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 打ち上げ

 2021年 9月 JWSTの打ち上げの為の移動が始まった。高さ8.5m、重量6tの望遠鏡は発射時と同じように折りたたまれ、特別仕立ての可動式クリーンルームコンテナに積まれた。コンテナには何かにぶつかった際、すぐ知れるよう衝撃センサーがいくつも設置された。当初テストでメリーランド州からテキサス州ヒューストン、それが終了してカリフォルニア州の請負メーカーたるノースロップ グラマン社へ。陸路は深夜に時速10kmのノロノロ運転で移動した。先導車を頭に、万一の事故に備えた関係者の車に囲まれた行列だった。移動の情報はギャラリーが進行を邪魔しないよう運搬作業が終わってから発表された。

 

       

  白いかまぼこ型の特別室に密閉収納されて移動するJWST

 

 カリフォルニアからは船に積み替えられた。そこから更に9000km離れた打ち上げ場所 仏領ギアナへ移動す為だ。ここは欧州宇宙機関(ESA)の発射台がある。作業分担で欧州は打ち上げを担当していた。

 

 JWSTは、輸送時とほぼ同じ姿で全体がアリアン・ロケット頭部に収まるようになっていた。サンシールドは細いロール状にして収納、主鏡も折りたたまれている。この方法は日本の折り紙を参考にしていた。その為 彼は「折り紙望遠鏡」とも呼ばれている。

 

    

   折りたたまれた姿のJWST このまま宇宙空間に出た後、地上操作 

  により、リモコンで展開された。

 

 米国人は折り紙を見て驚く。彼らの多くがA4紙を半分に折る事すら満足にできないからだ。(紙のエッジがきれいに合わない) ましてや小さな紙で鶴を折るなど とんでもない事。まあ鶴は確かに難しいけど。(大きな紙ならできる人も少数いるが、出来上がりが実に雑。これ事実です。)

 

 期待の新人は手足を限界まで縮められ、打ち上げロケット「アリアン5号」の先端ノーズコーン(フェアリングとも)に収まった。そして2021年12月25日 クリスマスの夕刻 それは打ち上げられた。多くの関係者はチュン・コロナの為に自宅その他のTVで見守る事を余儀なくされた。

 アリアン5号は正常に発射。その後、30日かかって160万km離れたL2点に到達した。JWSTは二段目ロケットから切り離され 先端コーンが左右に分離した後、静かに未知の空間に歩み出た。

 

    

  これは想像図だが、先端が二つに分かれてJWSTが空間に出る。

 すでに1段目は切り離されており、間もなく2段目も切り離される。

 

          *  *  *

 

 そして軌道上で店開き

 L2軌道に乗ると米国ボルチモアの管制室は遠隔操縦により、30日に渡る望遠鏡の宇宙での店開きを慎重に開始した。第一に太陽電池の翼を開いて、数百の滑車やモーターを動かす動力を確保する。内臓バッテリーは間もなく電力が尽きてしまうから。次に5層のサンシールドを1枚づ骨組みシャフト上に伸ばして行く。シャフトの先端にあるモーターがシールドのヒモをゆっくりと巻き上げ、シールドを広げていく。何かに引っかかれば裂けてしまう薄さだ。一日1枚づつだった。5層全ての展開が完了した時点で、あの振動テスト時に問題となっていた344か所のうち、283か所の「正常動作」が確認できた。残るは61か所。

 

 2022年2月3日 いよいよ主鏡の展開と角度調整である。 まず折りたたまれていた6角形セグメント18枚を展開、所定位置に組み付ける。これが完了すればあとは18枚の角度調整だけだ。

 

 

    

  18枚のセグメント展開が完了し、喜ぶスタッフ 

 

 

 展開を完了した18枚は1枚の反射鏡として、あらかじめ決められていた一つの恒星に向けられた。そこから副鏡に反射して得られた画像は18個のバラバラ映像である。それがモニター画面の中央の一点に集まるよう調整する。

 

   

 一つの恒星が18枚セグメントに反射して18個映っている。ちゃんと18個ありますか? これを反射鏡の中心に集める為、18枚を個々に調整する。

 

 セグメント背後のアクチュエイター操作による微調整。どの点がどの鏡に対応しているかを調べる。そして各々担当のスタッフ達が微調整に入る。予め彼らが地上でイヤという程練習して来たものだ。だが160万kmの距離だと、1回の指令が届くのに6秒かかる。18枚は最初ミリ単位で調整された後、最終的に髪の毛の1/10000の精度にまで誤差を修正される。これには全体が -237℃に冷え切るまで待つ必要がある。もし微調整後、更に縮むと誤差が出てしまう。その待ち時間はサンシールド展開後40日、そして微調整には2週間を要した。調整完了後の映像が下の写真。

 

   

   当然の如く 1つの恒星が1つに映っている。周囲に延びる光の筋は構造上のものであり、決してインスタ映えなどを狙ったものではありません 念の為。

 

      *  *  *

 

 初めての天体映像

 2022年4月 JWSTの展開調整ミッションは完了した。そして同年7月12日 いよいよ本格的な観測に入る。設計寿命は10年。最初に撮った記念すべき写真が下。南のリング星雲NGC3132 である。距離2000光年。

 

    

 光(赤外線)を蓄積しているので、暗い周囲部分は明確で中心部が白く飛んでいる。全体像を映し込む為に露光をオーバーさせているのだ。中心を見る為に露光時間を短くし、赤外線量を調整したものが下の写真。 

 

   

   中心には二重星が現れた。

 

 下はカリーナ星雲「宇宙の絶壁」でHSTとの映像比較を。りゅうこつ座方向。NGC3324 7600光年 ①HST映像  ②JWST映像

 

      

   

 ② 

 捉えた光の波長や反射鏡径の大きさの違いが出ている。赤外線はガス雲を通過するので、星雲背後の星々も映っている。

 

 JWSTの解像度

 この望遠鏡は一体どのくらいよく見えるのか? 一説によれば550km先のサッカーボールが識別でき、40km先の1セント硬貨(φ19.1mm)が識別できると言われている。

 実感できるよう日本の地理で説明したい。もし地上でこの望遠鏡を使ったら・・・・ 大阪市役所から東京都庁のテニスボールが識別できる。(大阪~東京間は直線距離で約400km、新幹線ルートで約550km) また大阪から西は明石大橋の欄干で掲げた1円硬貨(φ20mm)が、東は京都金閣寺で掲げた同硬貨が識別できる。恐らく新聞の活字も読めると思う。オッサンなど20cm以下の距離でも読めないのに。(そら 別の原因でっせ 大将!)

 

 費用の比較 

 計画から実現まで30数年、一生の仕事として携わったスタッフもいる。2024年の時点で総経費1兆5000億円(1ドル=150円換算 観測活動終了予定までの生涯費用) ちなみに関空建設費当時約1兆円。2022年のトヨタ売上げ37兆円、パチンコの総売上げ2021年で2兆3900億円(最盛期30兆円)。日本の「すばる望遠鏡」は1999年、建設費のみで約400億円(24年前 観測経費等は別)。地上望遠鏡の主鏡径8.2mは当時世界一であり、主鏡の歪を自動補正するアクチュエイターは画期的試みであった。

 

          *  *  *

 

 望遠鏡の種類

 我々が望遠鏡と言う時、普通は地上にて目視で見るものを考える。しかし口径を大きくしても大気の影響などで限界がある。また天体の可視光線以外の幅広い波長の光をキャッチし、そのスペクトル分析から様々な構成物質を知る事ができるようになり、電波望遠鏡が考え出された。

 1960年以降、宇宙望遠鏡は天文観測衛星と共に数多く打ち上げられている。両者からのデータ突合せで宇宙を探ろうとの考えである。現在では望遠鏡が観測衛星機能を兼ねるものも多い。HSTには後から赤外線カメラ等が組み込まれた。機器類の技術的進歩により多目的化される傾向にある。

 

 日本の実績

 日本は天文観測衛星として、すでに14個程度を地球周回軌道上に乗せている。我々があまり聞かない はくちょう・ひのとり・ぎんが・あすか・はるか・ひとみ・ひので・・・・etc. 

 2007年 高度100kmの月を周回して4k映像を提供した「かぐや」はご記憶だろう。月からの「地球の出」を観て感動した。また世界初の本格的推進力としてのイオン・エンジンを使った小惑星探査機「やはぶさ」は2010年小惑星イトカワの砂ぼこりを500粒ほど持ち帰った。次の「やはぶさ2」は、2014年打上げ後 小惑星リュウグウを削りに行った。その7年後の2020年に帰還し無事サンプル投下、世界の注目を浴びた。飛行距離60億km。(月までは片道38万km) 現在はそのまま別の小惑星に向かっており、帰還予定は2031年。

 

 宇宙は1つの謎が解明されると、そこから別の10の謎が提起されるという。それほど未知な対象なのである。JWSTの活動はこれから多くの情報をもたらすだろう。提供されるその映像は、写真例で示したように より詳しく鮮明となる。現在同望遠鏡の写真集は、筆者の知る限り1冊だけ。(2024年2月現在「宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙」 朝日新聞出版 3200

円 2023年5月発行) それもHSTとの抱き合わせになっている。今後はJWSTのみの多くの写真集が出るだろう、お楽しみに。