ロードハウスは旅人のオアシス
今回のような旅行で必ず利用することになるのが、ロードハウスと呼ばれるお店です。正確な定義は知りませんが、簡単にいえば、MobilやShellなどのガソリンスタンドがレストラン、バー、キャラバンパークを運営しているような感じです。短い区間で80km、長い区間で250km走ると、このロードハウスがあり、キャラバンカーの旅行者や、長距離トラックの運転手が日中の移動時の休憩や宿泊で利用することになります。町といってもこのロードハウスがあるだけで、人口は5人なんてところもありました。
僕のような自転車旅行者は、一日中無人地帯を走るわけなので、このロードハウスが待ち遠しくて仕方が無いのです。道を急ぐ自動車での旅行者やトラックのドライバーは時にはこれらをスキップするのかも知れませんが、僕ら自転車旅行者にとっては、すべてのロードハウスが毎日の目的地になります。変わり映えのない景色が永遠に続く。想像以上の空気の乾燥がどんどん体の水分を奪っていく。気温はどんどん上がりサイクリングボトルの水はすでにお湯になっている。口の中が渇くたびにまずいけれどとにかく水を飲み続ける。たまにI podをつけて歌を大声で歌いまくって調子を上げる。『今日はもう何キロ走っただろう』とサイクロコンピュータで走行距離を確認する。『まだ30kmかよ~』って思っても、『今日の目的地までの1/4をすでに走ったじゃないか』と自分に何度も言い聞かせて走らないとやっていられない。本当に毎日これの繰り返しです。
さて、このロードハウスではいろんな人との出会いがありました。道ではすれ違うトラック運転手やキャラバンカーの旅行者たちが自転車で走っている僕をみつけたときの目を丸くして驚く顔が面白かった。みんな『がんばれよ!』って意味のピースをしてきたり、クラクションを鳴らしてきます。僕もがんばってピースを返します。無人地帯なので大した話題なんかありません。このすれ違うドライバーや僕を追い越していくドライバーが僕のことをロードハウスで話すのでしょう。なかでも出発から5日目の3/9に着いたMarla Roadhouseは忘れられない思い出の地となりました。僕はこの日も例外なく毎日続く向かい風に苦しんでいました、前日の一人での野宿での疲れもあり105kmの行程が2倍、3倍のように感じます。やっと50kmくらい走ったところで昼食を摂り、出発するときのことです。ペダル付近から。『ガツッ』という音が・・・。嫌な予感は当たっていました。前部ギアのワイヤーとチェーンが外れて、前のギアチェンジが不能になっていました。暑さのせいとは違った種類の汗が出ます。『ヒッチハイクして町まで戻り、自転車での縦断はギブアップか・・・』という考えが頭をよぎりますが、なんとか平静を保って、カバンから工具とスペアのワイヤーを取り出し修理を試みます。しかし、“この暑さの中、この僻地の中で一人きりで修理”という状況が集中力を奪います。路肩で一時間程がんばりなんとか一番小さなギアで走行が可能になり再出発しました。この後の約50kmは一番軽いギアで走らなければならないので、なかなかスピードが出ません。なんとか日没まえにMarlaに着きました。クタクタに疲れた僕は、一刻も早く、Lipton Green Tea Lemon味 とコーヒー牛乳をゲットしようとロードハウスに併設のスーパーに入りました。このときビッグスマイルで迎えてくれたのが、Rodです。彼は、僕が自転車で旅行をしているのを知ると、急いでレジでの会計を済ませてから、今日の宿泊のことを気遣ってくれました。彼ももう一人いたオージーの従業員も、『俺達は自転車で旅をしている人からは一泊目はキャンプ代をもらわないことにしているんだ』という。なんて優しい人たちなのだろう。お言葉に甘えて、明かりがあるうちにキャンプサイトにテントを張り、待ちに待った熱いシャワーを浴びてからレストランにむかった。全く時間を気にしてなかったのでレストランのラストオーダーの時間はすこし過ぎてしまっていたのだが、レストランの料理担当の女性が『あなたはラッキーね』といって本日のオススメの料理を用意してくれた。後に彼女はRodの奥さんでLoisという名前だと知った。彼女の料理はめちゃくちゃ美味かった。僕を気遣ってくれる彼らに真のホスピタリティーを感じた。向かい風のなかを5日間走りあまりに疲れていて、自分でも休養が必要と感じていたし、あまりにこのロードハウスの人たちが優しいのでもう一泊ゆっくりすることにした。
RodとLoisは、ニュージーランド人でキャラバンでゆっくり旅をしながら働いているらしく、翌日にはMarlaをあとにして、僕がこれから向かう南488km先にあるGlendamboのRoadhouseに向かいそこで同じように働く予定だという。彼らはキャラバンカーで1日で移動するけれど、僕は途中にCoober Pedyを経由して5日~6日くらいで着くだろうからまたGlendamboで会おうと約束して別れた。正直、内心無事につけるのかどうか不安もあったけれど、近いうちに彼らにまた会えることを楽しみに走り続けました。 その後は3/11 Cadney park , 3/12~3/14Coober Pedy、3/15 81km南で野宿、を経て3/16に無事Glendamboに着きRodと再会することになります。3/16日は日没寸前まで170km走りGlendamboのRoadhouseにくたくたになって着いて、ロッドと再会したときには、『Warabe!I knew you are coming today!』といってまたビッグスマイルで迎えてくれた。どうやら何人ものロードトレインの運転手たちが黄色いシャツを着た、真っ黒に日焼けしたちっちゃいアジア人が自転車でこっちに向かっていると教えてくれたらしい。あまりに疲れていて、テントを張る気にもなれないので、多少値段が高くても部屋を取りたいと話をすると、このロードハウスにはキャラバンパークがないから、あいている従業員用のキャビンに泊めてくれるという。おかげで、エアコンつきの綺麗なキャビンでゆっくり疲れを取ることができた。
このロードハウスでも、いろんな情報が入ってきた。 なんとオーストラリア人の女の子2人がこっちに向かっているから、明日くらいには、僕は道中に彼女達に会うことになるだろうとトラックのドライバーが教えてくれた。10日近く走って、全く自転車での旅行者と会わなかったので、僕はとてもわくわくした。また、ここでは、アランというトラックのドライバーとも偶然再会した。ワイルドでやんちゃそうなアボリジニと白人とのハーフの彼は、僕がここでLoisがつくったハンバーグを食べているときに『おい、Wallabyじゃねえか!』といって現れた。彼は、前日の3/15に僕が一人で野宿をしているときに、わざわざ僕のテントの近くまでやってきてコーヒー飲むか?って話しかけてきたやさしい男だ。そこからは何百キロも離れた海に面した町で羊を何十頭か飼って牧場の経営をして暮らしているらしいが、『何年か前に海でアワビを採りまくって中国人と商売をやりすぎて刑務所生活2年食らったけど、やめる訳ねえよ、あれは俺達の海だ。』とか 『白人の金に汚い奴らと今も会議をしてきたところだ。俺は現地に昔から住む人間側のスポークスマンをしているけれど、やつらはどうも好かねえ』と色々面白い話をしてくれた。彼は僕とは逆方向の北へ向かって用事があるはずだったが、急遽PortAugustaに荷物を運ぶ仕事が入りその帰りに、Glendamboに寄ったとのことだ。もしかしたら、彼は僕がGlendamboに無事着いているのかを確かめようと、あえてこのRoadhouseに寄ったのかも知れない。こういう外見からは想像もできないような、粋で人情のある男っていいなって思う。礼儀もしっかりしていて、店を出るときには、キッチンにいるLois達に礼を言うのを忘れない。アワビで2年食らったって彼はいい奴なのだ。そう考えると薄っぺらい見せ掛けだけで、本当は根性が腐っている奴が、世の中多いとつくづく思う。一緒に彼と飯を食べた後、お互い『元気でな!』といってさっくり別れた。彼の連絡先すら知らないが、彼とはまたいつか会えるような気がしてならない。そうしたら、アワビを腹いっぱい食べさせてもらおうと思う。
3/9 Marla Roadhouse スーパーとガソリンスタンドは24時間営業。砂漠の暗闇にポツリと光る姿はまさにオアシス。
3/9 Marlaのレストランにて夕食。昼間は暑くて食べる気にならないから、夜はしっかり食べなければくたばる。とても美味かった。
3/16 RodとLoisにGlendamboのロードハウスにて再会。
3/11 Cadney park のRoadhaouseに到着。 このとき自分は全く気づいてなかったが、この雲が雷雨の予兆だった。