鑑賞会も終わり気付けば迫る夏休み。
テスト期間なのに家の用事でなんて本当なのか口実なのか休んだギイは今回も後日一人で再テストと言う事になった。
どちらにしろ少しの面倒さとそれより大きい嬉しさを感じている僕がいる。
好きだと言えない所為なのか想いは日々増大の一途を辿っていて、例えば偶然に廊下ですれ違ったり目が合ったりするだけで僕の胸は忙しくなる。
「遅れてすいません」
「良いよ、別に」
土曜の放課後の音楽室で二人きりなんてシチュエーションは僕らには定番で、うっかりとテストをすると言う目的を忘れてしまいそうだ。
「で、何を歌うんだい?」
課題曲は三曲、定番曲二曲とクラシックから一曲。クラシックは完全に僕の趣味で、果敢にトライしてきた生徒は数えれるくらい。
「翼を下さいで、」
「そう、じゃあ良いタイミングで合図をくれる」
叶うなら翼広げ空を飛んで行きたいと願う歌は自由を求める人間の歌、この先避ける事の許されない道が待つギイがこの歌を歌うのは自由に生きたいと願う気持ちからだろうか。
緩めていたネクタイを締め直し、深呼吸をしてギイが真剣な目で僕に頷く。
それを合図に僕はピアノを弾き始める。
この一年程でピアノの腕も前より上がった気がする。
バイオリニストとして、音楽家として万が一舞台に戻れなかったその時はすっぱりとバイオリニストをやめてピアノ講師にでもなってしまおうか。
・・・なんて下らないな。
バイオリンしか僕には無いと言うのに。
今日もまたなかなかに個性的な歌声響かせているギイは真剣だし、この歌声も慣れてしまえば味があって悪くもない。
「・・・・・はい、お疲れ様」
「ありがとうございました」
「今回も大変真面目に大きな声で歌えました」
「kidsみたいだ」
「今の子供達の方が凄く上手いと思うけどね」
採点をノートに書き込む僕の横に座るとギイがおもむろに鍵盤を弾き出す。
「弾けるの?」
「少しだけなら。オレって器用だからさ」
「自分で言うんだ」
曲はきらきら星。
こっちの方がよっぽど子供だ。
「そこの指使いはこう」
一オクターブ上で僕もきらきら星を弾き始める。
「こう?」
「うん、」
弾きながら、
「誕生日プレゼント、何か欲しい物はある?」
「くれるのか?」
「ストラップのお返しにね」
「なんでも良い?」
「無理のない物なら」
「なら・・・、」
止んだ音色、僕へと向けられている視線に僕の指も止まる。
「託生が欲しい」
「ギイ、」
「約束だってしてる」
重なるだけのキスを仕掛けて来たギイの目はテストの時よりも更に真剣で、そこには少しだけ熱っぽさも混じっている。
「・・・・詳細はメールするよ」