セコいw』『地味w』と小馬鹿にされたり鼻で笑われる事も少なくない。
僕の釣りの信条は結果よりプロセス。『何匹釣るか』よりも、その一尾に『どう出逢うか』なのです。雑誌や動画で人気のフィールドテスターやプロの方々の言う事をまんま鵜呑みにして、人気のルアーの人気のカラーを動画の通りに動かしていれば魚は釣れるのかも知れない。だけど僕は僕なりにポイントのクセや地形、魚のパターン、その場の状況を考えて、時には同じポイントに幾日も幾日も通って魚と出逢えるのが、楽しい。だから何と言われても僕なりに考えてたどり着いた釣法なので、別段気にしていない。むしろ『うわ、デカいっすね、どーやって釣ったんですか?』『ん?テクトロwwww( *´艸`)』とか自らネタにしている。


それはさておき、テクトロ道場、開始。
…の前に、とりあえずこのポイントは初めてのみうたく君に、軽くポイント説明。実績のあるポイントをいくつか回ってキャストするが無反応。ってことでやっぱテクトロ道場、開始w


テクトロと言ったら足元に落として歩くだけ、と思われがちだが…ノンノン、それじゃ甘いのよ。先ずはテクトロ向きな岸壁の選び方。
基本的にテクトロは真っ直ぐで遮蔽物の無い岸壁が向いている。例えば係留ロープやブイ、あとは壁に設置された船の衝突を避け為のフェンダー(黒い硬質ゴム製のアレ)が無い場所が好ましい。あとは水中のストラクチャー。出来れば足元の岸壁が水中で手前にえぐれているような形状や、岸壁の直下が真っ平らな基礎ではなく捨て石などのストラクチャーが沈んでいるとなお良い。

そして岸壁の上に立ち、岸壁と平行に、岸際と平行にキャスト、ボトムを取って(もしくは任意のレンジで)ゆっくり歩く。キャスト距離は水深プラスアルファ。こうする事で着水後リールのベイルを戻すとボトムまでをカーブフォールで誘える。あとはティップガイドを岸壁ギリギリの所に向けてデッドスロー・ウォーキングするとルアーはティップガイドを支点にそのほぼ真後ろをトレースする。岸壁にウイードが生える時期や水中で岸壁が一段せり出しているような場所ではその分だけロッドティップが外側に来るように構えてあげるといい。そしてたまに立ち止まってカーブフォールを加えたり軽くトゥイッチで跳ね上げてみたりを加えながらひたすら歩く。

…なんて事を僭越ながらレクチャーしようかと彼の隣に立ち、『こんな感じでボトム取ったらあとはゆっくり歩…あ、くっちゃったwww』


『まじすかwwwテクトロすげえwww』と、みうたく君もキャッキャしているが、まだ1~2歩しか歩いてないんだよね、実際問題wこれをテクトロと呼んで良いのだろうか…何はともあれ、ファーストフィッシュは22㎝のマイワイフ。アレだ、こりゃアレだ。よくフィールドテスターが動画の中でルアーやアクションの説明してる最中に釣れちゃう、かっこいいアレだ。

ということで今度こそテクトロ、スタート。みうたく君に先行させ、僕がそのカマを掘るスタイルで岸壁を歩く死者2名。ほどなくして再びヒット。『ほらほらー、みうたくちゃーんw取りこぼしてるぜーいwww』って言ってやろーかなーとか思って顔をあげると、あれ?みうたく君も竿、曲がっとりますがなwヨメ、ダブルヒット。二人ともちゃいちーるで顔を見合わせて、笑う。


その後、ポロポロっと追加するもサイズはいまひとつ伸びず。



一方みうたく君はテクトロがすっかり気に入ってしまったのか、独りで岸壁を何往復も練り歩いている。僕は夜も長いしメバルの時合いはまだまだそうなので、ちょいと一服する事に。

すると先ほどからテトラの向こう側でロッドを振り抜く音が聴こえていたのだが、どうやらその音の主がテトラを乗り越えてこちらにやって来た。
どちらからともなく『こんちは、どーすかー』
みたいな会話が始まる。とてもお話の楽しい気さくな方で、この日はフラット狙いだったようだが、かなり幅広く釣りをやりこんでいらっしゃるご様子。聞けばフィッシュアローのフィールドテスターの方だった。明日は朝から横浜の『釣りフェスティバル』に参戦するらしい。
お話に華が咲いていると、みうたく君が戻って来た。
『どーだった?何か釣れた?』
『ハイ、カサゴがちょいちょいと、あとメバル!小さいけど…』

ほう。小さくても一匹は一匹だよ。彼にとっては今年1本目のメバルちゃん。しかも初めて試した釣り方で狙って釣れたのだから、価値ある1尾よ、みうたくちゃん!


そうこうしているうちに3:00am、テスターの兄さんは明日早起きの為、撤収。我々もアタリがピタリと止まってしまって、ちょっとここが我慢の時間。

しかし寒い。夜が深くなればなるほど、ぐんぐん寒くなる。
あまりの寒さにキャンタマが男梅のアイツみたいな感じにギュンギュンにちぢこまる。

みうたくちゃんよ、ちょと我々も休憩しないかい?あったかいコーヒーでも飲もうよ…
ということで、一旦休憩。市場の施設内にある自販機まで歩き、あつあつの缶コーヒー(僕はコンポタ)にありつく。染みるなぁ、キャンタマもふわふわに戻りそうだよ…

もうこの時間になると市場の職員さんもあわただしく動き始める。物置小屋のシャッターを上げる職員さんと目が合ったので挨拶をすると『どうだい、釣れたかい?』と。『いやー、いまひとつ…』と答えると、『ハハハ、そーかい、何釣ってるんだい?』『メバルっす』『メバルか、時期だもんな』なんて会話を交わして、『そこのゲート、今開いてるから帰るんならそっから帰りな!』と。まだまだ、帰りませんよー!こっから後半戦、がんばるですよー!

ということで身体も少し暖まったので後半戦。しかし缶コーヒー1本でどうにかなる寒さではない。僅かに暖まった身体は一気に冷え、僕の男梅もスッパイマンくらいガチガチに。もうだめ…無理…

5:00まで粘るも状況変わらず、釣果も伸びないしナニもアレなので、朝マズメを目前に断腸の撤退。

みうたく君と別れ、コンビニに駆け込みカップラーメンにありつく。今日はこれから終日フリー、釣りに行くにしても一旦戻って熱い風呂でキャンタマの裏に花王のバブを沈めてほぐしてやりたいところだが、ここまで寒いと家に帰ったらダメな子になってお布団から出れずに1日を棒に振りそうなので、そのままコンビニで車中泊→釣具屋に寄って西伊豆を目指す事に。

といったところで今日のお話はおしまい。続きはまた次回…