アーティストデモ誕生秘話(後編) | 「コジブロ」コナミ小島プロダクション公式ウェブログPowered by Ameba

アーティストデモ誕生秘話(後編)

こんばんは、玉利です。

少し間が空いてしまいましたが、アーティストデモ誕生秘話(前編)に引き続き、Spooky graphicのハヤシヒロミさんインタビューをお届けします。

『メタルギア ソリッド バンドデシネ』に端を発するアーティストデモは、いかにして洗練されていったのか?

それではさっそく行ってみましょう!


――当時はまだアーティストデモという名前は付けていませんでしたが、『メタルギア ソリッド バンドデシネ』の後、『メタルギアソリッド ポータブル・オプス(MPO)』のデモとして、同じ表現が採用されたんですよね。

ハヤシ「そうです。ただ、目指す方向性は一緒でも、やり方は結構違ったんですよ。『メタルギア ソリッド バンドデシネ』では、もともと紙のバンドデシネがあったので、その絵をどう動かすかという話だった。でも、『MPO』は新しいストーリーなので、絵も描き下ろしだったんです。とはいえ、バンドデシネを1冊作れるほどの絵の枚数が使えるわけでもなかったので」

――もともと、あの絵を動かす困難さに加え、新たなる困難が(笑)

ハヤシ「少ない枚数の絵素材でも、アップやロング等カメラワークを変えたりトリミングする部分を変えたりして、シナリオや台詞をうまく表現できるよう、本当にいろいろと演出方法を工夫しました。また、1枚の絵の中のキャラクターの関節を分けてアニメーションさせることによって、 絵の枚数をカバーする手法を多く取り入れるようになりました。新たな困難を乗り越えるべく、新たな手法を生み出していったかたちですね」

――その結果、『ピースウォーカー』ではあんなに動きまくるアーティストデモに…。

ハヤシ「頑張りすぎたかもしれません(笑)。それと、『MPO』と『PW』では作り方にまた違いがあって、アートディレクターの新川さんの意向だったと思うのですが、『PW』では最初の絵コンテをコジプロの西村(誠芳)さんに作って頂いたんです。西村さんはもともと、『ガンダムX』とかアニメ業界で活躍されていた方なので、こちらにはない発想がありましたね。ただそのぶん、いろいろな動きが必要になってくる。そこが大変な部分でしたが、結果的にはユーザーさんの評価にも繋がったと思います」

――ちなみに、いちばん見てほしい部分はどこでしょうか?

ハヤシ「CQCです! あのあたりは西村さんのコンテを非常に上手く活かせたと思います」

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――メカの動きもすごいですね。

ハヤシ「メカに関しては、カメラマップを使った部分と、キャプチャーした画像をレタッチした部分、さらにはインタラクティブ要素があったため、Flashの中で疑似的に3D表現をしたものがあります。ものすごく多くの素材に分けたものをフレーム単位で細かくアニメさせました」

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――それに関しては小島監督も新川さんも、驚くのを通り越して呆れてました。表現が高度だけに、今回は関わっている方も多いですね。エンドクレジットを見ると、意外なクリエイターの名前がいくつも…。

ハヤシ「Flash(web用のアニメーション作成ソフト)が得意な人を日本中から集めました。でも、Flashアニメですという発注はしません。Flashアニメというと、web用に気軽に作れるようなものを想像されてしまうので。目指したい表現が先にあって、Flashを使っているのは、プログラムとの親和性が良かったからというだけなんです」

――これだけ独自性のある表現をイメージできて、なおかつそれが実現できたのはなぜでしょうか?

ハヤシ「ゲームだから挑戦できたという部分もあると思います。例えばアニメであれば、スタンダードな作り方が決まってしまっていて、他のことにチャレンジしにくい。毎週放送とか大量生産するために、多くのアニメーターが同じように描ける絵になってしまう。でも、全部がセル風のアニメというのもつまらないと思うんです。それに対してアーティストデモだと、イラストレーター独特のタッチとか味が出せるのが強みです」

――一方で、最近ではフォロワーも出てきました。

ハヤシ「他ではできない表現ということで、ウチに発注が来ることもあります。ただ、コジプロのアーティストデモというのは、西村さんのコンテだったり、新川さんや小島監督のディレクションがあってのものなので、同じにはならないですね。それと、海外でも似た手法が出てきています。『ウォッチメン』などのモーション・コミックスや、ガイ・リッチーの映画『ロックンローラ』のトレイラーなんかも、アーティストデモっぽい表現がありました」

――ある意味、世界を変えるものを作ってしまったのかも?

ハヤシ「3DのCGが当たり前になって、驚きがなくなってきた部分もあるのかもしれませんね」

――CGが綺麗というだけで売りになる時代は終わって、映像自体のオリジナリティが求められるようになってきたのかも。

ハヤシ「そういう意味では、アーティストデモのような表現がもっと一般的になってもいいのかもしれません」

――最後に、『ピースウォーカー』をプレイされている方にメッセージをお願いします。

ハヤシ「今回のアーティストデモにはボタン操作があるので、緊張感を持ってデモ映像を見ていただき、楽しんでもらえると嬉しいです」

――本日はありがとうございました。


というわけで、アーティストデモ誕生秘話、いかがでしたでしょうか?

さまざまな苦労と挑戦、感性のコラボレーションで生まれたものであることがご理解いただけたのではないかと思います。

小島プロダクション+Spooky graphicならではの、アーティストの個性を活かした絵の味わいと、観るだけではない緊張感を存分にお楽しみください。ピース!