推理小説「コアラツアー殺人事件」㉑ | 失語症作家 小島恒夫のリハビリ・ノート!!

失語症作家 小島恒夫のリハビリ・ノート!!

自ら作家と名乗る人間にろくな者はいないでしょう,他の方はともかく。私は2000年、脳出血を患い失語症になりました。そしてリハビリの一環として文章書きをしています、作家のように――。
何はともかく、よろしく!  (1941年生まれで、現在・80歳になる単なるじじい)

 

 

 

《オーストラリア・ゴールドコースト》

コアラツアー殺人事件 ㉑

 

 

 

 

《ツアー・5日目》

 

 午前8時過ぎ、私とミルク君は三浦さんの車でブリスベン港へ向かった。

 

モートン島は、そこから定期便が出ている。

 

 

熊木発見の報は、泰一君からも警察からもないが、言葉や地理が分からない彼の単独行動は、考えられない。

 

第3の殺人が実行されたかという予想が立つ。

 

 

 

しかし身体が大きく、腕力もありそうな彼が何故? 

ずるがしそうな彼が人ごみの中で……、の疑問が残る。

 

 

「計算済みじゃないの」

 

「そうだろうね。そうじゃないと話が旨すぎるよ」

 

「犯人は絶対複数よ」

 

 

 ハンドルを握るミルク君が顔を曇らせて言うが、道路は何時しかゴールドコーストの街を過ぎ、国道一号線パシフィックモーターウェーに乗っている。

 

 

 

 そのとき部長から第1報が入った。私たちは車を脇に止めると耳を傾けた。

 

 

「ミルクよ、分かったぞ。4人組はとんでもない奴らだな」

 

 中学の頃から不良で、街では評判だったという。

 

万引きや恐喝。傷害。無免許での自動車運転。女の子への悪戯。同級生はもちろん、近所の人からひんしゅくを買っていた。

 

 

記者が、4人の住むE市の支局に出向くと、取材する前に多くのデータが揃っていて、幾つか裏付けも取れたという。

 

 

「だからな、多くの人から恨まれているらしいよ」

 

「じゃ、狙われたとしても不思議じゃないってことね」

 

「そうだな。ただ、明の父親の剛三氏はなかなかの人物で、息子がやらかした過ちを、警察沙汰になる前に処理していたらしいな」

 

「もみ消したの」

 

「まあ親の顔で勘弁して貰ったんだろう、剛三氏は立派な人らしいからな。もっと裏付けを取って報告するよ」

 

 

「中島さんはどうなの」

 

「ハッキリしないけど、近所付き合いが希薄な家族らしいな」

 

「泳ぎはどうかしらね」

 

「それはまだだ。今同級生なんかを取材させているよ」

 

「明さんはともかく、他の3人は仕事を何しているの」

 

「決まった定職はなかったらしいけど、中島は親戚の農家へ行ったり、熊木と桑原はとびの手伝いをしているらしいぞ」

 

「とび職なの!」

 

 

 ミルク君が驚いたが私も驚き、ある仮説がイメージされた。

 

 

 ――とび職なら高所は平気である。もし熊木と桑原が、ふざけて私たちの部屋のベランダに上がって来ても、明さんは間違いなく戸を開けるだろう。

 

 

そこでじゃれ合っているうちに誤って落ちた。

 

 

 

――いや、違う。明さんの死は計画的な殺人で偶発的なものではない。

 

 

それでなければ、缶ビールのトリックは必要ないし、フロントに知らせれば済む話だ。

 

缶ビールも、2人が持って来たのなら、熊木か桑原の指紋がある筈。それがないのは前提が間違いってことだ。

 

 

――それに熊木と桑原に明さんを殺す理由があるのだろうか。

 

 

立場を変えれば、明さんこそ殺したいだろうに――。

 

また中島の死は、どういうことだろう。仲間割れにしては、分かりにくい筋書きである。

 

 

「他に分かっていることはないの」

 

「現在はこれまでだ。詳しくは送ったメールを読んでくれ。分かり次第次の報告をするよ」

 

 部長とミルク君の電話は終わった。

 

つづく