一日目はのんびりと観光バスに揺られながらあちらこちらを見て回るミニツアーに参加した。
島の史跡を巡ったり、屋台が並ぶ市場を覗いてランチを食べたり。
ギイは屋台のフードを片っ端から胃に収めとても満足そうにしていたけれど、僕はそのギイの食べっぷりをみているだけでお腹がいっぱいになってしまって、思う程食べれなかった。
二日目はクルーズ。
船は申し込んでおけば借りる事ができるらしくいつの間に免許を取ったのか、ギイが舵を取っている。
「本当に、何をやっても似合うんだから」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてないけど」
眩しい太陽、潮風の匂い、不規則なリズムで揺れる船。
「ここらで止めるか」
エンジンを切ってギイが僕の隣に腰を下ろす。
海のど真ん中。
島から随分と離れたようで島影すら見えない。
「で、何するの?」
「何したい?少し泳いでも良いし、釣りとか。なんなら、」
すっと身を寄せて来るギイが一瞬で纏った雰囲気が甘い。
「ここで?」
「ダメか?」
「うーん」
「ここにはオレと託生だけだ」
なんてキスを仕掛けて来る。
「いつもと違うシチュエーションも良いと思うんだ」
確かにここは日常ではないけれど。
「な?」
すっかりとその気になってしまったギイをどうにかする術を未だ僕は持ち合わせていない。
「少しだけなら」
だから、甘い誘惑にあっさりと降参してしまう。
「愛してるよ」
僕へ射す陽射しを遮るようにギイが重なり影になる。
それからはもう、いつものように途中から訳がわからなくなってしまっていた。
「このまま泳ごうか?」
ギイの言うこのままとは、裸のままで・・・と言う事だ。
「やだよ」
「流さないと気持ち悪いだろう?シャワーはないんだから」
「やーだ」
ギイじゃあるまいし、誰がいなくとも何も身につけず海になんて入れない。
「誰もいないのに」
小さく笑って、ギイは海の中へ飛び込んでしまう。
「入っちゃったし」
「ふぅー。ほら、託生も来いよ!気持ち良いから」
「だから良いって、」
なおも続く勧誘に僕はパンツを履いて本当にその気は無いとアピールする。
「ちぇっ、」
もの凄く残念そうに口を尖らせてギイは深く潜ってしまう。
そして、なかなか上がって来ない。
ギイは運動神経が良いからきっと泳ぎも達者だろう。だから素潜りもなんて事もないのかもしれないけれど、それにしたって上がって来ない。
もしかして足が攣って上がって来れないとか?
心配になった僕は船のへりから海を覗く。
「ギイ?・・・ねぇ、ギイっ!!」
更に身を屈めたその時、ぬっと手が伸び僕を海中へと引きずり込む。
「!?」
上がる派手な水音。
何が起こったのか一瞬分からない僕は手足をバタバタ。
「大丈夫だから、ほら、落ち着けよ」
「もっ・・・・何するんだよっ!!」
危ないし、上がって来ないギイに怖くなっていたのに。
「ギイのバカっ!!」
パシャパシャと水を叩く僕の手を掴んでギイが、
「そんなに怒るなよ」
とキスを仕掛けてくる。
しょっぱいキスに思わず眉が歪む。
「パンツ、濡れたじゃないかっ!!」
「帰るまで干しとけば乾くさ」
悪びれないギイの片手が器用に僕のパンツをずらす。
「何してんだよっ!」
「脱がしてる」
「それは分かってる!」
「海の中でしたらどうなるのか、知りたくないか?」
「・・・・・」
「浮力が邪魔して動き辛いのがまた良かったり、いや、海水が染みて痛いかもな。どう思う?」
「どうも思いません!ヤリたいなら一人でどうぞ」
ギイの腕から逃れるように一度潜って、それからは急いで船に戻り上り込む。
「逃げられたか」
そうは言いつつギイは楽しそうで、もう怒る気もないくらいに僕は呆れてしまった。
帰りの船上で僕はすっかりと眠っていたらしい。
気がつくとホテルの部屋のベッドの上だった。
海水でベタついていたはずの肌はサラリとしている。
「ありがとう」
それをしてくれたのはギイだろう。
だから素直な気持ちが零れ出る。
でも、それを受け取ってくれる相手は近くにはいない。寝室からリビングに足を向けてもやっぱりいない。窓の外はすっかりと闇に包まれて、部屋の置き時計を確認すると十一時を随分と過ぎていた。
「我ながら寝過ぎだな」
テーブルの上には軽食が置かれていて、これもギイが用意してくれたに違いない。
こうやってギイは何でもないように僕を甘やかしてくれる。それが嬉しくもあり、申し訳なくもあり。
「戻って来たらありがとうを言って」
それからキスをしてあげよう。
積極的な僕にギイは少し驚いて嬉しそうに笑ってくれるはず、それから・・・また。
でもその夜、その“また”は訪れはしなかった。