当日、ロビーには多くの花が並んだ。
大きく派手な物はFグループ絡みの企業や個人からだが、こじんまりとした物は託生や氷上さん、マリーンやトーニオそして久美ちゃんへ贈られた花々だ。
その花達を背に開場前、記念撮影と簡単な記者会見を開いた。
それは久美ちゃんへの想いを伝えたいと言う奏者四人の希望もあっての事だが、彼女を死に至らしめた病気への理解とドナー登録を呼び掛ける意味もあった。
その事にクラシックの業界誌だけでなく、オレ方面のビジネス誌も招きはした。
が、前者は託生と久美ちゃんの美談を、後者はオレと託生の関係を訊き出そうと必死。
託生と久美ちゃんの話は今回のコンサートの核となる話だから良いが・・・・。
「崎さんと葉山さん、お二人の関係は?」
「色んな噂が出回っているようですが、本当の所はどうなんでしょう?」
あからさまに目をギラつかせる記者達。
「色んな噂、と言うのがどう言うモノなのか分かりかねますが・・・今回のコンサートとプライベートな話は関係ないのでは?」
微笑んだオレに相手は何も言わなくなる。
横に立つ託生が、
「ギイ、目が笑ってないよ」
そう、小さく呟く。
当たり前だ。
こんな素晴らしい日にくだらない事を訊ねてくる輩など相手にするまでもない。
むしろ、即刻この場から追い返してやりたい所だがそれはそれで後々面倒な事になる。
託生はオレの愛人だ何だと、どうでも良い噂を肯定する事になりかねない以上、牽制してやり過ごすに限る。


控え室に引き上げて寛ぐ面々。
後二時間もすれば幕は開く。
『下世話な話に関しては日本も礼儀がないんだな』
そう言ったのはトーニオ。
『噂話好きは万国共通だよ』
『祠堂なんてマッハ3だったものね〜』
『マッハ3?』
しみじみと呟いた託生にマリーンが首を傾げる。
『噂の浸透速度。娯楽が少なかったからな』
『そうだね〜』
『にしても、ハッキリと婚約していると言えば良かったじゃないか』
『日本は同性間の婚姻が許されていないし、その辺りの事に関してはまだまだ発展途上だから託生のキャリアに傷が付くんだよ』
『伝統と歴史のある国は閉鎖的になりがちですものね、色々と』
『昔は男色は当たり前だったんだけどね』
『そうなんだ。まぁぼくは気にしてないけどね』
『オレが気にする』
オレとの事を公表する事で託生がこれまで築き上げて来たものが壊れるのは許せない。
こういう事は公然の秘密である方が良い時もある。
『折角の日に悪目立ちも嫌だろう?』
今日の主役はオレ達じゃない。
『うん、そうだね』
頷く託生に他の皆も力強く頷き微笑む。
『では皆さん、宜しくお願い致します』