コミックゼロサム6月号でおがきちかさんの「ランドリオール Landreaall」第156話「満ちる」を読みました。

コミックZERO-SUM2016年6月号
一迅社



「ランドリオール」ももう156話。1年12話として丸13年になりますね。私が読み始めたのは11巻だったと思います。今出ている単行本は27巻ですからそれからももう8年。本当に大河ドラマになりました。

前話で自分の過去、王女リルアーナとの思い出、ザンドリオの風景、戦争の混乱に巻き込まれたとき、自分がなぜどのように救われたのか、などを思い出したクエンティン。前話ラストでクエンティンはメイアンディアに、「これはあなたの天恵(しわざ)か」と尋ねました。その目には涙が。思い出は、自分の恨みとそれによる決意を裏切る。そんな幸せがあった、あるいは決死の思いによって自分の命をつながれた風景でした。

「呪いが還ったら記憶を灼かれて廃人がいいところかと思ったが」というクエンティンに、メイアンディアは何ともいえない表情で「全てを忘れて逃げるなんて許さないわクエンティン」と言います。その意味は、文字通りアトルニアに大きな混乱を引き起こし、すんでのところでクーデターを実現させようとしていたクエンティンを責める意味ももちろんありますが、それだけではないようです。

メイアンディアは、「記憶を・・・取り戻すのが、私の天恵」と言います。取り戻すだけではないですけどね。スピンドル事件の後、倒れたレイを見舞いに行ったメイアンディアがレイを脅迫?したとき、記憶が破壊される、というようなことを言ってました。かなりとんでもない天恵なのですが、このときはクエンティンが気づいたように、メイアンディアは呪いを返す時に攻撃したのではなくクエンティンの記憶を護ったのでした。

うまくいかないものだな、と座り込むクエンティン、そしてディアもまた座り込む。そこにユージェニが、「私はどうすればいい」と尋ねます。「七つの涙をこぼす羽根」をなでながら、「死ねと言ったら死ぬのかい」と酷いことを言うクエンティンに、ユージェニはいいます。「私は王女なんかじゃなかった。母とあなたを守りたかった。あなたや母が望むなら、国だってあげるつもりでいた」というユージェニ。そしてユージェニの秘めた思い。

「自分では気づいていなかっただろう、あなたが私を見る目は」というユージェニに、クエンティンは「上手く隠せていると思ってたよ、あなたを憎んで」・・・と言いますが、ユージェニは「違う!」と叫ぶ。沈黙の二人にDXが割って入ります。「あなたは彼女を憐れんでいる」と。

ユージェニの魂は、もっと別のものだったわけですね。「愛のために死ぬ騎士を人は敬うのに、女であるだけで憐れまれる。憎まれた方がまし。私に死ねと言ってみろ。」と。ここのユージェニの本当に真剣な表情には、胸を打たれます。

「騎士道」。

この言葉がクエンティンの口からこぼれます。斜に構えているクエンティンには、認めたくない言葉だったのですね。ユージェニは、騎士として、全てをかけて、愛のために母とクエンティンのために戦ったのに、女であるということだけで憐れまれる、そのことが許せなかった。その愛を軽んじられた思いだったのでしょう。

そして追い討ちをかけるDX。この場面が好きです。「フェーレン(欠けてる)なんておかしいよ」と。クエンティンはもともとシングフェルスという家名を持っていたわけですが、ザンドリオの滅亡後はその名でなく「フェーレン」を称するようになった。全てを失った、ということをその名に込めていたのでしょう。しかしDXはそれを否定する。

「何も残ってない」というクエンティンに、DXは「あなたはそれで全部だ」と言い放つ。ここは凄い。「もうやめてくれ、私の記憶を呼び起こすのは」というクエンティンに、「私じゃない、私にはもう何も出来ないわ」というメイアンディア。もう怒濤のように昔の記憶を思い出してしまうのは、クエンティンが自分で思い出しているのだ、ということなのですね。

「取り戻せないものばかりだ。美しいザンドリオのオアシス、家族やたくさんの人々。私を殺せ、ジェン。私は亡霊だ」というクエンティンに、DXはさらに追い打ちをかけます。

「ザンドリオはあなたの中にしかないのに、自分でもう一度滅ぼすのか」と。「これからのことはわからない」というDXに、クエンティンは「そんな子どもっぽい希望にはすがれない」と答えますが、ユージェニは全力でクエンティンを抱きしめる。

———生きててよかったですね。
———本当に生意気なガキだ君は。

すがって泣くユージェニ、いやジェン。

———あなたが生きていてよかった。
———そして君はバカな王女様だ。
———今は何でもない、ただのバカだわ。

このあたりは本当にジンとします。なんというか、この物語の展開でクエンティンとユージェニのこういう場面がここに来るとは全く意外だったのですが、そういうことも含めてしてやられたなあ、と思います。

どうやら、この場面はこれで一件落着、のようですね。黒虹に潜伏していて、DXに連れて来られた男が鷹を放す。これは玉階オルタンスへの伝書鷹でしょう。ここでは全て解決した、と伝えるのでしょう。

大きなヤマは越えましたが、まだユーハサン砦の組とタウスマルの組、それにライナスやルーディの動向もわかりません。

そして。大丈夫だと思っていたリゲイン・ファレルの組が思いがけないピンチに。砂漠の中で死にそうになってる二人、ファレルはまだ元気が残っていますがリゲインはもうヤバい感じ。「私とあんたが今こうやってここに居るのは、売られた喧嘩に全勝して来たからだ!」と叫ぶファレル。相変わらずのお母さんです。(笑)

しかし、ペシャってなってしまって大丈夫か、という時に、六甲が持っていたらしき獣鳴の笛(シュリール)に気づきます。

これは!もしや!

そう、以前DXたちがリドのピンチを救うためにウルファネアに急いだ時、ライナスと因縁のある空飛ぶ獣を操るクレッサール人(暁追)のイプカを呼び出す時に使った笛ではないでしょうか。

それならば・・・

何だか懐かしいキャラクターが見られそうで、楽しみです。(笑)ずっとクレッサール編が続いていたのに、イプカは出ないなーと思っていましたものですから。

来月が楽しみになってきました。(笑)

DXたちとクエンティンたちの攻防が始まったのは、26巻の144話でしたから、この一日のとりあえずの決着がつくのにほぼ1年かかった、ということになります。物語の展開上もそれだけ重要なエピソードでした。

この先、「国の形」がどのように変わって行くのか、楽しみです。