おがきちかさんの「Landreaall(ランドリオール)」第28巻特装版を読みました。
おがきちかさんの「Landreaall」、もう28巻です。27巻ではDXとクエンティンの間に精神力を使った半ばスピリチュアルな大きな戦いがありましたが、物理的な勝負がついたあと、28巻では説得の戦い、のような展開になっています。

単行本、扉のカラーは四月号のセンターカラーの絵でした。

冒頭は152.5話、プチリオール。DXと黒虹の「傭兵」たちのエピソード。この下り、読んだ覚えはあるのですが、少し前の号に掲載されていたかと思います。連載誌は単行本が出ると処分してしまうので、2月号以前に掲載されていたのだと思います。ですので、初出を確認できません。不覚でした。

内容は、名前のない、「エニ」と呼ばれる男たちが何人もいると言うこと。葛焚のエコーの子どもたちも名前がありませんでしたが、クレッサールでは名前のない人間がいるのですね。

古代中国では庶民階級は子どもに名前が付けられず、生まれた順で「二」とか「三」と呼ばれたという話を聞いたことがあります。漢の皇帝になった劉邦も邦というのは長男という意味だ、と司馬遼太郎さんが書いていました。そんな感じかもしれません。そういえばランドリ世界でも、ニンジャも本来は名前がないのですよね。そのあたりにDXが反応した、ということもあるのでしょう。

DXは彼らに名前がないことが気に入らず、エニたちに名前を付けます。それはアトルニアの童話に出てくる登場人物たちの名前なのですね。名前を付けられることで祝福されるとでもいうか、そういう役割をDXは担ったということなのでしょうね。DXの人間性が現れたエピソードでした。

続いて153話、舞台はアトルニアの王城。塔に籠っている大老・ファラオン卿にはレイ・サークが付き添っていて、そこに一目祖父に会いたいとやって来たロビンと付き添いのフィル。ファラオン卿はクエンティンの呪いにかかり、自殺を図ろうとしている。それをロビンが勇気を出して告白したことで、ファラオン卿が正気を取り戻し、例に的確な指示を下します。このあたり、王城で潮の流れを変えた一つのきっかけがロビンの告白だったと言うことは、連載を読んでいるときはあまりピンと来てはいませんでしたが、今単行本で読み直してなるほどと思いました。

22ページのファラオン卿のセリフが「守ってやりたかったが」が「護ってやりたかったが」に変わっていました。このあたり、またあとで書きたいと思います。

大筋についての感想はすでに書いているので、単行本で気がついたところだけ書いて行きたいと思います。

154話の扉は、単行本のカラー扉絵を白黒にしてもう一度。舞台は王城の議会。この議場の風景は、連載で背景がなかったところにいくつか背景が追加されています。これはあとで出て来るクエンティンの城の中も同様です。

今回読んでいて気づいたのは、「革命」とはリゲインが前王を斬ったことだけではなく、その後の全過程のすべて、つまり現在進行中の、オズモを中心とした国づくりすべてを指していたということだった、ということです。クエンティンが「革命を終わらせる」というのは済んだことをもう一度収め直す、という意味ではなく、今のアトルニアそのものを崩壊させる、という意味だったと言うことです。これはちょっとそうか、と思いました。もちろんクエンティンが実際にそうやっていることはわかっていましたが、それが「革命を終わらせる」ことと同じ意味だったと言うことには気がついていなかったわけです。

今までは、ただ単に「革命」の際の因縁を本来あるべき形に収めよう、という意味だと思っていたのでその言葉に深い意味を読まなかったのですが、今回単行本を読んで初めてその辺りの言葉の意味を納得したわけです。このへん、本当に何度も読まないとわからないところがありますね、ランドリは。

154話、アニューラスが自らの命をかけてオズモを護ろうとしたくだりは、そのアンちゃんの周到さも含めて、改めて感動を覚えました。

155話の、ベネディクト卿の「猫の寝床は君の仕事」とレイに言うセリフ、なにげに好きです。猫はアニューラスのものですから、つまりは『アニューラスについていてやるのは君の仕事だ』ということですね。

156話、「守る」と「護る」が使い分けられていますが、印象としては、自分の愛する人をまもることに「護る」という字が使われているのではないかと思いました。

それから改めて印象に残ったのは、ユージェニのセリフ。このランドリの世界でも、そして現実のこの世でも、護るのは男で護られるのは女、ということになっているのだけど、ユージェニは自分が騎士道を持ち、母とクエンティンを護りたいと言う願いを持っている。それは、イオンもまた同じようなところがあります。そして、なによりDXによる父親捜索に、新王ファラオン卿はメイアンディアに同行を命じた。ふつうなら、男が護衛に行くところを、女性の、それも王妃になる人に命じるというのはやはり奇異な印象でしたが、ファラオン卿は女性も王位を継承できるように法を変えることを考えているという記述があったように、女性が男性に力を貸す、助太刀をさせて事態を収めるように命令したわけです。

ここは、普通の騎士とお姫さまの物語ではない、自ら能動的に事態を収拾する新しい物語を構想した、ように思います。まあ、傭兵としてガンガンやる物語は以前から描かれていましたが、お姫さまがお姫さまのままでやるところが新しいのだと思います。それで、ユージェニは敗れ、メイアンディアは勝った、ということなのですね。

157話。扉はイオンとメイアンディアがベッドで寝ている絵。連載のときはイオンなのかDXなのかよくわからなかったのですが、単行本ではそばかすが描き込まれていて(これはイオンが変装のためにディアにつけてもらったもの)、イオンだということがよくわかりました。まあ、どちらなのかによって意味が全く変わってきますからね…

DXが「大丈夫か」とディアに声をかけたところ、「君、天恵切れ(エンプティ)だ」とセリフが変えられ、すごくわかりやすくなりました。

それから124ページで「ディアもイオンも消耗してるし休まないと」というDXのセリフのコマが頭のてっぺんだけだったのが顔まで入れられてキュートになりました。

また134ページの「きっと長い時間が必要なんだろう」というコマにもリゲインとクエンティンのシルエットが描き込まれていて、いい感じになりました。

157話はそのように細かいところが描き込まれて、すごくわかりやすくなった印象です。

そして8月号に掲載された2話のうち、前半の157.5話がこの単行本に収録されました。この中では138ページ、イプカのヘルフレットの上にリゲインとファレルがくるまっていると思われる毛布が乗せられているのに初めて気がついたことがあります。イプカはどうしても見たかったので(なぜか私はイプカが好きなんです)嬉しかったです。

そしてこの28巻、イプカとライナスの長年の因縁に決着がつく形での締めになっているのはしみじみといいなと思いました。

付録?としてDキッサンさんの「共鳴せよ!私立轟高校図書委員会」をおがきちかさんが描いたおまけがあり、テイルピースはまたイプカのネタ。イプカに払うべき砂金のあった場所は実は…って「重すぎる!」と思いましたが、(笑)ぜひ単行本でご確認ください。

そして特装版の付録冊子は16ページの短編、「竜国エトランゼ」。登場人物はウルファネアの公子・リドとパティウス公国の王子・マグナル。マグナルはモンスター研究でアカデミーのスピンドル騒動を解決するのに大きな功績を残しましたね。内容はシンプルですが、久々にリドやウルファネアの人物が読めてちょっと嬉しかったです。ちみキャラの活躍、という感じでした。

以上、ランドリ28巻特装版でした。(通常版は、付録冊子がなく、カバー絵が違うものになっていました。)

明日28日は最新話が読めますので、また楽しみにしたいと思います。