別冊少年マガジン 2015年8月号 [2015年7月9日発売] [雑誌]
講談社


『別冊少年マガジン』8月号で諫山創さんの『進撃の巨人』第71話「傍観者」を読みました!

ストーリーもだいぶ大詰めになってきた『進撃の巨人』。諫山さんはどこかで「20巻くらいで終わる」というようなことを言っておられましたが、今回の71話が計算上は18巻の冒頭のエピソードということになります。「進撃の巨人」の単行本は1年に3回、4月9日・8月9日・12月9日に発売になっていますから、次の8月9日には第17巻が、そして来年の8月9日に20巻が出る計算になり、とすると来年の6月9日発売号までが20巻ですから、やはり大詰め感が漂ってきているのは間違いないだろうなと思います。ただ、エピソードも幅が広がってきているのできっちり20巻で終わるかどうかはわかりませんが、いずれにしても最後まで息をもつかせない展開になるのは確実だろうと思います。

前回、エレンが父・グリシャの記憶の中で見た「調査兵団の男」が現在は訓練兵団の鬼教官をやっている、エルヴィンの前の調査兵団団長・キース・シャーディスであることに気がつく、というところと、シガンシナ区で巨人同士の決闘?が行われ、ライナーの「鎧の巨人」があっという間に「獣の巨人」に敗れた、というところがラストでした。この「獣の巨人」の「中の人」がどうやら『進撃の巨人展』で「今後の展開の鍵を握る人物」として紹介されていたキャラだということも明らかになりました。

さて、それを受けての71話。ここからは内容に触れつつ感想を書きますので、どうぞ別マガ本誌をご覧頂いてから読んでいただければと思います。今月もまた超展開で、本当に面白かったです。

前号のラストは話がシャーディス教官の方へ行くか、シガンシナ区の巨人たちの方へ行くか、どちらだろうかと思っていたのですが、実際にはシャーディス教官の話の方へ行きました。

前話のラストの翌日の調整日。コニーは故郷のラガコ村へ巨人化した母親の様子を見に行き、ヒストリアは女王として、といったらいいのか、孤児院のようなところで働いているのですでに調査兵団員ではないのでしょう、104期も5人になりました。エレン、ミカサ、アルミン、ジャン、サシャの5人と、調査兵団のハンジ、リヴァイが馬に乗って訓練兵団を訪れます。

「104期訓練兵団上位10人」のうち、マルコは死に、アニは女型の巨人となって捕らえられ、ライナーとベルトルトは鎧の巨人・超大型巨人となってシガンシナ区へ脱走。そしてコニーが留守、ヒストリアは女王になったので10番以内に入ってはいないアルミンを加えても5人しかいなくなって、だいぶ雰囲気が寂しくなってきました。

そして、久しぶりに訪れた訓練兵団では、高い崖を上る訓練を行っているシャーディスのもとに、エレンたちが近づいて行きます。エレンは教官に対し、「心臓を捧げよ」の礼をします。礼をしているのはエレンだけで、ここがエレンらしいなと思います。

教官室でしょうか。テーブルの回りに皆が座っています。窓側にシャーディス、向かい合ってエレン。エレンの左側にシャーディスに近い側からハンジ、空席、ミカサ。右側にリヴァイ、ジャン、アルミン。シガンシナ組3人が近いところに座っています。サシャはやはりシャーディスにびくびくしているのか、席につかず、離れた壁際に立っています。

シャーディスはサシャがしぼられていたことを思い出しますが、「みな見違えるように変わった」と言います。リヴァイはスキンヘッドになったシャーディスに対し、「あんたもその…変わったな」といいます。シャーディスはなぜか自虐的に、「調査兵団団長が生きたまま交代したのは初めてだ。無能な頭を有能なものにすげ替えた、私の唯一の功績だ」などと言っています。今までそんなことを言うキャラではありませんでしたから、既にして不穏です。

ハンジが「ウォールマリア奪還を目前に控えた我々が今ここに詰め寄る理由を察しておいででしょうか?」と既にして尋問口調。やはりハンジとしては、身内であったはずの調査兵団団長が、なぜ大事だと思われる情報を隠していたのだ、と腹立たしく思っているのでしょうね。

それに答えてシャーディスは少し懐かしげな目をします。鋭いエレンの目とは対照的です。「エレン・・・お前は母親とよく似ているな」

これはびっくりしました。エレン、ミカサ、アルミンは一様に驚いた顔をします。そしてシャーディスは続けます。「だがその瞳の奥に宿す牙は父親そのものだ」と。

エレンは我慢しきれず立ち上がり、「話して下さい!知っていること全て!」と詰め寄ります。しかしシャーディスは静かに、「何も知らない」と言いながら、「人類の利にはなり得ない話でよければ聞いてくれ。傍観者に過ぎない私の思い出話を」と言います。「傍観者」というのはどうやらシャーディスのことらしい、ということがわかります。

ここからシャーディスの回想。20年前になると言います。「私がグリシャと出会ったのは、壁の外だった」というのです。

!!!

これは驚きです。グリシャはどこからやってきたのかわからない謎の人物だと「真の王」ロッド・レイスが言っていました。で、私も「壁の外から来たということなんだろうか」とは思っていたのですが、本当にそうだったのですね。

「どうやって壁を越えてきた!?」と問うシャーディスに、グリシャは驚いたような、喜んだような、そしてちょっと尋常でないような目の光を見せて、「あなたたちこそ壁の外で何を…まさか…戦っているのか?」と尋ねたのです。

・・・・・・

異様ですよね。一体どういう質問なのか。グリシャは白いシャツに黒いズボン。本当に「普通の格好」をしています。

この日、調査兵団は「極端に巨人の遭遇率が低かった」というのですね。そこから考えられるのは、グリシャもまた、ユミルと同じように数十年の間巨人として壁外をさまよっていた、という可能性と、どこからか…ライナーやベルトルトの「故郷」である可能性が高い気がしますが…どういう理由でかやって来た、という可能性が考えられるなと思います。

グリシャは調査兵団のことも知らず、また壁外で救出されてシガンシナ区の牢に入れられてハンネスに見張られていても何も記憶が残っていない、という状態になっていることを知らされますが、ハンネスは面倒くさがって「被害者がいるわけでもねえ。上への報告は無しだ」と全然適当に扱ってしまうところが可笑しいです。若いときから酔っぱらいでいい加減だった、というところが可笑しい安定ぶりです。

一方グリシャは牢から出て、シャーディスに頼みます。医者として働くことと、この世界のこと、調査兵団のことを教えてくれ、ということを。

「壁の中」のことを、全然知らないのですね、グリシャは。すごく楽しそうに、グリシャが喋るのが可笑しいです。キースとグリシャが酒場で飲みながら話をしているとグリシャは人々の暮らしぶりを気にしている。王様か?という感じですが、どうもレイス家との因縁を感じさせるグリシャですから、あながち間違ってもいないのかもしれません。壁の中の王になったレイス家が上手くやっているかどうかを、グリシャは知りたかったのではないか、という気がしました。

グリシャは「貧富の差こそあれこの壁の中は平和で巨人に怯えて暮らしているわけではない」ということを知って「よかった」といいます。シャーディスは「世界の広さを考えたこともないから幸せでいられる」と憮然として答えると、グリシャはまた「見直した」という顔をして「あなたが壁の外へ出て行く理由はそれか?それが調査兵団?」と興味深そうに答えます。自分たちは王の正当性を示すための見せしめ、と自虐的なことを言うシャーディスに、グリシャは真剣な顔をして「そんなわけないだろ。あなたたちはこの壁の誰よりも賢く勇気がある。調査兵団の存在は人間の想像力や魂が自由であることを示す証拠であり人類の誇りそのものだ」と一気に言います。

ここのグリシャ、何というかキリストみたいな、予言者みたいな感じなんですよね。

グリシャはすっかり喜んでしまうと、そこに横から酒場の女が話しかけます。「また調査兵団の勧誘かい?」と。それこそがエレンの母親、カルラでした。

グリシャは「私なんぞに務まるものではないでしょう。調査兵団はもっと特別な選ばれしものでないと」と答え、シャーディスはさらに嬉しくなってしまいます。ここはグリシャに、ある種の洗脳の力があることを感じさせるのですが、シャーディスはそれでいい気になってしまい、「自分が団長になったら成果を出せ、皆が自分を認めてくれるようになる」と思います。皆、というのに意識しているのはカルラなのですね。シャーディスはカルラが好きだった、ということがわかります。

しかしシガンシナ区を襲った伝染病。これは1巻1話から3話で出てきますね。このときはハンネス目線で語られるのですが、シャーディス目線では、カルラが伝染病になり、シャーディスが病院に担ぎ込むのですが、カルラは両親を助けてくれとグリシャに頼みます。それに対し、「大丈夫、みんな助かるよ!」というグリシャ。次のコマではハンネスが奥さんが助かったと礼を言い、有効な薬を発注しようと言うときカルラが両親の回復をグリシャにすがりついて礼を言う場面が描かれています。このおじいさんとおばあさんが、エレンの祖父母だということになりますね。その様子を見るシャーディスの横顔が、うーん。

調査兵団はその前の団長がやられてシャーディスが団長になり、一方グリシャとカルラの結婚式が描かれます。この指揮の場面と宴会の場面。満面の笑みのカルラがかわいいですし、普通の顔をしているときのカルラは本当にエレンにそっくりです。グリシャの若いときも本当にイケメンでカッコいい。

グリシャの雰囲気、ひとつにはロッドの弟であり真の王になったウーリに似ていますし、もう一方では「獣の巨人」の中身にも似ている気がします。この辺何とも言えませんが、無意識のうちに色々なところに関係を結びつけたくなりますね。

そしてここからがキースの悔恨の記憶。団長になったものの思うように成果を上げられないキース。一方、エルヴィンは長距離索敵陣形を考案し、戦わないことで活動範囲を広げるという提案をしますが、キースは却下します。しかし猪突猛進型の作戦しかないキースはいたずらに死者を出すだけで、エルヴィンの分隊は死人を出さない。街の声もキースに冷たくなってきたそのとき、キースに声をかけたのは幼い男の子を抱いたカルラでした。

そう、それがエレンなのですね。

カルラは、キースに「このまま死ぬまで続けるつもりですか?」と尋ねます。キースはかっとなり、「凡人は自分の死以上の価値を見いだせず、偉業はそういう人間には成し遂げられない。手当り次第に男に愛想を振りまき酒を注いで回るしか取り柄のないものなんぞには決して」と暴言を吐いてしまいます。

しかし次のコマで、あの1巻1話の有名なコマが来ます。キースが、死なせてしまった団員の母に、「今回の調査で、いや、今回もまた、我々は、何の成果も得られませんでした!私が無能なばかりに、ただいたずらに兵士を死なせ、ヤツらの正体を突き止めることが出来ませんでした!」と叫ぶあのコマです。

「そう。凡人は何も成し遂げられない。」キースの苦い述懐。「特別な人間はいる。ただそれが自分ではなかったというだけのこと。たったそれだけのことに気づくのに大勢の仲間を殺してしまった」と。キースの視線の先にはエルヴィン、ハンジ、ミケ、リヴァイがいます。逆に言えば、これだけ変人=特別な人間を集め得たのは、エルヴィンの才能だったのでしょう。

ここは苦いですね。一度でも自分が「特別な人間」だと思った、ないしは勘違いしたことがある人間に取っては、痛く響くところだと思います。

キースはエルヴィンに団長の職を託し、王都に向かいます。しかしその途中のウォール・ローゼ、つまりトロスト区ですね、でウォール・マリアが破られたとの報を聞きます。そしてそこでグリシャに再会したのでした。

グリシャはこのとき、レイス領の教会の地下で巨人化し、ロッドをのぞくレイス家の人々、特に巨人化の能力を持つ真の王・フリーダを虐殺してシガンシナに戻る途中だった、ということになります。そして振り向いたキースの顔は、エレンの脳裏に復活した「グリシャの見た光景」のキースと一致しています。

キースは思います。「なぜこんなことをしてしまったのか。大きな流れに翻弄されるだけの私がなぜ、あんな勘違いをしていたのだろう」、と。そしてグリシャの顔を見て思い出すのでした。「ああ、お前だったな」と。

自分が思い上がった原因をつくったのは、グリシャだったのだ、と。

グリシャは急いで家族を捜します。キースも手伝いますが、それは「あのときの無礼をカルラに謝りたい」という思いからでした。しかしグリシャが見つけたエレンは、「母さんが・・・巨人に・・・食われた・・・」というのでした。がくっと膝を落とすキースに対し、グリシャはエレンに言います。「母さんの仇を討て。お前には出来る」と。

そしてグリシャはエレンを森の中に連れて行きます。キースは、グリシャに「お前が討てばいいだろ。カルラの仇を。なんせお前は特別だからな。その子がお前の期待どおりの人間じゃなかったらどうするんだ。私のように」と半ば呪いのような言葉をかけます。そのときのキースの目は、濁った魚のような目をしています。

一方、眼光炯々としたグリシャの表情。「この子はあんたと違う。私の子だ。どうか頼む。関わらないでくれ」と。

キースの言う、「瞳の奥に宿す牙」とはこのことなんですね。

そしてキースを置き去りにして、二人は森の奥に入って行く。キースは動けない。ここのところ、「人を操る能力」をグリシャも持っているのだな、ということが推察されます。それが、フリーダから奪ったものなのか、もともとグリシャが持っていたものなのかはわかりませんが。

そして森の中で閃光が走り、(巨人化の閃光ですね)キースが森の中に入って行くと、エレンが一人で倒れている。15巻62話「罪」では巨人化したエレンがグリシャを食った際、食いちぎられたグリシャの上半身が描かれていましたが、今回は描かれていません。その死体は消えてしまったのか。キースはその死体を見ていたのか。それはここからは推察出来ませんでした。

そしてキースはエレンを寝床に戻し、話は現在に戻ります。

確かに結局、キースは自分の体験を述べただけで、何かの秘密を知っているとは少なくとも、思ってはいなかったようです。

エレンは意外な顔をして「それだけですか?」と尋ねるのですが、キースの述懐を聞いていたハンジは途中からムカムカして仕方なかったらしく、キースを「自分が特別じゃないとか同とか言ったそんな幼稚な理由で現実から逃げている。この情報が役に立つか立たないかをあんたが決めなくていいんだ。」と糾弾してしまいます。そしてリヴァイとエレンはそんなハンジを止めます。

エレンは、「オレは特別でも何でもなかった。ただ特別な父親の息子だった。それがはっきりわかってよかった」と、キースに引き摺られた感想を言います。それを聞いていたキースは、さらに言わなければならなかったこと、を言うのでした。

お前の母さんは、カルラはこういっていた、と。

ここが今月のクライマックスでしょう。

「特別じゃなきゃいけないんですか?私はそうは思ってませんよ。少なくともこの子は偉大になんてならなくてもいい。だって見て下さいよ、こんなにかわいい。だからこの子はもう偉いんです。この世界に生まれてきてくれたんだから」と。

ここは泣けます。母親の、一般的な感情かもしれませんが、この文脈で語られると、気負った「特別であること」なんてどうでもいいということがわかります。

そして、話はもっと先に進む。

「この世界に生まれてきたから」

それは、4巻第14話で「初めて」巨人化したエレンが自分のコントロール能力を失っていたのを、アルミンにうなじを突き刺されて覚醒し、アルミンに、「エレン・・・答えてくれ。壁から一歩外に出ればそこは地獄の世界なのに、どうしてエレンは外の世界に行きたいと思ったの?」と聞かれたときに自分を取り戻して答えたセリフ、

「どうしてだって・・・そんなの決まってんだろ・・・オレが!!この世に生まれたからだ!!」

と重なるのです。

カルラは、調査兵団に入りたがるエレンを「危なっかしい」と、ミカサと一緒になって止めようとしました。一方グリシャは「人間の探究心とは誰かに言われて抑えられるものではないよ。帰ったらずっと、秘密にしていた地下室を見せてやろう」と言ったのでした。カルラに「調査兵団なんてバカなマネ、ダメだからね」と言われたエレンはそれにあらがい、「家畜でも平気でいられる人間の方がよっぽど間抜けに見えるね!」と答えたのでした。

この1巻1話の会話の、一つ一つの言葉の意味、思いの重さが、ここに来て再度確かなものになる。キースは、確かに「傍観者」なのですが、この物語全体を貫くイェーガー家の風景を、ずっと「傍観」してきた人物だったのですね。

今回の構成には、本当に舌を巻きました。

そしてまだ最後に驚くことが残されてしました。

3年前、訓練兵団の志願者としてやってきたエレンの目を見たキースは思います。

「あの目だ。あの子は父親が願ったように自らの命を燃やし、壁の外で燃え尽きるだろう。母親の想いも知らずに」と。

そしてキースが、キース自身がエレンの立体機動訓練用のベルトの金具に細工をするのですね!

そして4巻15話に出てきたように、エレンは訓練用のベルトで姿勢を保つことが出来ず、無様に逆立ちをしてしまいます。

キースは、カルラの想いを実現させるために、エレンに訓練を諦めさせようとしたのですね。「お前の居場所はここではない。本当の自分に従って生きろ」と。

しかし、エレンは、超人的な意志で、壊れたベルトで一瞬姿勢を保ちます。「オレには素質がねえかもしれねえけど、根性だけは誰にも負けねえ!理屈なんか知らん!根拠も無い!でもオレにはこれしかねえ!これがオレの武器だ!」と。ひっくり返ったエレンにキースはトーマスのベルトと交換するように言います。そして簡単に姿勢を保つことが出来たため、キースは訓練を続けることを許可したのでした。

そのときのキースの内心のセリフは、「この破損した装備で一瞬姿勢を保った。そんなことが出来る者が他にいるだろうか。」と。そして、長い間「謎」だったこのセリフを言うのですね。「グリシャ、今日、お前の息子が兵士になったぞ」と。

翻って、第71話。キースの内心の声が加えられます。その超人的なエレンの姿を見て、キースは思うのでした。「そうだったな、私はただの傍観者に過ぎなかったのだ。私には何も変えることは出来ないのだから」と。

キースは、エレンが「母親の想い」にも関わらず、「特別な人間」であることを認めたのですね。

これは、第4巻の最後でリヴァイに「お前がしたいことは何だ」と尋ねられて「調査兵団に入って、とにかく巨人をぶっ殺したいです」と答えたエレンを見て、リヴァイが「悪くない」と答えたこと、そしてそのことを女型の巨人に追いつめられたとき、リヴァイ班の面々に「オレにはわかる。こいつは本当の化け物だ。「巨人の力」とは無関係にな。どんな力で押さえようともどんな檻に閉じ込めようともこいつの意識を服従させることは誰にも出来ない」と言ったセリフを思い出します。

エレンが「特別」であるのは、その「超人的な意志の力」そのものにあるのですね。

そしておそらく、その超人的な意志の力が発動したそのときにのみ、「奇跡」は起こる。巨人の胃の中で「初めて」巨人化したときも、12巻50話でライナーたちに攫われて、追いつめられて巨人化も出来ず、覚悟を決めたミカサに「エレン、聞いて。伝えたいことがある。私に、マフラーを巻いてくれてありがとう」と言われたとき、「そんなもの何度でも巻いてやる。これからもずっとオレが何度でも」といい、「叫び」とともにカルラを食った巨人にパンチをくれた時、回りの巨人たちが一斉にその巨人に襲いかかった、つまり「叫びの力」が発動したもそうでした。

エレンは、リヴァイやミカサ、エルヴィンやハンジが「特別の人間」であるようには「特別の人間」ではない。リヴァイやミカサは、まあいわば「天才」です。しかしエレンは、「巨人になる」という運命を背負った以外は何か特別に優れたところを持っているわけではない。しかし、意志の力、根性だけは誰にも負けない。それは、4巻16話で自分が言っている通り、その意志の力においてのみ、エレンは「特別の人間」なのですね。

しかし、複雑な状況、出生をめぐる秘密、謎の父親、仲間とのつながり、一般人の不信、権力による忌避、その他諸々のものがエレンの「意志」そのものをぐらつかせ、薙ぎ倒してきた。最初の頃の意志の塊だったエレンが、巨人化し、調査兵団に入ってからは何度も動揺しています。そこは、エレン自身が、何が自分の武器なのか、ということを見失っていたからなのですね。

「キースの伝言」は、それを思い出させてくれるもの、になるのだろうと思います。

挫折を知った人間は強い、と言いますから、次号からは「成長したエレンの意志」が見られるのかもしれません。

とても長くなりましたが、それだけの内容が今回のストーリーには詰め込まれていました。

とても良かったです。

まだ時間が合わずに映画のアニメ総集編の後編を見られていませんし、これから実写版公開もありますね。またネットではスピンオフの「悔いなき選択」との整合性が色々と議論されていたりもしました。やはり他の人が関わってきたときに、ストーリーの本当の核の部分がいっそう際立って来るように思います。

出来れば原作でフィニッシュまで読んでから、映画なども見たい気がするのですが、まあそれもリアルタイムで見られないことはちょっと残念な気がします。

いずれにしても本編のこの魅力は、色褪せることが無い。本当にすごい作品だと思います。

次号も楽しみにしたいと思います。