いつもと違う環境で二人きり。
ウキウキしているのはオレだけなのか、託生は何ら変わらない。
感じた温度差に拗ねた所でさっきの様に子供扱いされるのが嫌でオレは大人しくしている。
「退屈?」
「別に」
「そう、」
バイオリンを弾く託生をオレは飽きる事なく見つめている。一曲終わると託生はオレに問い掛けて、また違う曲を弾き始める。
何曲かその繰り返し。
バイオリンを弾いている時の託生は凛としていて、物凄く綺麗だ。
オレはいつも心奪われ見惚れてしまう。
そして思う、この人をしっかりと捕まえておかないとオレの手の届かない所へ行ってしまうんじゃないかと。
そんな事を思うのはもしかしたら直接好きだと言って貰えていないからかもしれない。
「なぁ、」
小さく呼んでも音に集中している託生は無反応。
「なぁ、託生はオレの事・・好きだよな?」
キスもして、一度だけどセックスだってした。今もこうして誰もいない場所で二人きりで過ごしている。
好きじゃなければこんな事絶対に有り得ない。
アレだよな?
オレが生徒で託生が教師だから、だから明確な言葉をくれないだけだよな?
な、託生・・・・・・。
「ギイ?」
そろそろ今日は終わりにしようと手を止め振り返るとそこにはうたた寝をしているギイの姿。
音を立てないようにバイオリンを手入れして片付けて、それからギイの側に座り込む。
「可愛いなぁ」
いつもは澄ました顔をしているのに、寝顔は年相応で可愛らしい。
「睫毛も案外と長いんだ」
普段こんなにも間近でまじまじと見る事が無いから新たな発見が楽しくて嬉しい。
皆の人気者で好意を寄せる人間ばかりの美男子なのに、年上の見た目もごくごく普通の僕の事が好きだと言ってくれる。
一度噂になっていた高林に限らず、いや性的な嗜好に偏りがないのであればわざわざ男と付き合わなくても良いわけだ。
言い寄ってくる相手が気に入らなければ好みの女性なりに声を掛ければギイなら問題なく恋人になれるだろう。
「どうして僕なんだい?」
額にかかる前髪を指先でそっと払いならが問い掛ける。
「どうしてだと思う?」
その指先はしっかりと覚醒したギイに掴まれてた。