2月15日(土)のアドリブ九州では、次のような質問が出ました。

「受けようと思っている報道機関が、私の主張と違うのですがどうしたらいいですか?」

 

報道を行う新聞社やテレビ局、雑誌社などを受けるときに気になるポイントだと思います。

 

その質問で思い出したのは、就職期間とそれ以降、僕の師の一人となった毎日新聞取締役だった山崎宗次さんのことです。

いよいよ就職の時期到来というとき、早稲田でやっていた山崎塾に友人から誘われた僕。

その山崎塾は新聞記者や雑誌記者、テレビ局の記者を目指す若者が集う場でした。

会場に満ちていたのは噂に聞く梁山泊もかくやという熱気。

山崎さん以外にも、塾を卒業して実社会で活躍する先輩が教えに来てくれます。

さきに先輩方が来て指導してくれているところに、大御所のように山崎さんが登場するのが通例でした。

その登場の瞬間は、いつも会場となっている貸会議室がピリリと引き締まる感じ。結構怖かったですよ。

 

途中から広告会社志望になった僕は山崎塾の分科会であるアドリブに通うようになります。

こちらも基本的にはピリリとしているのですが、広告を目指す若者が集まっているだけあって、少し開かれた感じでした。

 

山崎さんは毎日新聞の社会部で鳴らした伝説的なジャーナリスト。

僕ら広告志望者を前にして

「広告はなあ、犬猫サーファー代理店ってなもんだ」

と言ってみたりする。

言論界ではタブーとなっている社会の4階級になぞらえた言い方ですよ。

当時はそのような毒も許される雰囲気がありました。

広告マンは犬よりも、猫よりも、ましてやサーファーよりも下だという…

まあ、サーファーの友人にその話をしたら何だか怒ってましたけど。その彼は広告マンでしたのでもう何がなんやらわかりません。

 

その山崎さんがアドリブの僕らの前で語った話が今でも忘れられません。

「広告屋はな、誰よりもジャーナリスティックじゃないとダメなんだよ」

もしかすると記者と同等か、それ以上にジャーナリスティックであれ、と。

そういう言葉として受け取りました。

 

このときの言葉がそのあと何度も僕を良い方向へ導いてくれました。

 

ジャーナリスティックというのは、単に意見を持つとか批判精神を持つとかいうことではありません。

まず、最も大事なのは一次情報に接すること。

一次情報を追い求め、それらを組み立てて世の中を読み、発信すべきことを見極めて発信すること。

思えば、マーケティングも、さらにいえばブランディングもこの作業に他なりません。

 

 

最初の質問に戻ります。

質問をした学生さんは、もしかすると差別されているという人々に直接出会ったのかもしれません。

そこで正義心が沸き起こり、主張を持ったのでしょう。

 

でも、そうなると自分の主張に都合の良い事象ばかり見えてくるようになります。

正義感に燃えるようになります。

正義感に燃えていろんな同調者の言葉を取り込み、どんどん着膨れしていきます。

現代社会の政治状況(与野党ともに)や社会状況(原発問題、エネルギー問題、パレスチナ問題、イスラム問題…論客と言われる人やSNSで声高に主張している人々とそのフォロワーの人々のありかた)を見るとわかりますね。

人が言ったことに同調している(だけの)着膨れの人のなんと多い事か。

 

涙ながらに差別されていると訴える人の、その涙は事実かもしれません。

でも背景はどうでしょうか。その人の言葉がすべて事実であり真実であるとは限りません。

そんな裏の取材まで本職の新聞記者の方はしっかりと、自分の目と耳で行うのです(たいていの場合は)。

たぶん学生さんが知らない情報まで、量も質もものすごく凌駕するレベルでものごとを調べ尽くしている。

そのうえで(どのような主張であれ)新聞社などの報道機関のアウトプットは組み立てられています。

 

ここで学生さんに必要な事は、(聞きかじりの)自分の考えを主張する事ではなく、プロの取材や情報量に対する尊重と敬意、そしてその輪の中に自分も入って、より深い取材をしていくという気持ちではないでしょうか。

 

これから報道機関を受けようという学生さんには、そのような謙虚さと、さまざまな情報や状況を受け入れる柔らかさを持ってほしいところです。

 

とはいえ、社風とかいろいろありますから、進むべき道をきちんと選んで行ってほしいなと思っています。

 

 

 

撮影場所:熊本ベース 新聞記者だった父の蔵書より

※朝日新聞社「重要視面の75年 明治12年〜昭和29年」

撮影機材:iPhone7