コミックゼロサム5月号でおがきちかさんの「ランドリオール Landreaall」155話「クエンティン」を読みました。

コミックZERO-SUM2016年5月号
一迅社


今月は30ページ。読み応えがありました。クレッサール編も決着近し、の感がありますが、今月は回想が中心。前王と革命を巡る深く絡まった糸を、一つひとつほどいて行くような感じです。場面は大きく言って3つに別れます。

扉は失われた王女(アブセント・プリンセス)リルアーナ。主人公DXの父・リゲインにも、リルアーナ(アンナ)の娘・ユージェニにも、そしてクエンティンにも深い関わりのあることが、明らかにされて行きます。

最初の場面はアトルニアの首都・フォーメリの王城(グランミーア)。王位継承候補・DXの玉階(王位推薦者)であるアニューラス(アンちゃん)が、自ら判断力を失った時に自らを襲えと命じていた召喚猫の発動により、瀕死の重傷を負っています。しかし、その呪いを発動させた人物の名をベネディクト卿に問われてもアニューラスは確信が持てず、その名を口に出来ません。

そこに現れたのが新王=現大老ファラオン卿の弟子であり側近でもありアカデミーのチューターでもあるレイ・サーク。彼はアニューラスのアカデミーの同期であり、腐れ縁の悪友でもある。レイはアンに、「なんてざまだお前・・・」と悪友っぽい口調で話しかけ、「大丈夫だ言ってみろ」と言うレイにアンは「玉階クエンティン」と敵の名を告げます。

ついさっきまでファラオン卿の元で呪いが発動した場所に居合わせ、新王の孫であるロビンが現れたことで自分を取り戻し、呪いを解いたファラオン卿の命令で、レイはクエンティンに呪いをかけられたものが王城に何人もいるということをオズモ議長に伝えに来たのです。全てを了解したオズモとベネディクトは頷きあい、オズモは「十分だ」と言い残すと議場へ向かいます。息も絶え絶えのアニューラスはレイに「お前何をしている?」と問われたレイは「秘密♡」と答え、瀕死のアンはいつものレイにブチッと切れますが、レイは「気になるなら死んだりするんじゃないよ」と憎まれ口をきいて励まします。このあたりのセリフがレイとアンの悪友関係をよく現していていいなと思います。

ベネディクト卿はアンの病室前に座って待つレイに「玉階に万一のことがあっては公子に合わせる顔がない」と言いますが、レイは「召喚猫が猫のままでいるのは契約が有効だからです」と言ってベネディクトを安心させます。安心したベネディクトは職務に戻って行く。

ベネディクト、オズモ、アニューラス。それぞれが自分の責務を果たす、そのさまを背景に、幽明界でDXはクエンティンの本体と対峙する。ここの演出がいい。

二つ目の場面は、クエンティンとDXの幽明界での対峙と、カットバックではさまれるオズモの議会での檄。スリリングです。

「王城の呪いは消えない。君を讃えるはずの国はすでに壊れている」というクエンティン。オズモはルッカフォート将軍(DXの父リゲイン)夫妻がクエンティンに拉致され行方不明であり、真相をつかんだDXがクエンティンの元へ向かった、ということを明らかにします。オズモは議会に訴えかける。「我々は全てをここに埋めるためにここに居る」といいます。「ここ」というのは、アトルニアの傷を癒し、復活を期すため、ということでしょうか。自分たちはその身をここに埋めても、その礎となると信じてそうするのだと。

「我々がかつて駆り出された砂漠で今は王位継承候補が戦っている」

そういうオズモの言葉。「王位継承候補」という言葉、久しぶりに読んだ気がしますが、DXの責務と雄々しさのようなものをよく現しているのですね。ここのオズモの言葉はいい。

DXはオズモたちが国=アトルニアを支えてくれることを信じ、オズモはDXが、背後の自分たちを信じて、たった一人でクエンティンと戦いに言ったことを告げる。「だからおれは負けなかった」というDX。王城は騎士=DXを迎える場となれるかと問うオズモ、「おれも負けなかったんだからアトルニアだって呪いに負けたりはしない」と断言するDX。この二人の強い気持ちに、ついにクエンティンの呪いの鎖が砕かれてしまいます。そしてクエンティンの上半身に描かれていた呪いの文様が消えて行きます。

DXが意志の力を取り戻したのは、どうやら竜創が発動したかららしい。その竜創を発動させたのはメイアンディアだったわけですが。倒れたクエンティンに駆け寄るユージェニ。そしてユージェニが髪に付けている髪飾り=「七粒の涙をこぼす羽根(セメンステアツスイ)」の秘密が明らかにされます。この第三の場面が、私は今月で一番好きでした。

場所は、20年前のザンドリオ。王女リルアーナがシングフェルス家の城にいます。リルアーナは何やら編み物をしている。そこに、少年時代のクエンティンがやって来て話しかけます。

——アンナ、僕あなたみたいにきれいな人初めて見ました。それとも王都にはたくさんいるの?
微笑むリルアーナ。
——ふふ。そうかもね、クエンティン。そんなふうに言ってもらえて嬉しい気持ちになるのは本当に久しぶり・・・
リルアーナは狂った父王の捜索を逃れ、クエンティンの祖父を頼ってザンドリオのシングフェルス家に身を寄せ、恋人の従騎士(DXと同じ金髪にすみれ色の瞳)とクレッサールに駆け落ちをしようとしているところなのですね。

クエンティンはアンナに「好きな人と遠くへ行くんでしょう」といい、図星を指され動揺するリルアーナですが、クエンティンは「あなたの中からはいつも歌が、あなたを思う真心や自由への希望や喜びが溢れ出していて、僕が聞こうとしなくても聴こえてしまうんです」というのです。クエンティンの天恵はフースルー(万物の歌を聴いてそれを歌う。そのことは「夏休み」にDXに明らかにしていました)なので、分かってしまうのですね。恥じらうリルアーナ。この恥じらいは、「ランドリオール」には貴重です。(笑)そして驚くべき秘密が明らかにされます。

この「七つの涙をこぼす羽根=セメンステアツスイ」は、元々リルアーナが持っていたものをクエンティンが取り戻し、それをユージェニがしている、ということになっていたのですが、実は元々はクエンティンが曾祖母からもらった宝物で、それをリルアーナに祝福とともにプレゼントしたものだったのですね。「アンナは僕の大切なお姫さまだから幸せになってくださいアンナ」という歌とともに。

ここのリルアーナとクエンティンのくだり、本当におとぎ話みたいで、すごく好きです。無垢な頃のクエンティンの天恵とアンナへの無償の愛情。その後のクエンティンの辿った凄惨な人生を考えると、涙が出そうになりますね。

しかし現在のクエンティンは、その記憶が蘇ってひどく動揺しています。そしてさらにその先も思い出して行く。

前王の軍隊に襲われ、壊滅したザンドリオ。一人のマントを被った男に手を引かれてそこから逃げる幼いクエンティン。しかし、その男はクエンティンを庇い、矢を浴びて亡くなってしまう。その男は、王の命令に背いた若い従騎士の一人、金の髪に紫の瞳。読んでいてハッとします。もう消えようとしているクエンティンの胸の呪いの文様は、そうした記憶の復活とセットになっているのかもしれません。

膝をついてクエンティンを見守るユージェニにクエンティンはいう。あれは、あの人は、君の父親。ああ、だからリルアーナは私を・・・とクエンティンは思う。「愛した人が守った命だったから」リルアーナはクエンティンを探し出してくれたのだ、ということにクエンティンは初めて気がつきます。

「七つの涙をこぼす羽根」は、あなたを助けるために私のもとにあったのだ、というリルアーナの言葉を思いだし、涙ぐむクエンティン。それを思い出させたのは、メイアンディアの天恵だったのですね。

鼻血を出してひどい表情のディアですが、その目は真っ直ぐにクエンティンを見ています。

物語の大きな枠が、次々に明らかになって行きます。素晴らしい展開です。

今月は、DXがクエンティンの野望を完全に打ち砕き、そしてそれを王都でオズモたちが支え、そのクエンティンの復讐の念の起こりの時点の、クエンティンさえ失っていた記憶を思い起こさせ、涙を流させたメイアンディアの、それぞれの活躍があって初めて、この乱を治めることが出来る、失われたピースを一つひとつ繋ぎあわせて、アトルニアをあるべき姿に戻して行く、そんな修復作業のようなエピソードだと思いました。

今月も面白かったです。来月もまた、楽しみです。