《オーストラリア・ゴールドコースト》
コアラツアー殺人事件 ㉑
《ツアー・5日目》
午前8時過ぎ、私とミルク君は三浦さんの車でブリスベン港へ向かった。
モートン島は、そこから定期便が出ている。
熊木発見の報は、泰一君からも警察からもないが、言葉や地理が分からない彼の単独行動は、考えられない。
第3の殺人が実行されたかという予想が立つ。
しかし身体が大きく、腕力もありそうな彼が何故?
ずるがしそうな彼が人ごみの中で……、の疑問が残る。
「計算済みじゃないの」
「そうだろうね。そうじゃないと話が旨すぎるよ」
「犯人は絶対複数よ」
ハンドルを握るミルク君が顔を曇らせて言うが、道路は何時しかゴールドコーストの街を過ぎ、国道一号線パシフィックモーターウェーに乗っている。
そのとき部長から第1報が入った。私たちは車を脇に止めると耳を傾けた。
「ミルクよ、分かったぞ。4人組はとんでもない奴らだな」
中学の頃から不良で、街では評判だったという。
万引きや恐喝。傷害。無免許での自動車運転。女の子への悪戯。同級生はもちろん、近所の人からひんしゅくを買っていた。
記者が、4人の住むE市の支局に出向くと、取材する前に多くのデータが揃っていて、幾つか裏付けも取れたという。
「だからな、多くの人から恨まれているらしいよ」
「じゃ、狙われたとしても不思議じゃないってことね」
「そうだな。ただ、明の父親の剛三氏はなかなかの人物で、息子がやらかした過ちを、警察沙汰になる前に処理していたらしいな」
「もみ消したの」
「まあ親の顔で勘弁して貰ったんだろう、剛三氏は立派な人らしいからな。もっと裏付けを取って報告するよ」
「中島さんはどうなの」
「ハッキリしないけど、近所付き合いが希薄な家族らしいな」
「泳ぎはどうかしらね」
「それはまだだ。今同級生なんかを取材させているよ」
「明さんはともかく、他の3人は仕事を何しているの」
「決まった定職はなかったらしいけど、中島は親戚の農家へ行ったり、熊木と桑原はとびの手伝いをしているらしいぞ」
「とび職なの!」
ミルク君が驚いたが私も驚き、ある仮説がイメージされた。
――とび職なら高所は平気である。もし熊木と桑原が、ふざけて私たちの部屋のベランダに上がって来ても、明さんは間違いなく戸を開けるだろう。
そこでじゃれ合っているうちに誤って落ちた。
――いや、違う。明さんの死は計画的な殺人で偶発的なものではない。
それでなければ、缶ビールのトリックは必要ないし、フロントに知らせれば済む話だ。
缶ビールも、2人が持って来たのなら、熊木か桑原の指紋がある筈。それがないのは前提が間違いってことだ。
――それに熊木と桑原に明さんを殺す理由があるのだろうか。
立場を変えれば、明さんこそ殺したいだろうに――。
また中島の死は、どういうことだろう。仲間割れにしては、分かりにくい筋書きである。
「他に分かっていることはないの」
「現在はこれまでだ。詳しくは送ったメールを読んでくれ。分かり次第次の報告をするよ」
部長とミルク君の電話は終わった。
つづく