多分、いや、もしかしたらコレは独り善がりにそう思っているだけなのかもしれないけれど、彼は僕に好意を持ってくれていると思う。
そしてそれは僕も同じく。
彼に特別な好意を持っている。
でも、それを口にはしない。
友達だとは言い切れない気持ちは胸のうちに秘めておく。
気持ちを告げてもきっと困らせてしまうから。
優しい彼を困らせてしまうのは本意では無いから。
友人の範疇から飛び出る事はしないでおく。
「いった、」
「大丈夫か?」
小さく躓き体勢を崩した僕に当たり前の様に大きな手が差し出される。
「うん、ありがとう」
その手を掴めば力強く握り締められる。
もう何度目か分からないこの遣り取りももうすぐ終わり。
卒業はもう目前。
その先はもう会う事も無くなる。
「気をつけろよ」
優しく微笑み離れていく手に名残惜しさを感じてもどうする事もしない。
いつかまた・・・。
そんな日は来ないかもしれないけれど、いつの日かそんな日が来ればいいな・・・と思いながら僕はまた歩き出した。
こうして手を差し出すのは友人を心配しているから。
この三年、そう自分に言い聞かせてきた。
でも本当はそうじゃないと分かってもいる。
手を差し出すのは少しでも彼に触れたいから。
理由は明白に自分の中に存在はしていても口には決して出来ない。
彼も多分、オレと同じ気持ちを抱えているのではないかと感じてはいても、だからと言ってどうこうはしないで来た。
卒業をしてしまえばお互いに進む道はもう交わりはしないから。
想いを告げても、その先の約束は出来ないから。
それならば友人のままで離れた方がお互いの為だ。
「気をつけろよ」
自然を装い離した手にじわりと残る温もりを逃がさないように握り締めても、それは意図も簡単に自分の体温に紛れてしまう。
この先、彼に手を差し出すのは自分では無い誰かだろうけれど、それでもいつの日か、もう一度差し出し触れる日が来れば良いなと思わずにはいられない。
「相変わらずだな、二人とも」
何度も見慣れた光景に紛れている二人の想いに気付かぬフリをして、僕はまた呆れた様に笑う。
二人を唆す事は容易だろうが、それを二人は望んでいない。
友人のままで・・・・。
そう二人が望むのなら、僕もまた友人として少しでも二人が笑っていられるように呆れ揶揄い続けよう。
またいつか、こうして三人並んで何事も無いように笑いあえるその日まで、変わらずに友人でいよう。
「いい天気だが、今日も寒いな」
済んだ冬の空には浮かぶ雲一つも無い。
待ち遠しいはずの春も今はその訪れを望んではいない。
「本当に」
見上げた空を二人もつられる様に見上げて止まった足。
それはまるでいつまでも此処に居たいと主張をしているようだ。
でもそれは叶いはしないと分かっているから・・・・・。
「急がないと食堂が混むぞ!」
促し走る背中に二人分の足音が続いてきた。
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源さんのFriend Ship。からのインスパイア―で書いてみました。
とはいえ、そうでも無い感じになってしまいましたが(;^_^A
設定の補足としては、隠れ両想いのギイと託生に感づいている章三各々の卒業前の心の声・・・と言った感じです。