みんなのメタルギア

「みんなのメタルギア」――
これは、2006年に発売した「METAL GEAR SOLID PORTABLE OPS」の前身である企画草案書に書いた仮タイトルです。
PSPでも「本格的なアクションゲーム」を創れるという判断の元、僕が企画草案を書きました。
「AC!D」の次に狙うのは携帯型の本格的な諜報アクションゲーム。それがPSP版MGSのコンセプトでした。
しかし、いくら「本格的なMGS」と云っても、携帯ゲーム機ならではの特徴を打ち出さなければなりません。
そこで、時間の余裕もないという事で、別のオリジナルタイトル用に僕が暖めていた企画要素を「PSP版MGS」に持ってくる事にしたのです。
それが「みんなのメタルギア」です。
ここで「メタルギア」となる前の、元の企画素案に少し触れたいと思います。
ゲームを購入し、電源を入れて、ゲームを立ち上げると、その世界にはプレイヤー以外、人は誰もいません。
プレイヤーは物語を進めながら、いろんな人や世界と出会う事で自分世界の住人を増やしていきます。
住人の中から仲間を創ります。仲間は誰でもプレイヤーとして使えます。
ただし、コンティニューはありません。ゲームオーバーになると、一度死んだプレイヤーは二度と使えません。
プレイヤーは物語モードや対戦、協力プレイ、すれ違い、AP兵(OPSであった、アクセスポイントに接続すると仲間になる兵士)など、様々なコミュニケーションを経て、仲間を増やしていきます。
簡単に言うと、最初は一人だった世界からスタートし、PSPを携帯し(持ち歩き)、実世界の人や土地とコミュニケーション(接触)をはかることで、他のPSPと干渉し(出逢い)ながら、仲間(世界の住人)を増やしていくというゲームなのです。
遊べば遊ぶほど、実世界と関われば関わるほど、ゲームの世界の登録住人は増え、それが最終的には自分の仲間(部隊)となります。
そして、部隊を創るには自分が現実に生きている「みんな(人や地域)」との関係が重要になってくるのです。
対戦して仲間をゲットするというのではなく、人と知り合えば、その人が自分のPSPに登録され、自分の世界に出現するというシステムです。
例えば、AさんがBさん、Cさん、Dさんとそれぞれのプレイヤーの生死をかけて、対戦したとしましょう。
その際の勝敗は勿論ありますが、死ぬとそのプレイヤーは帰ってきません。
ですが、そこで接触した他のプレイヤーキャラはそれ以降、仲間にならずとも自分のPSP世界に実在するようになります。
そうやって自分の世界の登録者を100人、500人、1000人と増やしていく、そんなシステムです。
人や土地と関与すればするほど、街の住人が増えていくようなイメージです。
その登録者を仲間にする為に物語やイベント、ミッションがあります。また対戦や協力プレイがあるのです。
このアイデアをMGSに持ち込んだ企画が「みんなのメタルギア」でした。
MGS4の準備で忙しかった僕はその後、この企画を自分以外のプロデューサーとディレクターに委ねました。
そして、紆余曲折して生まれたのが「METAL GEAR SOLID PORTABLE OPS」になります。
当初の草案書とはかけ離れたものにはなりましたが、「OPS」は2006年年末に発売され、僕が監督していないMGSとしては最大のヒットを飛ばしました。
翌年にはミッションを付加した「OPS+」を発売、PSPでは名の知れたブランドとなったはずです。
そして今回の「PW」は自分で監督は勿論、ゲームデザイン、脚本、演出、舵取り、スケジュール管理、プロデュースに至る全てを兼務します。
一時期は「OPS」同様、企画を誰かに委ねるはずだったのですが、いろいろな事情が重なり、「そうであれば今回は最後まで自分でやる!」という決断をしたのです。
自分でやるからには、どのプラットフォームであっても妥協はしたくはありません。
だから「PW」は「みんなのメタルギア」とは異なりますが、OPSの続編でも、普通の据え置き型MGSの続編でもありません。
「PW」は携帯ゲーム機ならではの、新しいMGSになるはずです。
僕の描いた新しいMGSが「みんなのMGS」になる事を期待します。