昨年から業務が立て込むようになって、

今年は早春から新型コロナ禍で出張や旅行を抑制。

その結果1年以上東京に行けていない。

 

東京に行くと、旧来の先輩と酒席をともにする。

向島の酒場「かどや」に行くことが多い。

互いに近況を報告し合うだけのことなのだけれど、東京の大衆の中に混じって過ごす時間がとても心地いい。

お値段手頃だし、店のセレクションが良いため全国のお酒の実力的な趨勢がよくわかる。

 

たいていそうして過ごす時間は1軒だけで終わる。

 

心地よかったり刺激的だったりした会話。

きちんと仕事された料理。

選ばれた酒。

良い時間を過ごしたのに、手頃だった支払い。

 

まだ温かい思い出を反芻しながら、

軽く酔った頭で歩いて宿へ帰る。

 

その途中。

言問橋を渡る。

長い橋を渡りながら、頭の中で反芻していた今までのことと、

これからどうして生かして行こうかという組み立てと、

思考の比重が変わる。

 

 

むかし吉原には見返り柳という木があったという。

(たいていの岡場所には同様のものがあった)

「遊びに来たお旦那が、遊郭で過ごした時間を思い出し、お店や遊女を振り返ったりしていたので見返り柳と呼ばれているのです」

そんな説明がついていたりする。

 

でも、木が問題ではない。

たぶん、気が問題なのだ。

 

気が切り替わる場所。

楽しかったところだから、これから現実に向かって気の向きを変える場所。

 

そんなところが、僕にとってはこの言問橋となる。

 

 

なお、五本けやきは板橋の川越街道の中央分離帯ど真ん中に立つ5本の欅の木。

由来を知らない人が近年「川越街道を拓くとき、この欅を切ろうとした建設関係者が々に怪我したり死んだりするのでここに残った」などと心霊スポット扱いしているが、まったく根拠がない。

無責任なデマである。

 

実際は昭和初期に川越街道を拡幅するとき、飯島弥十郎・前上板橋村村長の宅地が計画地に引っかかった。

飯島氏は屋敷林の欅を残すことを条件に土地を提供。

こうして五本の欅が道路の真ん中に残り、風情ある景観を道ゆく人にいまなお提供している。

…という美談であるし、それは今回のお話の根幹とは全く関係ないのであった。

 

 

採取地:東京都台東区浅草7丁目と墨田区向島1丁目の間

    隅田川の上空 言問橋

撮影機材:OLYMPUS OM-D E-M5

      + M.ZUIKO DIGITAL 12-50mm ED MSC