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「禁涙境事件 some tragedies of no-tear land」

上遠野浩平 著 出版社:講談社

ISBN:406182404X 値段:920円(税別)

禁涙境事件 ”some tragedies of no-tear land”/講談社
¥966
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あらすじ:「涙。―それは誰もが流すもの。たとえ禁じられても、こらえきれず溢れる…。魔導戦争の隙間にあるその非武装地域には、見せ掛けと偽りの享楽と笑顔の影でいつも血塗れの陰鬱な事件がつきまとう。積み重ねられし数十年の果てに訪れた大破局に、大地は裂け、街は震撼し、人々は喪った夢を想う……。そしてすべてが終わったはずの廃墟にやってくる仮面の男がもたらす残酷な真実は、過去への鉄鎚か、未来への命綱か……?」


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今回も久々のシリーズです。事件シリーズの第4弾です。今回は単品でももちろん楽しめるのですが、どちらかというと、後の事件へと繋がる部分もあり、次に刊行される「残酷号事件」をそのまま読むとスッキリするかもしれません。残酷号というキャラクターがいきなり登場し散々暴れまわった後にED達がくるため、「残酷号って何者?」って人達が大半でしょう。


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今回の構成スタイルは、過去の事件を紐解いていきながら事件を解決していくというスタイル。これは上遠野さんが最も得意とする「オムニバス」形式ですね。一見関わりが見えない過去のそれぞれの事件。ともすれば、「残酷号」が破壊して回った街、禁涙境の思い出話にしかとられない過去の凄惨な事件の数々。それらが、この禁涙境の崩壊をもたらすことに繋がっていたかもしれないという最終的には壮大なストーリーになっていくのは事件シリーズならではですよね。


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事件シリーズは「ミステリィなの?」とか良く思うのです。今回だってミステリィと言われればミステリィかもしれないですが、正直言ってミステリィよりも禁涙境という街の思い出話。そこが読んでいて非常に面白い。どのようにこの街が発展していき、最期を迎えるに至ったのか。この街の歴史の中には、過去の作品に出てきた「ニーガスアンガー」が出てきていたり、「ミラル・キラル」が既に街の崩壊を予期していたり(だからと言って何かすると言えば何もしない。流石、ミラル・キラルである)と事件シリーズを追ってきた人ならば「おぉ、お前、こんな所にまで出張ってきてたのか~」と笑ってしまいそうになります。毎度そうなのですが、上遠野さんは過去作のキャラを使い捨てるどころか、株が上がるように描かれるのがもう何とも憎い演出と言いますか。読んでいてこちらも嬉しくなります。


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今回の事件の犯人は確かに「最悪」としかいいようがないのかもしれない。動機が動機ですし。「むかついたから殺した」よりも「性質が悪い」。相当に性質が悪いですね。一体、この犯人の動機のためだけに何人が犠牲になったことか…。しかしながら、人間の中には時としてこういう感覚が産まれてくるものなんでしょう。僕はそういう感覚に陥った事がないから分からないのですけれどね。ただEDからもたらされるこの禁涙境でおこった事件の真相は正直言って「ないわー。この犯人ないわー」と全力否定できる。ただ、やはりミステリィという枠組みで見たら正直言って「弱い」という人が多数なんだろうな。


「しずるさん」含めてそうなんだろうけれど、基本的に上遠野さんが思うミステリィって微妙にミステリィファンからすれば「反則だよ」って思われるんだろうなぁ。僕はむしろストーリーで読ませるタイプのミステリィだと思っているので、感想というか受け取り方までは僕も何とも言えないんだよなぁ。


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EDは相変わらず無茶して身体をボロボロにしながらも真実に辿りつこうとするわけです。しかし、今回の謳い文句「仮面の戦地調停士の過去が明らかに…」ってそこまで明らかにはならなかったなぁと。確かに小さな頃からヒースとEDはここの街にいたみたいだけど、むしろそこの二人の出会いが知りたい所。


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と、ひとまず「禁涙境」での事件は終了する訳ですが、これと並行しているのが「残酷号事件」。Next issueという所に書かれたこのタイトル。しかしながら、刊行されるまでかなり待たされるとはね~。こうすぐにポポーンと出されると思ったのにねぇ。事件シリーズは「残酷号」だけでなく、造るのが大変なのかもしれないね。現在刊行が期待されている「無傷姫事件」もまだ「一文字も書いてない」らしいですしね・・・。


ただ、「残酷号事件」は上遠野さんの中でも「構想18年」というもうそれはそれはデビューするよりも前からずっと頭の中にあった物語なわけですから、色々と思い入れのある作品だと思いますし、だからこそ、どう描くかについては相当悩みに悩んだ末に刊行が遅れたのだと思います。


さて、その「残酷号事件」もいつ紹介出来るのやら…。来年には出来ればいいですね。


それでは、また次回。