前回<<          >>次回

------------------

「白熱光 INCANDESCENCE」 グレッグ・イーガン 著

山岸真 訳 出版社:早川書房 ISBN:9784153350120

 

 

 

 

あらすじ:『はるかな未来、150万年のあいだ意思疎通を拒んでいた孤高世界から、融合世界に住むラケシュのもとに、使者がやってきた。衝突事象によると思われる惑星地殻の破片が発見され、未知のDNA基板の生命が存在する可能性があるというのだ。その生命体を探しだそうと考えたラケシュは、友人パランザムとともに銀河系中心部をめざす!周囲を岩に囲まれ、〈白熱光〉からの熱く肥沃な風が吹きこむ世界〈スプリンター〉の農場で働くロイ―彼女は、トンネルで出会った老人ザックから奇妙な地図を見せられ、思いもよらない提案をもちかけられるが……現代SF界最高峰の作家による究極のハードSF』

 

------------------

ー高難易度!究極のハードSFー

読み終わるのにかなり苦労した。読んでは戻り、読んでは戻り…。設定もさることながら、全体的に小難しい印象が強く、何度も本を閉じ「これはいったんリセットしよう」と気分を変え別の本を読む。買ったのはリアルタイムで2013年だったのだが、積んでおいていつか読もうと思っていたらあれよあれという間に月日は経っていた。気づけば2017年に...。ようやく読み終えたというわけだ。

 

物語は二つの視点から語られている。一つはほとんどが情報生命体になったはるか未来の住人が、未知のDNA基板をもつ生命体の情報を入手し、その生命体を探しに行くというものと、スプリンターと言われるところに住む(人間っぽく書かれているがどことなく蜘蛛っぽい部分のある)人々がじぶんたちの惑星の姿を知るべく調査をはじめ、そこから自分たちの惑星に迫る危機を予見し奮闘していくという物語である。

 

これらが交互に描かれていくわけなのだが、そこには壮大なミスリードが含まれているなどかなりギミックとしては手の込んだことをしている。

ー数式って凄いと実感する!ー

また、スプリンターの人々は科学的知見というものがあまりないので、とにかくいろいろな科学事象を言葉で説明するのだが、それがまた難しい。序盤に重力についてのあれこれを方向とかスプリンター世界の専門用語を交えて討論するシーンがあるのだが、これが読んでいて頭が痛くなるというかその時初めて「あー、言葉であーだこーだというのが面倒だから数式っていうものが生まれたんだな」というのを痛感させてくれる。

 

言葉でうだうだと言っていてもそれを証明するにはより「簡素」なものが望まれるのはおそらくこういう事なのだろうというのがよくわかるシーンである。なので、当初はスプリンター世界の話はかなり敬遠しがちになる。どちらかというと情報生命体のラケシュたちの話のほうがワクワクするくらいだ。ところが、後半になるとスプリンター世界の「崩壊」という非常事態が描かれ、ここからはその複雑でよくわからないなぁと敬遠していた世界の物語が急に面白くなっていく。

しかも、世代が下るにつれどんどん科学的知見や「煩雑な理論」がスマートな形となって認識されていくところに静かな感動を得る。あぁ、生命というのは危機に直面した時に大きく成長するのだなと。

ー安心の解説群!ー

とにかく情報量がひたすらに多い作品であった。そのため、やはり理解や想像が追い付かない!やっぱりダメじゃん!!

ご安心あれ!

この物語は解説にもかなり力が入っている。本書に解説が書き込まれているというよりも、補足するためになんとHPが開設されていたりする。

http://gregegan.customer.netspace.net.au/INCANDESCENCE/Incandescence.html

 

もちろん、日本でも本書の解説がある

⇊。

http://d.hatena.ne.jp/ita/00000101/p40

https://togetter.com/li/601225

(ここで上記HPが紹介されていました)

 

今まではそれなりにでも「あー、こういう事でしょ?」というある種の雰囲気で読んでいたところを「きちんと理論づくめで書いているんだぞ」と作者のこだわりと情熱が伝わってきますし、その作者の思いにこたえる形で国内でも本書をより理解するために行動を起こしてくれるとはなんと素晴らしいことか。今までこんなSFであったことがない!

圧倒された、すべてにおいて。

ーこれぞ極上のSF体験!ー

究極のSF体験。それは、ハードルとしてはもちろん高かった…でも読み終わったとき、今までにないSF体験ができるのは間違いないといえる。

是非ともお時間があるときは読んでいただきたいですし、仮にわからなくてもまずは読み切って、解説を読んで「え!そういう事だったの!!!」ってなるのもいいですし、「そうか、こうとらえてここは読めばいいのか」と解説書を片手に読み進めていくもよし。

 

某ゲームで使われたためにこの言葉を使うとひどく嘘くさくなりそうであまり使いたくはないですが読み終わったとき、間違いなく、

 

「極上」のSF体験ができると思いますよ。

 

といったところで今回はここまでとしましょう!