今週のジャンプはいくつも面白い作品があったのですが、きのうの「One Piece」に続いてもうひとつ、附田祐斗さん原作・佐伯俊さん作画の「食戟のソーマ」第151話「開戦」の感想を書きたいと思います。

食戟のソーマ 16 (ジャンプコミックスDIGITAL)
附田祐斗・佐伯俊
集英社


単行本16巻で、遠月料理学園の女王のような存在である撫切えりな(遠月十傑第十席)の父親であり、えりなの祖父の学園総帥・仙左衛門によって追放されていたえりなの父親・撫切(中村)薊の起こしたクーデターによって、ただ一つの味のみを肯定するファシズムのような体制にされてしまった遠月学園ですが、主人公・幸平創真はそれを推進する遠月十傑・第九席の叡山枝津也に食戟で勝利して、自治権を奪われ閉鎖されそうになった創真の住む極星寮を守ります。しかしその祝賀会のさなか、現れたのは新総帥・薊でした。

寮母の大道寺ふみ代との会話の中で、薊が実は元寮生であったことが明らかにされ、これからも手を緩めないという薊にひとこと言うために玄関に追って来た創真は、薊が尊敬する先輩が創真の父・才波城一郎であることを知り、「それオレの親父っすわ」と言う。そこに現れたのが撫切えりな。その会話を、えりなは聞いてしまいます。というのは、創真を毛嫌いしているえりなの憧れの料理人が、実は才波城一郎だったからなのです。というところまでが先週までの展開でした。

それを聞いてきょとんとする薊と、半信半疑のえりな。そこに追って来たタクミ、榊、イサミ、秘書子、吉野たち。タクミは塩を持っています。榊は城一郎のことを知らない(と思っている)えりなとアルディーニ兄弟、秘書子に城一郎は幸平の父で元十傑第二席だと説明します。驚くタクミたち、秘書子は「それほどの人物を父に持っていたとは」と目を丸くします。吉野はスマホを操作して夏休み前に城一郎が来たときの写真をえりなに見せる。えりなは、そこにはまぎれもなく、寮生たちに囲まれて、城一郎と創真がツーショットで移っているのを見て、ショックを受けます。

ここのショックを受ける場面が今週の最大の見所であることは間違いありません。(笑)何しろ読者はずっと前から知っていたわけですが、一体いつえりながそのことを知ってショックを受けるだろうというのがずっと気になって来たわけですから。その時がついに来た。ずいぶんさらっと語られた気がしましたが、しかし物語の展開上はここで語られなければならないところだったことが明らかになります。しかしそれはともかく、「えりな様」が「私の憧れの料理人が幸平君の父親!?」とドーンと来ただけでなく、いままで創真に対して意地を張ったり無理に否定したり、遠月から追い出そうとしたり「えりなの信じる正しい味」にまるでこだわらない創真に対して意地悪をして来たことが一度に思い出され、「えーっ!!」という状態になって、ふらふらしてしまい、榊や田所を慌てさせます。

しかし薊はそれを聞いて考え込みます。「偶然か?僕の娘がいる学年に才波先輩の息子がいるなんて」とつぶやく薊は、えりなと顔を見合わせます。お互い、相手が城一郎のことを知っているとは思っていなかったのですね。

薊は考え込み、くす、と笑って「そういう事か」とつぶやきます。「さて・・・?どこまでが偶然でどこからが仕組まれた事なのかな?」と。

そうですね。いままでの伏線から言うと、まず、城一郎は遠月を卒業していません。これは本人が言っていました。なのに、たびたび城一郎は遠月を訪れています。そして、仙左衛門とも何度も会っているようですし、また仙左衛門自身がわざわざ極星寮に創真を尋ねて来て、「君が遠月を受験するように城一郎に進めたのはわしなのだ」と言っていました。そして仙左衛門が創真に言った言葉。「えりなを救ってほしい」と。

また、薊とえりなの双方が相手が城一郎のことを知っている事を知らなかったという事は、えりなが城一郎に会って憧れたのは薊が遠月から追放されたあとだということになります。それもまた、仙左衛門の教育の一環だったのかもしれません。つまり、えりなを「救う」ための。

元々薊が遠月から追放されたのは、薊が「神の舌」を持つえりなに虐待にも等しい洗脳教育を施したからでした。仙左衛門が「えりなを救う」というのは、その「教育」の呪縛を解いてやってほしい、ということのはずです。

ですから薊には、その背景が理解出来たのですね。しかしそんな薊を見て創真は苛ついて、「アンタの革命で俺らがすげえ迷惑してる、関係ない話をしないでくれます?」というのですが、薊は何と「僕が遠月学園に施した大変革、これらは全て才波先輩を駄目にした腐った料理界への救済に他ならないのだから」と言い放つのでした。

車に乗って去る薊を呆然と見送る一同。創真もえりなも薊の言葉を思い返して思います。城一郎と薊の間にいったい何があったのか。そして、いま薊が起こしている事件と創真、えりなを巡る深い因縁の中心に、城一郎がいるという事を理解するのでした。そしてそれを見送るふみ代はつぶやきます。「救済ねえ・・・アンタのやってる事は、復讐と変わらないじゃないか」と。

ここまでの一気の寄せ、息を呑むばかりの緊張感でした。

そしてそのあとは新たな展開。極星寮の主のような存在であり、十傑第七席でもあり、この夜も薊と対決した一色慧は薊に呼び出され、薊の推進する改革の中心である「中枢美食機関(セントラル)」に賛同しない三席の女木島、八席の久我とともに十傑を降ろされる事が告げられます。そして二席の小林竜胆、四席の茜ヶ久保もも、五席の斎藤 綜明、六席の紀ノ国寧々、九席の叡山枝津也が解体撤回を望む研究会やゼミとの勝負に向かいます。竜胆曰く、「残党狩り」なのですが。

そして彼らの胸には、薊の花の紋章の「中枢美食機関」のバッジが。

この展開はホントにいやな感じで、そういう意味で実に上手だなと思いました。

「食戟のソーマ」はときどき展開に強引なところがあるのですが、全体の見取り図を後から考えると、こういう風になるのか、とあとでは納得する、という事が多いです。

それにしても、憧れの料理人・才波城一郎が創真の父親である事を知ったえりなは、今後創真にどのように節して行くのか。そしてそれは、この先に展開に絶対絡んで来る事だろうと思います。

料理学園の物語と言う単なる日常的な展開になりそうな話をここまで奇想天外な盛り上げ方にするのは凄いなといつも思います。来週以降、とても楽しみになってきました。