お伽話の王様の宝物なら、キラキラと輝く大きな宝石の付いた王冠に、宝箱から溢れる程の金銀財宝。

ドラゴンを倒した宝剣やユニコーンの角笛。

そんな、誰も目にした事の無いような想像するだけでも溜め息を吐いてしまいそうな物が沢山に違いないけど、今、私がいるのはお伽の国でも無くただつまらないだけの現実。

一様世界には王様と呼ばれる人はいるけれど、私には無縁だしきっと夢の様な宝物も持ってはいないはずだわ。

だからきっと私の目の前にいるこの人もそんな宝物は持っていないと思う。

パパとママに連れられてやって来たパーティは退屈で、お料理だって気取った物ばかり。

子供が楽しめるものなんて一つもないし、そもそも私と話しの合いそうなその子供がいない。

いるのは年上の大人ばかり。

選択肢はゼロ。

余所行きの服に着られた大人達だらけの会場を私は退屈任せに歩いていた。

「おっと、すまないお嬢さん」

だからこんな風に誰かと時折ぶつかってしまう。

「こちらこそごめんなさい」

お行儀良く謝って、そのぶつかった人を確認すると、そこには今まで見た男の人の中で一番綺麗でカッコイイ人が立っていた。

「退屈なのかい?」

「ええ、少しだけ。でも大丈夫、何とか楽しむわ」

わざわざ膝を折って視線を合わせてくれたその人は、お伽話の中の王子様みたいで、私はドキドキしてしまう。

だって、生身の人間なのにこんなにも完璧だなんて。

「そう?じゃあ気を付けて」

微笑んだ顔も優しい声も本当に素敵で私はしばらくその人を目で追っていた。

「あの人は誰かしら?」

ここにいる大人達の中で誰よりも目立っているし、皆あの人を取り囲む様にして近寄っている。

「もしかして、王様かしら?」

多分、そうだと思う。

いいえきっとそうだわ!!

王様なら王冠も金銀財宝もきっと持っているに違いないわ。見せて欲しいとお願いしたら、あの優しい王様は宝物を見せてくれるかしら?

「王様、ねぇ、王様」

私はさっきの綺麗な男の人、王様へと声を掛けた。

「おや、さっきのお嬢さん。王様と言うのはオレの事かい?」

「ええそうよ。私の知る限りの大人の中で貴方ほど王様に相応しい見た目の人はいないわ」

照れるでもなく、私をからかうでも無く、とても楽しそうに王様は笑ってみせる。

「そうかい。で、何の用かな?」

「王様の宝物を見せて欲しいの」

「宝物?どうして?」

「お伽話の国の王様は王冠に金貨に宝石に、素敵な物を沢山持っているでしょう?あなたのような人ならきっと誰もが羨む凄い宝物を持っていそうだからそれを見せて欲しいの」

「乙女の好奇心と言うわけだね」

「ええ、そうよ」

別に欲しい訳じゃない。

私はただ見たいだけ。

「そうだなぁ」

少しもったいぶって王様は、

「君がナイショに出来るなら特別に見せてあげよう」

そう言ってウィンクを一つして大きな手を差し出してくれた。







「その子どうしたの?迷子?」

「いや、」

連れてこられてのは中庭へと続くテラス。そこには男の人が一人。

男の人なのに目が大きくて唇も赤くて、もしかしたら女の人なのかしら?

その人は私と王様に気がついて、それから私をとても不思議そうに見つめてくる。

「オレの宝物を見たいんだってさ、乙女の好奇心なんだそうだ」

「宝物なんて持っていたの?初耳だ」

「そうか?」

「うん。今までそんな話聴いたこともないし、見たことも無いよ。で、それはどこにあるの?」

そう!肝心なのはそこ!!

「オレのすぐ側。手の届く場所に」

いつの間にか解かれていた大きな手はどこでしょう?とジェスチャーしてみせてくる。

王様の手の届く場所にある物。

小さな私、中庭の花々、目の前の男の人。

ああ、もしかしてポケットの中に隠し持っているとか?

皆の人前では見せられないから人気の無いここへ来たってことね!

「胸ポケットの中?」

「残念。ポケットには入らない」

「じゃぁ・・・この広い庭。含むお屋敷全部?」

「お金では買えないよ」

「ナゾナゾね」

王様の大切な宝物だから、そう簡単には見せては貰えないのね。

「ヒントは他にもあるのかしら?」

「ヒント?そうだな・・・オレは宝物を手に入れるまで十年くらい月日を要したし、今は失わない様にいつも警戒している」

「とても大切で大事なのね」

「あぁ、オレの命と言っても過言じゃ無い。失えば生きていけないくらいに必要なモノだよ」

「何だろうね?」

男の人も腕組みをして一緒に考え始めてしまう。

お友達にも分からない物なのね。

例えば・・・恋人?とか?

でもここに王様の恋人らしい人はいない。

もしかしたらいないんじゃなくて、隠れていて見えていないだけなのかしら?

「王様の宝物は恋人?」

「王様?君が?」

「この彼女がそう呼ぶんだ。お嬢さん、正解だよ。オレの宝物も最愛の人だ」

「でも、それらしい人ここにはいないわ」

もう一度注意深く辺りを見渡してもここに居るのは私達三人だけ。

「・・・ギイ、君ねぇ」

「だって、事実だ」

ギイと言うのね、王様の名前は。

でもどうして男の人は呆れているのかしら?

もしかして?!

でも、王様も男なのに?

そんな事って・・あるのかしら??

「お嬢さん、紹介しよう。オレの宝物にして最愛の恋人」

うやうやしく頭を下げて王様は男の人に手を差し出している。

「混乱させてしまってごめんね」

私に小さく謝って、男の人はしぶしぶとした雰囲気でその手を取っている。

その瞬間の王様の顔は本当に幸せがあふれた笑顔。

「挨拶回りはもう良いの?」

「ああ。彼女のおかげで抜け出せたよ。だから託生が良ければこのままフェイドアウトしようと思うんだが?」

「僕はどちらでも良いけど、良いの?」

「良いから言ってる。と、言う事でお嬢さん、誰かに何かを訊かれても」

「ええ、知らないって言っておくわ」

「ありがとう」

微笑んで、王様は男の人をエスコートしながら中庭へと降りてそのまま歩いて行ってしまった。


私の想像していた宝物達は本当にこの世界には無いのかもしれない。

でも、人にはそれぞれ色んな宝物があるんだって分かった。だから、私は私だけの宝物を探す事にした。

王様みたいなステキな宝物を。





fin






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ただただ、ギイの宝物は託だよって話を書きたくて。