北朝鮮・羅津港での珍しい光景(衛星画像) | 北朝鮮の軍事情勢をウオッチしよう

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主に北朝鮮の軍事情勢や装備などを考察・解説するブログです。

著:Tarao Goo

 

北朝鮮の北東部に位置する羅津港(羅先特別市)は同国の中でも有数の港湾都市であり、日本海側では元山や清津と同様に主要な造船所がある港として知られています。

先日、今年9月9日に撮影された衛星画像(グーグルアース)が公開されましたが、今回の画像は極めて珍しい光景が確認されたため、ここに紹介します。

羅先港の造船所では、朝鮮人民軍海軍・東海艦隊の旗艦であるナジン級(531番艦)やソホ級フリゲート(退役済み)、最近ですとアムノク級(配備済み)やトゥマン級コルベット(ほぼ配備待ち)が建造されました。

いわば、この港は北朝鮮の海軍にとって極めて重要な拠点です。

 

これが9月9日に撮影された羅津港です。

 

まず、羅津港の北側を見てみます。

7月までトゥマン級コルベットが停泊していた岸壁(下の画像の中央部)を見ますと....姿が見当たりません。通常、北朝鮮の「大型艦艇」が動くこと自体が珍しい光景であるため、これだけでも特筆すべきものです。

ただし、よく見ると左側の岸壁にも船が一隻もいません。つまり、このエリアでは船が完全に姿を消しています(この画像で唯一確認できる陸揚げされた船は、約10年はこの状態です)。

 

通常、トゥマン級コルベットはこのように停泊しています。

 

次に、2016年頃からナジン級フリゲートが停泊している岸壁(下の画像の北側)を見てみましょう。

驚くべきことにナジン級フリゲートどころか、ほかの船も全く見当たりません。もちろん、このような光景が確認されたのは初めてです。

 

通常、ナジン級フリゲートはこのように停泊しています。

 

主要な海軍艦船ばかりか民間船舶すら岸壁から消えてしまったことは異常です。特に新型のコルベットと旗艦であるフリゲートが同時に動くことは完全に初めてです。

しかし、港の衛星画像をよく見ると、それらの姿を見つけることができました。

羅津港の港湾部には多くの船で溢れていることが分かります。

 

拡大すると、普段から羅津港(または付近の基地)に停泊している艦船の全てがここにいることが判明しました。

 

トゥマン級コルベットです。7月に撮影された様子と変化はありません。

この艦が海軍に配備されたのかは不明ですが、現時点で自力航行可能な能力と人員が確保されている状況を推測することができました。

ただし、主砲と艦橋の間のスペースはそのままです(RBU-1200対潜ロケット発射機が撤去されたまま)。

 

ナジン級フリゲート(531番艦)です。同艦は少なくとも昨年9月から今年3月までの間にドライドックへ陸揚げされていましたが、西海艦隊の同型艦(631艦)と同じ改修(武装の変更など)を受けていないようです。そのまま今年7月まで岸壁に停泊(放置)状態でした。この艦もまだ動くことが証明されました。

 

Fugas級です。今までトラル級と呼ばれていた艦です。同艦は羅津港から約10km南西に位置する海軍基地を拠点にしているようで、時折この港に姿を現すことがあります。超旧式ながらもまだまだ現役であることがわかります(2018年頃に整備を受けた可能性はあるが断定できず)。

 

この形式不明の艦艇は、少なくとも昨年の9月には元山近郊の文川にある基地から移動し、ドライドックに陸揚げされて整備されていました。

岸壁に戻った後もナジン級の隣に停泊されている状態にあります。

この艦も稼働状態にあることが分かります。

 

トゥマン級コルベットの北東側をよく見ると、4隻のSO,1級駆潜艇(推定)も展開していたことが判明しました。

 

これらの艦艇はどこから来たのでしょうか?衛星画像を見る限りではFugas級と同じ基地から展開したものと思われます。

この基地の名称は不明ですが、通常はFugas級1隻、SO.1級3~4隻停泊しています。この画像は今年7月に撮影されたものです。

 

問題の9月9日に撮影された画像では、これらの艦艇が不在であることが一目瞭然です。このような状況から、羅津に展開しているFugas級とSO.1級はこの基地から来たと考えて間違いなさそうです。

 

ここまで来ると「なぜ、海軍艦船が多く羅津湾内に展開しているのか」と思うでしょうが、周囲を見るとある程度は推測できそうです。

この衛星画像では、羅津港北側の山から湾内に流れる河川が土砂で茶色く濁っていることがはっきりと分かります。

遠目から見ても明らかに水が濁っている状態です。

 

北朝鮮では、9月7日から8日にかけて「台風10号」が北朝鮮を直撃・通過していたのです。この台風でも北朝鮮各地に甚大な被害がもたらされたことが報じられています。

衛星画像を見る限り、9日の時点では既に台風が通過して空が晴れている状況ですが、降雨による増水や氾濫が完全に落ち着いてはいない状況です。

おそらく、港に停泊していた艦船は、

  1. 台風の被害から逃れるべく湾内に待避していた
  2. 湾内に流れる大量の泥水などの影響を避けるべく避難していた
  3. 台風による行方不明者を捜索していた
  4. 単なる演習などの活動

と思われます(根拠はありませんので、単なる推測です)。

この前代未聞の光景からすると、台風10号による影響は相当あったのではないかと思われます。

トゥマン級コルベットについてはこのまま部隊配備へと進むのか、まだ引き渡しを待つ状態にあるのかは衛星画像が更新されるまでは不明ですので、今後も注目していく必要があります。