佐伯俊さんの『食戟のソーマ』1~14巻とジャンプ37・38号掲載第130話まで読みました!

食戟のソーマ 13 (ジャンプコミックスDIGITAL)
附田祐人原作・佐伯俊作画・協力森崎友紀
集英社


お盆休み中、新たなマンガが発売されないので、最近読んでいて面白いものを最初から読んでみようと思い、附田祐人さん原作・佐伯俊さん作画・森崎友紀さん協力の『食戟のソーマ』を読み始めました。予想以上に面白く、一気に現在連載中の最新130話まで読んでしまいました。

130話ということは大体二年半程連載が続いているのですね。いま確かめると、『このマンガがすごい!2014』では12位に入っていました。現在はアニメでも放送中で、このアニメも面白く、途中からは欠かさず見ています。単行本は14巻まで出ていますが、どれも息をもつかせぬ展開で、つい次の巻を読んでしまいます。

このマンガの「ウリ」は、うまい料理を食べた時のリアクションが、性的な快感を受けたような描写で描かれる場面だ、と認識されている面はあると思うのですが、最初はあまりに唐突なそれらの描写にこれはなんなのかなーと思っていました。しかし、読んでいるうちにそれがあまり嫌みがなく、すっ飛んだ突抜具合になっていて、「このマンガはこういうノリなんだな」ということがすんなり納得出来るようになって行く、というのが面白いなと思いました。

主人公は幸平創真(ゆきひらそうま)。父・城一郎がやっている「お食事処・ゆきひら」で父を手伝う中三生ですが、ある日突然城一郎は店を閉めると宣言。創真は中高一貫教育の料理学校・遠月学園に高一から編入することになります。

ここでいきなりな展開ですが、この遠月学園は実は卒業到達率1割以下の超絶エリート校であること、父が向かった先は実はニューヨークの超高級ホテルで、請われて料理を出している、といきなり現実離れ。

私はジャンプの連載を途中から読んだので、創真に父がいるということは把握してましたが生きてるのかどうかもよくわからなかったのですが、最初からそんなむちゃくちゃな展開だったわけですね。定食屋の親父だと思っていた父が実はワールドクラスの料理人だった、と。

そして入った遠月学園。ここでは生徒の中の優秀者・「遠月十傑」が学園を仕切っていて、その中の一人で学園理事長の孫娘・同学年の薙切えりなが編入試験を仕切っています。創真の作る大衆的な料理をうまいと言わされそうになってプライドを傷つけられたえりなは創真を落としますが、その祖父・薙切仙左衛門がその料理を評価し、合格させます。この超エリート校に入学することになった創真ですが、始業式で「この学園のことは正直踏み台としか思ってないです。入ったからにはてっぺん獲るんで」と宣言し、総すかんを食います。

という、まあ少年ジャンプらしい熱血展開?でめちゃくちゃだけどやたらとキャラが立ったメンツが料理をめぐるバトルを繰り広げる。そして審査員という名のお客さんたち(これもそうそうたるメンバー)が上記のような「食の快感」を味わって行くわけですね。

第1巻がそうしたイントロ的な内容、出て来る主なキャラは創真と城一郎、薙切一族以外で言えば、これからよくコンビを組むことになる田所恵ですね。この田所恵がどんくさいキャラなんですが、一番かわいく見える。まあこういうストーリーですので登場するキャラが皆「オレが私が」という感じなのが、一生懸命だけど以外な強さを持った頑張りキャラ、というわりと得するポジションだから、ということはあるでしょうね。

第2巻が創真が暮らすことになる「極星寮」の話、ここで寮生や寮母さんが出てきますが、鍵になりそうなのは十傑七席の「一色先輩」でしょうか。そして題名にもなっている「食戟」について語られる。食戟は生徒間のトラブルを解決する手段として用いられ、対決する両者はなにがしかを賭けて戦う。食戟だけではないのですが、この「戦い」がこの物語のメインイベントになって行きます。つまりこの話は古くは「包丁人味平」に始まる料理バトルの系譜を引き、学園ものとお色気ものを組み合わせながら、実はものすごく真摯な人間の生きる姿を描くところまで到達している、まあちょっと例を見ない作品なのですね。

2巻ではその他に丼研究会の話と重要なキャラの一人・肉魅(水戸郁魅)が登場。肌褐色率の高いこの作品ですが、最初のキャラがこの肉魅ですね。ここでは「丼物とは、一椀で完結するもの」という本質が語られていて、これはあとの「弁当」などのネタでもそうですが、なるほどなあと思います。

2巻の終わりから5巻の途中までが合宿研修、これもなかなかハードな展開。ライバルを自称するタクミ・アルディーニの他、堂島銀、四宮小次郎と言った剣豪みたいなキャラも出てきます。5巻では「商店街のからあげ」というインターミッション的なエピソードをはさみ、長い長い「秋の選抜」の話がスタート。6巻で城一郎がちょっと登場したあと、選抜のお題「カレー料理」をめぐり、これまた褐色キャラで「香りのスペシャリスト」葉山アキラが現れます。「秋の選抜」は結局13巻まで続きます。

そして13巻途中から14巻の途中までが実習=スタジエールの話で、ここも面白かった。そして現在では、学園祭での料理バトル、ということになっています。

印象に残った場面はいくつもありますが、3つに絞ると、一つ目は11巻の美作昴との秋の選抜準決勝・兼食戟。美作昴はごついキャラなんですが、対戦相手の作るものを徹底的にトレースしてそこにプラスαを加え、相手との戦いに勝つと言う、まあ言えば凄くいやなキャラなんですが、創真はその繊細な仕事を凄く評価している。創真は美作の戦いかたに「何であんなくだらねー勝負やってんの?」といいます。徹底的にストーカー並みの調査能力で相手の料理を徹底トレースする美作に、「オレだってこの一週間、ずっとお前のことを考えていたんだぜ?」という創真。創真の作った料理は、「プラスα」を加えるだけの美作の料理ではなく、調理が始まってからも常に組み立て続けた、美作の真似の出来ないことをした、と言うわけです。

美作は敗北し、遠月を辞めると言いますが、創真はそれを許さない。この食戟に賭けたものは、美作がいままで奪ってきた多くの料理人の包丁で、それを、創真が取り返したのですが、大事な両手包丁を獲られたタクミ・アルディーニが、創真に勝って取り戻す、と受け取りを拒む。料理人はどうしようもない負けず嫌いだ、でももう立ち上がれないくらいの惨めな想いをしても、「明日も絶対に店は開けなきゃならねえ、それが料理人なんだよ。お前もそうじゃねーの?」という場面。この美作とのやり取り、なかなか上手くまとめられませんが、よかったです。

2つ目は13巻、秋の選抜の決勝で勝ち上がった創真、葉山アキラ、黒木場リョウの3人が、甲乙付け難い勝負になる中、最も料理人の顔の見える料理=スペシャリテを作り上げた葉山が優勝と決定する場面。スラム街の捨て子でありながら人並みはずれた嗅覚を持った葉山が、スパイスを研究する汐見潤にそこから救い出され、生きる意味を与えられる。葉山がここで作った料理はさんまのカルパッチョと言う普通なら前菜の料理を、敢えて「メインとなる一品」として出す、「誰も真似の出来ない方法で勝たなけりゃオレが作る意味がない!香りの力で味の世界を変える、それが俺の料理なんだ!」と、自分と汐見のコンビが最強なのだということを証明するために作った品がスペシャリテとして認められ、優勝する、ここの場面は何度読んでも感動します。

そして3つ目も13巻、スタジエールとして実習に行った「洋食の三田村」、もう一人は選抜で葉山に敗れ、薙切えりなの下を去った秘書子こと新戸緋沙子。創真と新戸の活躍で三田村は建て直されそうになるが、二人が帰ったら元の木阿弥、というのを解決するために、三田村のメンバーに訴える。「本当に貫きたいものがあるならば、体面など取り繕わずしがみつくべきです!この店には可能性があると思います。私はそれを信じたい!」という新戸の、このセリフの場面がとてもいい。そして研修を終えて変える時、負けた私はえりな様の下に戻れないと言う新戸に、創真は「これからは薙切の後ろじゃなくてさ、隣に立って歩ける自分に変わって行けばいいんじゃねーの?」といい、「一度敗北した私にそんな資格は」という新戸にさらに創真は、「本当に貫きたいものがあるなら体面気にせずしがみつく。こないだ自分で行ってたことじゃんか。」というのですね。その言葉に力を得た新戸は初めてはっきりと創真に「ありがとう」といい去って行くのですが、創真も改めて思います。「俺も結局、親父が歩いてきた足跡を追いかけて、料理してきただけだったのかも知んねえ。ゆきひら以外の料理の世界をたっぷり拝んで、俺自身の味に新しい光を当てるんだ」と。

何となく色っぽい場面が多くて敬遠している人もいるかと思うのですが、このあたりの展開は本当に感動しますし、名作だと思います。

ストーリーも作画も料理もとてもよく考えられ、技が冴えていますし、毎回クオリティが落ちない。こういう作品がいくつもあるジャンプは、やはり凄い雑誌だなと思います。

今後とも展開を楽しみにしたいと思います。