推理小説「コアラツアー殺人事件」㊴ (ラスト・ワン) | 失語症作家 小島恒夫のリハビリ・ノート!!

失語症作家 小島恒夫のリハビリ・ノート!!

自ら作家と名乗る人間にろくな者はいないでしょう,他の方はともかく。私は2000年、脳出血を患い失語症になりました。そしてリハビリの一環として文章書きをしています、作家のように――。
何はともかく、よろしく!  (1941年生まれで、現在・80歳になる単なるじじい)

 

 

 

《オーストラリア・ゴールドコースト》

コアラツアー殺人事件 ㊴

 

 

 

「行方不明のシナリオだね」

 

 

「そう。明日の午後、銀行へ行って金を下ろしてくるから、

 

2時ごろ桑原に気づかれずに、ムービー・ワールドの駐車場へ来いって。

 

従業員出口を利用すれば、気付かれないで出られる」

 

「桑原を除外しての山分けかい」

 

「奴は言われたとおりに、駐車場へ来たよ」

 

 

「俺は、車の後部座席にあると言って、ドアを開けると、

 

奴を先に入らせ、俺も続いた。

 

後部座席は、日差し除けのフイルムが張ってあるから、外からは見えない。

 

俺は、奴が段ボール箱に手をかけたとき、スタンガンで眠らせたよ」

 

 

それからは口をガムテープで塞ぎ、手足を後ろ手で縛り駐車場を後にした。

 

 

 

出ると、3ヶ月前から借りているムービー近くの一戸建てに入って、

 

駐車場のシャッターを閉めた。

 

 

「熊木とは、腕力の差があるからな」

 

 

「奴は部屋に担ぎ込まれると、手足を動かし暴れたが、

 

口のガムテープを剥がし、理由を教えると、

 

鯨井や中島と同じく仰天したあと、妻の運転をなじったよ」

 

 

「熊木の遺体は今どこにあるの」

 

「貸家の裏に穴を掘って埋めてあるよ。桑原に手伝わせてね。

 

それと、熊木に持たせたスマホは回収したけどね」

 

「桑原は素直に従ったの」

 

「俺は、事務所から熊木行方不明の知らせを受けると、

 

死体をそのままにして、ムービー・ワールドへ駆けつけたよ。

 

その後、捜索は中途半端に終わったわけだけどね。

 

俺は、桑原を助手席に乗せて貸家へ向かったよ」

 

 

「遺体の埋め作業を手伝わせるためにかい」

 

「そうだ。桑原は部屋に入るやビックリ仰天腰を抜かしたよ」

 

 

 

 ――熊木が恐喝してきたからこうなったと説明した。

 

更にお前は、もう札付きの殺人犯である。

 

警察は、これもお前の仕業だと考えるだろう。

 

オーストラリアの裁判は厳しい。

 

まして英語が話せないお前は、確実に死刑になるだろう。

 

 

「どうだ、俺に協力すれば、分け前の1億円はいずれ日本へ送金してやる。

 

警察は馬鹿じゃないから直ちに、オーストラリアを離れろ」

 

「でも、オーストラリアには死刑制度がないと思いますよ」

 

「分かっていますよ。

 

それで土曜日の朝、

 

シー・ワールドから、ヘリコプターに乗ってブリスベン空港へ行こう、

 

着いたら、日本行きの飛行機に乗せてやる」

 

それから桑原は、ぴったり付いて離れなくなった。

 

 

 

「俺が早く命日を気づけばよかったな」

 

 私の嘆きを、泰一君は黙って聞いたが、

 

遠くに、かすか聞こえるパトカーのサイレンがあった。

 

 

 

白い砂浜は、何もなかったように波を立てていて、

 

カモメが、

 

鳴きながら飛んでいる。

 

つづく