「彼女はイクスペリアの后・・・」

スークは愕然とした。軽々と宙を飛び、誰よりも馬を乗りこなし、先頭に立って敵陣に切り込んで行く、あのエミアが大国イクスペリアの后だったとは。

「し、しかし・・・あ!」

そうだ、イクスペリアの王は昨年の戦いで戦死したはず。それならば・・・

「そうだ。彼女は未亡人だ。そして、王国の全相続権を握っている。」

伝令は冷たい声で言った。

「相続権・・・?」

「ああ。イクスペリアの古来の法により、女子には相続権は認められるが、女子自身が王となることは出来ない。」

「しかし、それは先王エミタスが法を変えようとしていたのでは・・・」

「族長会議が認めなかったのだ。先王は、誰よりも后を信頼していた。だから后を女王とし、イクスペリアがこの大地を統一し、平和をもたらすことに期待していた。」

「しかし族長たちが認めなかった、と・・・」

「ああ。三代前の王まで、王は族長たちによる選挙で選ばれることになっていた。だから族長たちは、后が最も優れた戦士であることは認めながらも、自らの古来の権利を侵害されることを阻止しようとしているのだ。」

「ならばイクスペリアは内紛の・・・?」

「いや、そこまで族長たちも愚かではない。エミアが先頭に立ってイクスペリアを守り、領土を広げて行くことが自分たちの利益につながることは理解している。だから、エミアに認められた相続権を奪おうとするものはいない。」

「ということは・・・?」

「族長たちは、エミアが切り取った領土を、エミアの死後、そっくり頂こうとしているのだ。だからエミアの相続権は認めている。しかしエミアが死んだらエミアが誰を指名しようと、族長会議でひっくり返す腹だろう。」

「そんな・・・」

「だから我々は探しているのだ。先王の后エミアが認め、エミアの婿となってこのイクスペリアの王となる男を。」

スークは愕然とした。それならばエミアは自分のことを・・・

「だが、騎士スーク」

伝令はにやりとして言った。

「后はお前に失望したと言っていたぞ」

スークはカッとして言った。

「ど、どういうことだ」

「この身とこの国を任すに足る男だと思っていたに、とんだ意気地なしだと。」

「ふ、ふざけるな!あんな16、7歳の小娘が、先王の后だったなどと誰が信じられる!」

「人は見た目によらないということさ。」

伝令は馬の鼻を首都に向けて言った。

「お前がこの国の王になる意思があるなら、俺と来い。そうでないならば、お前は一生・・・、いや、そう長くもない先にこの戦場で朽ち果てることになるだろう。猶予は三日だ。」

伝令が去ったあと、スークは呆然として立ちすくんだ。

なんということだ。

***

ファンタジーの断片を書いてみました。