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「百年文庫(010) 季」 円地文子、島村利正、井上靖 著

出版社:ポプラ社 ISBN:9784591118924 値段:788円(税込)

(010)季 (百年文庫)/ポプラ社
¥788
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あらすじ:「老いて静かな日々を慈しむ「たか子」は、かつて身を投げるような恋をした。若き日に思いかよわせた二人が深い尊敬の念を抱いて再会する『白梅の女』(円地文子)。山間の城下町に生涯を閉じようとしているウメは思い立って旅に出る。長年封じていた願いが堰を切る鮮やかな一瞬(島村利正『仙酔島』)。古墳から出土した伝説の硝子器を訪ねる旅に亡き妹への愛惜を織り込んだ井上靖の『玉碗記』。可憐な花、青い波、晩秋の雨―季節の移ろいと歳月の気品が香る三篇。」


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今回のタイトル、テーマは「季」。「季節」というものを連想させる物語なのかなという考えが読む前にはありましたが、読み終わっての感想は切り取られた「季節」というよりも「春夏秋冬」、1年

あるいはそれよりも長い時間、歳月を描いた作品群でした。読了後は「あぁ、ずいぶん遠くまで来たものだ。」と悠久の時を感じさせられる三篇でした。


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「白梅の女」…この本のテーマを正に地で行く作品。たか子がかつて愛した男は出会った時の印象が強く、別の男性と結婚したたか子の姿を見て「あぁ、この女性は変わってしまったのだ」と残念がるシーンは観ていて痛々しいけれども、なんだかそれでも「変わった君もまた良いな」と思ってしまう男心は分からないでもない。さらに、たか子が結婚した男性に対して「ここまで素晴らしい女性にしたてあげてくれてありがとう」なんて言ってしまうのも分からないでもないな。


かつての関係を結構気にしているのが男性で、女性は案外気にしないもの。そう、女性の方が割り切りが良いし、燃え上がる時は一気に燃え上がる・・・なんて女心が分からないのにそんな事言ってんじゃねえよと思いますが、最近みた「BUNGO」という映画の中の一つ「握った手」においても女性の方が割り切るのが早く男性の方がずっと引きずっている絵がありまして、なんか似ていると言えば似ているなぁ。

結構好きな部類のお話でした。


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「仙酔島」…ウメというお婆さんが旅をしながら自分の人生を振り返るお話。非常に読みやすかったです。ウメの旦那さんって正直女性としてはどうなんだろうか?嫌われてしまう感じなのではないか、今の女性がどう感じるのか気になる所です。今でもこういう男子は多いでしょうけどね。最後の船乗りの夫婦の姿を見ながらウメが一人心の中で考えている事柄は個人的にはあまりピンとこなかったのですが、でもウメの人生と夫婦のやり取りが重なった結果なのだろうと思っています。


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「玉碗記」…井上靖の作品ですが、これもなかなか。今回は全体的に当たりでしたとラストの子の篇を読み終えて確信に変わりましたね。どちらかというと、これは妹と主人公の関係というよりも、悠久の時を超えた天皇と妃のお話の方に心を動かされた感じがしますね。この二人が本当に愛し合っていたのだろうかとか妃の愛情が消えうせてしまったのは、ではいつだったのかとかとか。


こういう歴史を感じさせるお話って本当に読んでいてワクワクしてくるんですよね。そのワクワク感を物語の最後まで持たせる井上靖さん、流石ですね。妹夫婦の話が最終的に天皇と妃の物語とリンクしていく様は読んでいて本当に気持ちが良いものでした。素晴らしい!!


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今回の「季」はどれも素晴らしい完成度のものでした。一緒に借りたのが前回紹介した「夜」なのですが、好みとしてはこちらの方が好みです。「季」は3つとも日本人作家さんが描いたという所からして、おそらく感情移入などがしやすかったのでしょうかね。


では、今回はここまで。


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次回は、百年文庫(011)。

テーマは「穴」。

穴から飛び出してくる物語とは一体。

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