先日、突如ゲイからニューハーフに目覚めた、友人のY子と久しぶりに会うことになった。
待ち合わせ場所に現れたY子は、ゲイ時代の面影はどこへやら、すっかりお姉さんになっていた
のには驚いた。それになんだか前よりも、ずっと生き生きしてみえる。別人みたいだ。
「あたしお腹空いちゃった。やっぱお茶じゃなくてラーメン食べたい」
しかし、こういった気まぐれなところは以前と何にも変わっていない。
アタイはなんだかホッとして、思わず笑いがこみ上げてしまった。
外観は変わっても、中身はまったく変わっていないことが嬉しかったのだ。
渋谷の道玄坂にあるラーメン屋に入ると、アタイはY子を質問責めにする。
「女装子活動はどうなの。うまくいってる?彼氏できた?」
「それが順調すぎるくらい順調なの。実は自衛隊の彼氏ができたのよ」
レンゲを口に運び、咀嚼しながら答えるY子。
結局ラーメンではなくチャーハンを頼んだという、どこまでも気まぐれな女である。
その彼とは数ヶ月前から付き合うようになり、先週も二人でディズニーランドに行ってきたばかり
だという。あまりに羨ましい話に、アタイも女装子に鞍替しようかと真剣に考えこんでしまった。
「なんていうか、ゲイ業界より女装業界の方が自分に合ってるというか、すごく楽しいんだよね。
やっと自分の生きる世界が見つかったって感じ」
そういうと、Y子は瞳を輝かせた。
確かにゲイ時代から比べると、見違えるくらい溌剌としている。ジムで鍛えていた身体はすっかり細く
華奢になっているが、身体全体から自信のオーラに満ち溢れている。
ジムといえば、Y子がまだニューハーフに目覚める前、アタイにこんなことを打ち明けたことがある。
「あたしさ、ホントはジムなんか行きたくないし、身体なんて鍛えたくないの。でもゲイの世界って
身体鍛えてないと誰も相手にしてくんないでしょ。モテることが最大の美徳な世界だし。だから嫌々
バーベル持ち上げてんの。けど時々空しくなんのよね、あたし何やってんだろうって。強迫観念みた
いになってきて苦しくなるの。ゲイってどうして見た目とセックスばかりなの。あたしなんかもう疲
れちゃった」
大きなトレーニングバッグを抱えたY子は、ため息まじりにいった。
これまで悩み事や相談もせず、なんでもひとりで解決してきたY子が、こんなふうに胸中を独白
するなんて始めてのことだった。
Y子はずっともがいていたのだと思った。同性愛というと閉塞的で特殊な世界で、必死に自分の
居場所を探し、違和感を感じながらも折り合いをつけようとずっと頑張っていたに違いない。
事実、Y子は男関係で苦労することが多かった。
元々フェミニンだったY子は、ゲイの需要からは大きく逸れていたため、鬱屈した疎外感のよう
なものを感じることも多かっただろう。
そんなY子が、ある日きっぱりと宣言した。
「あたし女装子になる。女になる」
それが自問自答と模索から導き出した、Y子のたった一つの答えだった。
ラーメン屋を後にした我々は、Y子の知り合いが経営しているというゲイバーに移動し、
呑みなおすことになった。
「皆さんこんばんわぁ、Y子ですぅ。ヨロピク☆」
カウンターの客に向かってオキャンに挨拶するY子。ドッと笑いが起こり、みんなのアイドル
といったかんじだ。アタイは胸が熱くなる。良かったねY子、やっと「自分」を見つけたね。
アンタは人気者でこそアンタだよ。人々に取り囲まれ、光り輝くY子の姿がまぶしかった。
アタイは目頭を軽く押さえながらビールの泡をすすってると、Y子は携帯を見ながらいう。
「ゴメン、あたしもう行かなきゃ。彼氏が待ってるみたいなの」
「え、自衛隊の彼?今日会うなんて言ってなかったじゃん」
すると、Y子は誇らしげな笑みを浮かべた。
「その彼じゃなくて別の彼。実はあたし、今付き合ってる人二人いるの」
「え、ええっ!!!」
ビールを噴き出しそうになるアタイ。
あ、アンタね…、いくらそっちの世界が楽しいからって、さすがに二股するのはNGなんじゃない?!
目が点になるアタイを置きざりにして、悠然と店を後にするY子なのであった。
にほんブログ村
にほんブログ村