カワセミの構造色 | 構造色事始

構造色事始

構造色の面白さをお伝えします。

イメージ 1

「空飛ぶ宝石」、「清流の宝石」などと呼ばれるカワセミは、バーダー達の憧れの鳥の一つであろう。背中から腰にかけてのライトブルーの羽、長いくちばし、ダイビングして魚をとる姿などは、いつ見てもうっとりとしてしまう。カワセミはブッポウソウ目に属する鳥で、英語ではCommon Kingfisherと呼ばれ、ヨーロッパ、アジア、北アフリカまで、世界中に広く分布している。

イメージ 2

イメージ 4

イメージ 3

このライトブルーの色が構造色によるものであるということは広く知られている。しかし、この色はタマムシなどの構造色と比較すると一風変わった性質を持っている。タマムシの場合は傾けて見てみると、緑色だった部分は青色に変わり、さらに傾けると紫色にまで顕著に変化していく。赤い部分も同じように緑に変わっていく。このように色が変化していく現象は、よくiridescence(イリデセンス)という言葉で表される。カワセミの場合は見る方向による色変化が少なく、いつもライトブルーのままである。この現象はiridescenceに対して、non-iridescence(ノンイリデセンス)と呼ばれている。この方向によらない構造色の仕組みを解き明かそうと、今、世界中で研究が進んでいる。

【解説】
カワセミの青い羽(山階鳥類研究所提供)を観察してみよう。鳥の羽の中心の軸を羽軸(うじく)といい、そこから枝のように出ている部分を羽枝(うし)と呼ぶ。カワセミの羽は中ほどより先端部分は青くなっているが、根元側は黒褐色である。

イメージ 6イメージ 5
イメージ 7

さらに拡大した写真を上に載せるが、青く光っているのはこの羽枝の部分であることが分かる。羽枝から細かい毛のようなものが出ているが、これを小羽枝(しょううし)と呼んでいる。クジャクを始め、ほとんどの鳥の色は小羽枝がもっと太く長くなり、お互いに重なるように並んで羽全体を覆い色を出しているが、カワセミの場合は羽枝が発色の原因になっている。

イメージ 8

羽の裏側から見ると上の写真のように黒っぽい。つまり、カワセミのライトブルーは表側だけなのである。この黒っぽい色はメラニンによるもので、表側から見たときに青をくっきり見せるために重要な働きをしている。

羽枝の内部を走査型電子顕微鏡で観察してみよう。

イメージ 9

普通の構造色は規則正しい構造に光が作用して、独特の色を作るのであるが、カワセミの羽枝の内部はこのようなランダムなネットワーク構造になっている。そこに規則性が見られないので、古くから光が散乱することにより青色が出るという意味で、チンダルブルーといわれてきた。しかし、どの色の光が強く反射されているのかを調べてみると、青色にピークを持つような光であるので、科学者の間でもチンダルブルーという考え方に疑問が生まれ始めていた。

1998年、アメリカのプラム教授らは、ノドムラサキカザリドリという鳥の羽の中に同じような構造を見つけ、この一見ランダムな構造の中にもちゃんと規則性があって、その規則性が色を作り出しているのだという説を発表した。たしかに、上の電子顕微鏡写真をよく見ると、構造をつなぐ棒の長さや太さ、また、穴の大きさは完全にはランダムではなくて、だいたい揃っているようにも見える。彼らはいろいろな鳥や昆虫、動物の構造を調べ、このような法則が普遍的に成り立っていることを実験的に証明した。現在では、一見ランダムな構造ではあるが、その中に規則性を潜ませた構造は、方向によらない構造色を作るために重要な構造であると考えられ、工業的な応用を始めとしたさまざまな研究が進んでいる。(SK)

【参考文献】
R. O. Prum, R. H. Torres, S. Williamson and J. Dyck, Nature 396, 28-29 (1998).http://dx.doi.org/10.1038/23838

構造色研究会のホームページ:http://mph.fbs.osaka-u.ac.jp/~ssc/