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「百年文庫(011) 穴」 カフカ、長谷川四郎、ゴーリキイ 著

出版社:ポプラ社 ISBN:9784591118931 値段:788円(税込)


(011)穴 (百年文庫)/ポプラ社
¥788
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あらすじ:「檻の中で半眼を開き、飲まず食わずで座り続ける。そんな断食芸が喜ばれた時代は去り、誇り高き芸人は苦悩する(カフカ『断食芸人』)。完全なる静寂、闇に微かに震える翼―北方で国境警備に当たる日本兵が塹壕の覗き穴からみた巨大な生命のうねり(長谷川四郎『鶴』)。地下室でパンを焼く男たちに笑いかけるターニャ。彼女の存在は疲れた男たちの希望だったのだが…。(ゴーリキイ『二十六人とひとり』)。踏みつけられた者たちの、胸に迫る人間ドラマ。」


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今回のテーマは「穴」。そのイメージ通り、暗く狭くて息苦しいどんよりとした感じの作品群が並びます。穴というとさらに言ってしまうと、出口があるかどうかも分からないっていう感じもある。入ったら出られないかもしれない。奥に行っても何もないかもしれない。


それはまるで人生のようで先行きが見えず、自分の選んだ選択が正しいのかも入ってみるまでわからない。それが「穴」というものの特徴だと思う。そんな事を考えながら、今回は作品を読み進めていくことになりました。


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「断食芸人」…カフカの作品。初っ端からカフカというのは気がひけたが読みやすくて良かった。「変身」という灰汁の強い作品を最初に読んだせいかあまりクセのある文章だなとは思わなかった。しかし、どこか悲観的な目線が入るのはカフカらしい。「断食芸」が段々と受け入れられなくなっていくという過程は読んでいて物悲しくなった。主人公の芸人には救われてほしいと思ったのだが、そういう終わり方で無かったのはカフカらしい。最後まで芸人としてのプライドを捨てなかった生き方には小さな感動が起こった。


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「鶴」…長谷川四郎の作品。これは戦争のお話。が、いまいちピンとこなかった。戦争の虚しさのほうが強かった。「穴」というのは舞台装置みたいなもので主眼は、戦争であり、どこまで行っても救いようがないなと思った。こちらもラストはあまり良い終わり方ではない。逃げて行った彼はどうなったのか。そして主人公はあのあとどうなったのか。この作品でラストが上手くボヤかされているから、読んでいる人の感じ方でこの終わり方の続きや感じ方が変わるのだと思いました。


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「二十六人とひとり」…ゴーリキイの作品。これは完成度が高い作品だったと思う。ターニャという少女に生きる糧を見出していた二十六人の男たち。彼らは彼女を神聖視するようになっていた。ここまで読むと自分も「若い少女に希望を見いだすなんて彼らの仕事は相当大変なんだな」と思いつつも、「若い人からエネルギーを貰うっていう構図は今も昔もさほど変わらないんだな」と思ってしまった。


しかし、そこに軍人上がりの男がやってくる事で事態は一変する。ラストは個人的に「でもふっかけたのはおもえらじゃねえか・・・」と突っ込みをしてしまう位男たちが自分勝手すぎて笑ってしまった。しかし、それに凛とした態度で向き合ったターニャの姿はカッコいい。どん詰まりの中で最終的に二十六人の男たちがみせた姿というのは残念ながら綺麗とは言い難い。そう、このギリギリの時にこそ人間の本性っていうのは出てくる。


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ある意味、この本に共通して言えるのは、「どん詰まりの中で登場人物たちが決断を迫られた時、どういう決断を下すのか」ということだ。


穴というのは超えられない壁を目にした時に一旦隠れる避難場所みたいなもの。そして、穴の中から外の様子をうかがう。その壁と対峙した時に、穴倉で縮みあがるのか、それとも立ち向かうのか。


決断を迫られているその瞬間の人間の心理。


それを読みこんでいくと面白いかもしれない。


それでは、今回はここまで。


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次回も百年文庫。

テーマは「釣」。

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