《オーストラリア・ゴールドコースト》
コアラツアー殺人事件 ㊴
「行方不明のシナリオだね」
「そう。明日の午後、銀行へ行って金を下ろしてくるから、
2時ごろ桑原に気づかれずに、ムービー・ワールドの駐車場へ来いって。
従業員出口を利用すれば、気付かれないで出られる」
「桑原を除外しての山分けかい」
「奴は言われたとおりに、駐車場へ来たよ」
「俺は、車の後部座席にあると言って、ドアを開けると、
奴を先に入らせ、俺も続いた。
後部座席は、日差し除けのフイルムが張ってあるから、外からは見えない。
俺は、奴が段ボール箱に手をかけたとき、スタンガンで眠らせたよ」
それからは口をガムテープで塞ぎ、手足を後ろ手で縛り駐車場を後にした。
出ると、3ヶ月前から借りているムービー近くの一戸建てに入って、
駐車場のシャッターを閉めた。
「熊木とは、腕力の差があるからな」
「奴は部屋に担ぎ込まれると、手足を動かし暴れたが、
口のガムテープを剥がし、理由を教えると、
鯨井や中島と同じく仰天したあと、妻の運転をなじったよ」
「熊木の遺体は今どこにあるの」
「貸家の裏に穴を掘って埋めてあるよ。桑原に手伝わせてね。
それと、熊木に持たせたスマホは回収したけどね」
「桑原は素直に従ったの」
「俺は、事務所から熊木行方不明の知らせを受けると、
死体をそのままにして、ムービー・ワールドへ駆けつけたよ。
その後、捜索は中途半端に終わったわけだけどね。
俺は、桑原を助手席に乗せて貸家へ向かったよ」
「遺体の埋め作業を手伝わせるためにかい」
「そうだ。桑原は部屋に入るやビックリ仰天腰を抜かしたよ」
――熊木が恐喝してきたからこうなったと説明した。
更にお前は、もう札付きの殺人犯である。
警察は、これもお前の仕業だと考えるだろう。
オーストラリアの裁判は厳しい。
まして英語が話せないお前は、確実に死刑になるだろう。
「どうだ、俺に協力すれば、分け前の1億円はいずれ日本へ送金してやる。
警察は馬鹿じゃないから直ちに、オーストラリアを離れろ」
「でも、オーストラリアには死刑制度がないと思いますよ」
「分かっていますよ。
それで土曜日の朝、
シー・ワールドから、ヘリコプターに乗ってブリスベン空港へ行こう、
着いたら、日本行きの飛行機に乗せてやる」
それから桑原は、ぴったり付いて離れなくなった。
「俺が早く命日を気づけばよかったな」
私の嘆きを、泰一君は黙って聞いたが、
遠くに、かすか聞こえるパトカーのサイレンがあった。
白い砂浜は、何もなかったように波を立てていて、
カモメが、
鳴きながら飛んでいる。
つづく