モーニング36・37合併号で一色まことさんの「ピアノの森」第234話「覇者の宿命」を読みました!

ピアノの森(25)
一色まこと
講談社


ついに連載再開!

昨年のモーニング47号(10月23日発売)を最後に長い間連載が中断していた「ピアノの森」ですが、9ヶ月半ぶりに連載が再開されました。今週は表紙もカイの姿、巻頭カラーで4ページの阿字野とカイのツーショットが続きます。永久保存版、という感じの連載再開号になりました。

またカラーページ以外でも26ページのボリュームがあり、再開を祝してじっくりと描写が続いているという感じです。

単行本25巻は232話まで所収されていましたので、26巻が9話収録とすると今回を入れてあと8回。モーニングの表紙には「18年間ありがとう。完結まで毎号掲載!」とのことなので、今までの連載ペースから言っておそらくもうラストまでほとんど原稿は出来ているのではないかと思います。そして、10月半ばに大団円、ということになるのでしょうか。まだ回収されていない伏線はけっこうあると思いますが、どういう感じでラストをまとめて見せていただけるのか、とても楽しみです。

このストーリーはカイの長い長い成長物語でもありましたが、最悪の環境に生まれた最高の天才がどのように力を見いだされ、どのように力を発揮して行ったかの、奇跡の物語、ファンタジーでもあるわけですね。

私がこの作品に出会ったのは、確か2009年のことだったと思いますから、それからでも6年になります。既に単行本は14巻まででていましたが、最初に読んだ時の衝撃をまざまざと思い出します。

阿字野の指導のおかげでポーランドで5年に一度開催されているショパンコンクールに出場したカイは、並みいるライバルを退けてついに優勝、というのが単行本25巻のラストまででした。普通に考えるとここからはエピローグかな?という感じではあるのですが、一色さんのことなのでそんなに単純に終わらせるとも思えず、いろいろ楽しみは残っています。

以下、内容に触れながら感想を書きますので、モーニング本誌あるいはDモーニング本誌をお読みいただいてから読んでいただければと思います。(ちなみに、私はピアノの森の掲載週だけ紙のモーニングを買っていて、そうでない週はDモーニングで読んでいます。モーニングを買うのも、何だか懐かしい感じがしました。)

冒頭のカラーページ、幼いカイと阿字野、それに森のピアノ。次のページからは、紙鍵盤を持つカイ、ピエロ姿のカイ、自転車に乗るカイ、マリアに化けたカイ、お腹を抱えて笑うカイ、そして黒いスーツ姿のカイと、そのときどきの阿字野先生。深い森がだんだん明るくなって、最後のページは金色に色づいた森。とても印象的です。

冒頭、日本で観ている森の端の仲間たち、が優勝に感激して叫んでいるところ。その中にいるカイの母親、レイコに阿字野がポーランドから電話をしています。「カイが優勝しました」という阿字野に、「嬉しいのを通り越して怖いくらいで・・・」というレイコ。「先生に会いたいです」というレイコ。レイコはカイのことで阿字野に感謝しているということもありますが、やはり男性として阿字野のことを慕っている、ということもあるのですね。「今すぐ・・・」というレイコに、阿字野も答えます。「今すぐは難しいですが、日本に戻ったら必ず、一番に会いに行きます」というのでした。

雨宮修平のターン。「ぼくらのカイくんが三賞取っただけでなく、ショパンコンクールの覇者になったんだ!」と感激する修平は、誉子やばあや、ナストゥルイの常連、それに光生にまでハグしてちょっとしまったという顔をしています。

一方、カイは思いっきりマスコミに囲まれていますが、阿字野と離れてしまっていて、どうも心細い。阿字野の方はもっと多くのマスコミにつかまって、いろいろ聞かれています。何しろ阿字野は以前のショパンコンクールで本命と見なされながら一次予選で落選した過去があり(これはポゴレリッチ落選のエピソードですね。それでマルタ・アルゲリッチが怒って審査員を降りてしまったという有名な事件がありました)、そのリベンジだという面もあったわけですね。

この物語の中ではジャン・ジャック・セローが阿字野の落選に抗議して審査員を降りてしまうのですが、そこからセローと阿字野の交流が始まり、事故にあってピアニストとして再起不能になった阿字野を励まして来たのもセローだったわけです。

そのセローが阿字野を見て「すっかりマスコミの餌食だな」とちょっと渋い顔をしています。阿字野には優勝者の指導者という要素だけでなく、過去の落選をめぐるスキャンダルと、事故で再起不能に落ちいたという過去、それに今回の準優勝者・パンウェイがずっと阿字野のピアノを目標に精進してきたということがとあるパパラッチマスコミのせいで明らかになったということもあり、何重にも注目されているのですね。

しかし「助けに行きなよ」というナストゥルイのマスター・ヤンに対し、「まさか!壮介は騒がれるだけのことをしたんだよ!メディアには世界中にばんばん宣伝してもらわないと!」というセロー。阿字野も落ち着いて答えていますが、カイはちょっと心配そうに阿字野の方を見ると、その視線に気づいた阿字野はにっこりと笑い、カイも安心します。

この阿字野とカイの心が通じ合った微笑み、凄くいいですね。

次の場面、なぜか修平は今度は佐賀先生と抱き合ってます。(笑)これはいいのか。司馬先生の姿も見えますね。

一方、前回の最後にショパン協会会長のブゼクから電話が入った審査員のピオトロ。ピオトロは今までなんとかポーランド人を優勝させようといろいろ暗躍していたのですが、結局「音楽的に一番素晴らしかった演奏」ということで割切って、カイを一位にし、優勝させたわけですね。他のポーランド人審査員たちも、固唾をのんでその会話を聞いています。

ブゼク会長は、なぜ日本人を優勝させたのか、ポーランド人のシマノフスキでなかったのはなぜか、せめてスポンサーになっていた中国人のパンウェイにすべきだったんじゃないか、とピオトロを責め立てるのですが、ピオトロはついに「そんなことできるか!」と叫びます。「賞は私の一存で決められるはずもない・・・イチノセのマズルカ賞はほぼ全員一致で決まったんです。誰にイチノセの受賞を阻止出来たと言うんです!もちろん優勝もだ!」と叫ぶんですね。「君が次の審査委員長だと見込んでたくしているのに・・・」というブゼクに、「私は二度と音楽を裏切らない」というピオトロ。もう以前とは全然表情が違います。「優勝者にはスターにならなければならない宿命がある!最年少で実績も保証もない日本人をこの歴史あるコンクールの頂点にするなど・・・」というブゼクに、「もう手遅れですよ、全世界に向けて発表してしまいましたからね。今大会、イチノセの優勝には一点の曇りもない。ですからどうか会長も誇らしいお気持ちを・・・」ともう完全に言い切っています。

他の審査員たちも、「見直したぞピオトロくん」と言ったりして、どうやら何とかなったようです。

ピオトロは思います。

「ショパンコンクールの優勝者には、スターになってもらわなければならない。それが我々に共通の暗黙の願いだ。」と。

翌日の晴れがましい授賞式で、納得したのかどうかはわかりませんが、ブゼク会長は「コンクールを主宰するものとして最年少の出場者が優勝すると言う史上初の快挙の瞬間に立ち会えたことはこの上ない喜びです」と言っています。

そして授賞式の風景の中でピオトロの独白は続きます。「名のあるコンクールでも、スターを生むことが出来なければ、その名もいずれ堕ちて行くだろう。中には優勝者の重責に堪え兼ねて、ここをピークに消えて行くものもある。だがイチノセ!お前は消えるな!我々がこれまでのセオリーを捨てて、音楽の神に誓って、唯一の君を選んだのだから!だから絶対に、潰れてくれるな!」と。

そして客席で授賞式を見守る修平の後ろには、ミュージシャンハンドドクターの姿が!

優勝賞金全てをつぎ込むというカイに、手術を引き受けた仲尾。誰の手を直すのか…ってまあ、他にないわけですけど、作中ではまだ誰の手を直すのかは触れられてないんですね。

物語はとりあえず、ここからスタートして行くようです。

最終巻の中心は、その物語になるのかな・・・

最終シリーズの最初は、静かな滑り出しになりました。ここからコーダがどういう展開を見せるのか。

楽しみにしたいと思います!