クエンティンとの戦いも終わり、リゲインの仕切りでクエンティンとユージェニが旅立ち、DXたち一行はバハル・チレクの兄妹に連れられて帰途についた、というところまでが前回でした。

ずっと戦いと変事の話が続いていましたが、今回は壮大な揺り戻しと言うか、日常への復帰の回です。ちょっと甘酸っぱい場面もあり、よかったなあと思います。

以下、内容に触れながら160話の感想を書いて行きますので、ぜひゼロサム本誌をお読みになってから読んでいただければと思います。

扉はDX、フィル、それにリドと五十四さん。平常運転に戻るのかな、という予感。アオリも「さあ、新しい扉を開けに行こうか!」です。

ページをめくると、まずアトルニア議会。玉階オルタンスがDXを救助したことを報告。そして天恵研究室(ラボ)のフレミー主任が久々の登場。王城でクエンティンに呪いをかけられた人々の解呪方法について説明しています。「神学会」というのは初めて出てきましたが、「麦の女神(エスノア)」の加護が強い吉日に祈祷をすれば効果が上がると説明しています。オズモ議長は原状復帰への手を打ち、リゲインたちの帰還を待つと言う構図になりました。

一方、アトルニアとクレッサールの国境のタウスマルでは、駐屯騎士団の支団長マナーズと、預けられている「虎斑」部族の娘・マーニ。虎斑には戻れない、というマナーズに黙ってうなずくマーニですが、クエンティンの「忘れられた砦」、ここで彼は非人道的な扱いを受けていた子どもや流民の子どもを引き取って働かせていたのですが、クエンティンが去ってもそこでは子どもたちは続けて暮らすことになり、「沙竜があるので里になれる」ので、マーニが砂嵐の神(ボランディ)の教えや砂とともに生きる掟をその子たちの家族になって教える、ということをマナーズが提案し、どうもそう言う方向に行きそうです。やはり流民の子としてユーハサンで孤独に生きるより、里で「家族」と生きる、という可能性に、マーニは涙を浮かべるほど嬉しく感じているのですね。

しかしこのマナーズという人もただ者ではない。「嘘がわかる」という天恵があることは語れていましたが、いくら国境地帯に駐屯しているとはいえ、何故これだけクレッサールおよびクレッサール人の考え方や習慣、掟のことがわかるのか、不思議です。その辺りはまた語られることもあるでしょうか。

続いてフィルとロビン。「家族に会えた」ことをフィルに感謝するロビンですが、「DXさまが褒めてくれるよ」というロビンに対し、フィルは「犬じゃねえんだから」と素っ気ない。フィルが「パピーグレイ(汚れた子犬)」と呼ぶ人もいることを考えると、ちょっと可笑しいです。で、ロビンは「イオンさまも褒めてくれると思うよ」というとフィルは「それは、ちょっといいかもしんねーけど」と何か含みのある反応。イオンに褒められると多分嬉しいんですね。(笑)

そして道中のDXとディア。DXの王城、つまりオズモへの信頼とディアの大老への信頼。本当にこの世界は、「信じられる大人」というのが出て来る、まあそう言う意味でファンタジーの世界なんだよな、と思います。

そして今月の見せ場。

「天恵切れ(エンプティ)ンあると寝ぼけたような、酷く酔ったようになるの。変なこと言ってないといいのだけど」というディア。どうも心配しているのは、DXに対する本心を言ってしまったのではないかということみたいです。

でもDXはそれをスルーして、157話でのディアとの会話について言います。

「天恵は隠しておかないと、人を傷付けたら取り返しがつかない」

最初に読んだときははっきりわからなかったのですが、この言葉がどうやらディアに取ってはトラウマと言うか、「逃れられない呪いの言葉」みたいなものなのですね。

157話では、この言葉の呪いに落ち込んだディアをDXが「君は君だ」という言葉によって救い出そうとし、そしてイオンの「ありがとう」と言いながらの涙によって我に返った、という場面になっていました。

DXが気にしていたのは、一体誰がこの「呪いの言葉」をディアに与えてしまったのかということだったわけですが、ディアははっきりと「心配しないでDX、大老じゃない。先生は私を助けてくれたの」と答え、DXは「そうか」と首筋を押さえます。DXにも、そう言う疑念がちょっときざしていたのですね。

ディアがどういう人生を歩んで来たのか、まだほとんどの部分は謎なのですが、その呪いの言葉に暗く閉ざされていた前半生と、ファラオン卿による救いの大きさが、ディアの人生の大きな部分を占めているんだなということはとてもよくわかります。

ディアは改めて王城で何があっても自分の天恵を秘密にしてほしい、と頼み、DXは「竜創に誓うよ、マイレディ」と答えます。騎士と貴婦人の関係をここでもう一度確立する。

しかしDXのことですからここで終わらない。「ディアの天恵は自分をすごくきれいに見せる天恵を持ってるのかと思っ・・・」

!!!

!!!

(笑)(笑)(笑)(笑)

さすがDX!

しかしディアはさっと自分の天恵でDXの記憶を混乱させてしまいます。そこにやって来たチレクとイオン。チレクは「残念!」と叫び、どうもこれは「せっかくいいムードになったのに〜〜」みたいなコトだったようですが、ディアは恥ずかしがってます。

つまり、DXの何の気なしの愛の言葉を上手にスルーできず、思わず天恵を使ってしまったことを「きっと変に思われた」と恥ずかしがっているのですね。

王城に近づいて来るに連れ、DXやイオンと距離を取らざるを得ないディアを、イオンは「なんだろちょっと寂しい」と思っていますが、まあそれもまた日常への復帰ということなのですよね。

変事であり、戦闘であり、最大のピンチであり、そして外国と言う八方ふさがりの状況だったわけですが、でもだからこそ気持ちが正直に通じ合えることができた。それももう終わる。夏休みがいつまでも続かないように。

ここの場面を夏の終わりの10月号に持って来たことは素晴らしく上手だなあと思いました。

場面は再び王城。オズモとベネディクト卿を守って自らの「使い魔」猫たちに殺されかけたアニューラスですが、もうだいぶ回復して仕事をしています。レイをこき使っているようです。

クエンティンとユージェニが駆け落ちした、という噂をどうやらオズモが流したらしい。王城で裁かなくてよかったのかと言うアニューラスに、「議会はリゲインを信じてる」「あなたもでしょう」「リゲインは生粋の騎士だ。現場での問題解決能力はピカ一」と答えるオズモ。なるほど。信頼によってリゲインに付与されている権限は、巨大なものがあるわけですね。

「誰でも何かに縛られているが、足元が崩れたときはそれがよすがになればいい、騎士の誇り、王女への忠誠」というオズモ。なるほど、「何かに縛られている」ということは、「足元が崩れた時」のためなのかもな、と思えます。これはリゲインの騎士である大変さと強さについての過不足のない説明になっているのだなと思います。

レイも相変わらず可笑しいです。レイは自分を道化だと言いますが、なかなか彼のポジションにトリックスターを持って来ることは難しいだろうなあと思います。アカデミーの寮ではチューターと言う地位ですしね。なかなか「リア王」の道化のようなわけにはいかない。

そして最後に大老ファラオン卿。彗星「アトレの火矢」を見て、「帰って来る・・・私の小鳥が」とつぶやきます。

私の小鳥、とはもちろんディアのことだと思いますが、でも小鳥と言うと思い出すのはロビン(コマドリ)でもあり、またちょっと重層的な感じがしました。

なんというか、「8月31日」みたいな展開のストーリーでした。2学期はどうなるのでしょうね。

さて、これで「20年前の戦争」「革命の真実」「失われた王女(アブセントプリンセス)」と言った重要な「謎」が解決したことになります。

・・・考えてみると、もう謎らしい謎が残っていませんね。

まだまだお話は続いてほしいのですが、今は長い長い幕引きの途中なのかもしれません。

ここから急に「第二部」が始まるというのも、期待したいところなんですけどね。(笑)

今後の展開を楽しみにしたいと思います!