別冊少年マガジン 2015年6月号 [2015年5月9日発売] [雑誌]
講談社


別冊少年マガジン6月号で諫山創さんの『進撃の巨人』第69話「友人」を読みました!

前回は、父・ロッド・レイスが巨人化した「オルブド区の巨人」を、調査兵団の爆破作戦により、自ら立体機動でうなじを斬り、倒すことに成功したヒストリアが、「私はヒストリア・レイス。この壁の真の王です。」と宣言する、というところまででした。

実にわくわくしましたね。

まさに「来たー!」という感じでした。

それを受けて今回はどうなるのか…と思っていましたが、ある意味意表をつく展開。しかしもちろん、物語の進行上必要な部分でしたし、なんというかここのところの展開の中でもちょっと胸を突かれるものでした。

以下、内容に触れつつ感想を書いてみたいと思います。別冊少年マガジン本誌をお読みいただいてから読んでいただければと思います。

今回は、ケニー・アッカーマンの回想から始まります。

ケニーが初めて「自分より強い存在」に出会ったのが、巨人の力を操るウーリ。そう、ロッド・レイスの弟にして「巨人の力の継承者」であるウーリだったのですね。そしてこのウーリは、巨人を思うように操ることが出来る、そう、必要な部分だけ巨人化させて、自分の本体を露出させたままにすることが出来るようです。

これは、ごく初期にエレンが見せた力でもあるのですが、(3巻10話~11話)ウーリは必要な部分、つまり腕だけを巨人化させて、ケニーを捕らえたのです。そして、ウーリは「力」を持っている、つまり、「人の記憶を改竄する」力を持っているから、このときケニーを追いつめているウーリとロッドの存在を漏らした議会関係者をケニーに白状させようとロッドが言うと、「それが叶わないのだ、察するに彼は、アッカーマンの末裔ではなかろうか」というのですね。捕らえられたケニーは自暴自棄になる。それまで己の力のみを信仰していたケニーは、もっと強大な力に接して、その支えを失ってしまった、というのです。

しかしウーリはケニーに対し頭を垂れ、「我々がアッカーマン一族にもたらした迫害の歴史を考えれば、君の恨みは真っ当だ。だが、私は今死ぬわけにはいかない。どうか許してくれ」と許しを乞うたのです。そのときケニーは「自分の中の何かが大きく揺らいだのを感じ」、ウーリに従うと申し出たのでした。

それによってケニーは「レイス家の犬」になり、「アッカーマン家の迫害」は終わった、というわけなのですね。それでケニーは娼家に売られた妹・クシェルを訪ねますがすでに死んでいて、そこには痩せこけた一人の少年がいたのです。名を問うと彼は、「リヴァイ…ただのリヴァイ」と答えたのでした。

・・・・・これは今までのケニーの回想で大体予想がついたことですが、リヴァイはケニーの妹が「誰か分からない客の子」を生んだ、その子だったのですね。そしてケニーは「名乗る価値もねえよな」といい、(アッカーマンという姓を、ということでしょう)「俺はケニー、ただのケニーだ。クシェルとは…知り合いだった」とリヴァイに告げるのでした。

リヴァイには自分との血縁のことは言ってなかったのですね。

とにかくリヴァイを養うことにしたケニーは、ナイフの握り方、恐喝の仕方その他、「地下街で生き残る術」を教え込んだ。そしてリヴァイは、ケニーに教えられたナイフの持ち方ではなく、自分で逆手に持つ持ち方を考え出すのでした。これはもちろん、ほかの調査兵団の団員と違い、一人だけブレードを逆手に持つリヴァイの特徴、ないし天才性が、すでにこのときに現れていた、ということなのでしょう。

ケニーはサネスに中央憲兵を紹介され、サネスが王(これはウーリのことでしょう)に心酔しているのを見ます。しかしケニーは自分がなぜ王に下ったかという理由を考えたときに、「奴が一番強えからだ」という答えを見つけます。

そして少年リヴァイが地下街で一丁前に大人のゴロツキを痛めつけるまでに「成長」したのを見たケニーは、リヴァイから離れて行くのでした。「力さえありゃいいんだよ。少なくとも妹みてえな最後を迎えることはねえだろうからな」と。

これは「タイガーマスク」のエンディングの、「強ければそれでいいんだ 力さえあればいいんだ」という歌詞を思い出しますが、シンプルですがある種の哲学であるわけです。

そしてウーリが「私はもう長くない」と言ったときに聞かされた秘密。「この力はロッドの子たちに引き継がれる。私はその子らの記憶の中で生き続けるだろう」

そしてウーリは寂しそうな顔をして言います。

「ケニー、この世界はそう遠くない未来、必ず滅ぶ。そのわずかな人類の黄昏に、私は楽園を築き上げたいのだ」というのでした。

ウーリはそういう理想を持っていたのですね。理想と言うか、諦念を元にした、儚い夢とでも言うべきものだとも言えますが。

ウーリはケニーに問います。「お前は暴力を信じているな?だが滅ぼし合うしかなかった我々を友人にしたものは一体なんだ?」と。「私はあのときの奇蹟を・・・信じている」というのでした。

「暴力を信じている」ケニーは、ウーリとは「同じ気分」にはなれなかったのですが、ウーリの死後その力がヒストリアの姉・フリーダに受け継がれ、「愛とか平和とか似たようなことを」ほざいていて、ケニーには新たなる野望が起こったのです。「どうしてお前はそんな暇なことを言ってられる?その力を手にすれば、力があって余裕があれば、誰でも、例えば俺でも、同じなのか?」と。

ケニーはその野望のために、「対人立体機動部隊」を作り、「調査兵団に対抗する秘密組織」という名目をつけますが、そこに加わったエリート兵団員たち、その中の背の高い女性の虚無的な態度を見て、自分の「大いなる夢」を語ったのでした。

ケニーの野望、その「大いなる夢」は、神にも等しい力を手に入れると「慈悲深くなる」、それは自分のような「クソ野郎」でも同じなのか、一体どんな気分なのか、そこから一体どんな景色が見えるのか、それを「知る」こと、だったのですね。自分も、「友人」と言ってくれたウーリと、「お前と対等な景色を見ることが出来るのか?」それを知りたい、ということだったわけです。

ここはとても感動しました。力を求めた果てに、ケニーが夢見たものは、「ウーリと対等な景色を見ること」だったのだと。

しかし現実に戻った今、ケニーは傷ついている。ロッドが巨人化し、それから逃れたときに、ケニーはほとんど致命的な傷を負ったようです。そんなケニーの前に現れたのはリヴァイでした。

リヴァイは一緒にいた兵を報告に行かせ、ケニーと二人きりになります。もう助からねえな、と言うリヴァイに、ケニーは注射セットを見せます。ケニーは、ロッド・レイスの鞄から、一つくすねていたのです。これを打って巨人になれば、ひとまずは延命出来るはずだ、とケニーは言います。しかし、ケニーにそんな気はないようです。

ケニーはリヴァイにいいます。「今なら奴のやったこと、分かる気がする」と。それは、ウーリがなぜ「弱い」自分に頭を垂れて謝ったのか、ということについてでした。「俺が見てきた奴らはみな、酒だったり、女だったり(ロッド)、神様だったり(ウォール教)、一族だったり(ケニーの祖父)、王様だったり(サネス)、夢だったり(ケニーの部下たち)、子供だったり(誰だろう?)、力だったり(自分)、みんな何かに酔っぱらってねえとやってられなかったんだな」と。

ここは本当にぞくぞくしました。すごいこと言ってるぞ、この男は、と。

「みんな、何かの奴隷だった…あいつ(ウーリ)でさえも」と。

ウーリは何の奴隷だったのか。「理想」の奴隷だった、とケニーは言っているのでしょうか。

そしてケニーはリヴァイに言います。「お前は何だ?英雄か?」と。

・・・・・・多分それは、というか絶対、違いますよね。

その辺りに、リヴァイとケニーの違いがある。

リヴァイは瀕死のケニーに尋ねます。「初代王はなぜ、人類の存続を望まない?」と。ケニーは、「知らねえよ。だが、俺らアッカーマンが対立した理由はそれだ。」と言います。

そしてリヴァイは、「俺の姓もアッカーマンらしいな?」と尋ねます。どうやって知ったのでしょう。そして「あんた、本当は母さんの何だ?」と聞くと、「ただの兄貴だ」と答えます。ここで初めてリヴァイはケニーが、唯一の血縁であることを知ったのですね。そして「あのときなんで俺から去って行った?」と尋ねられたケニーは、「俺は人の親にはなれねえよ」と気力を振り絞っていいつつ、ドン、と注射器セットをリヴァイに押し付けて息絶えたのでした。

森の中、わずかに草花が咲いています。

そんな弔意が示されること、このマンガには滅多にないわけですが、それだけこのケニーの存在が、大きなものであることを示しているのかもしれません。

しっとりとします。

そしてページをめくるといきなり、ヒストリアの戴冠式。

・・・この切り替えがすごいです。正直ぶっ飛びました。ヒストリアに王冠を授けるもの、そして五人の兵団の長。宮殿の前の櫓での戴冠式、垂れ幕にはマリア、ローゼ、シーナの3つの壁とその女神が描かれています。

「あの少女が壁の何倍もある巨人を倒したって?あんな小さな身体で我々を巨人から救ったのか。影の王である父親の暴走を自らの手で鎮められたのだ。我が壁の真の王よ!ヒストリア女王!」と。観衆の中にはハンジ、モブリット、そしてトロスト区の商会の後を継いだフレーゲル・リーブス、新聞社のロイとピュレがいます。そして壇上で新女王に忠誠を誓う兵団長の中には、調査兵団団長のエルヴィンもいます。

エルヴィンは、ヒストリアが「私が巨人にとどめを刺したことにして下さい!そうすればこの壁の求心力となって情勢は固まるはずです」と言ったことを思い出し、「まさか本当にしとめてしまうとは」と思います。

そして王冠を被り、女王のローブを着たヒストリアは、「心臓を捧げよ!」の敬礼をしています。

巨人との戦いは続く、という意思表示なのでしょうね。

そしてページをめくると、宮殿内でしょうか、ヒストリアと長いコートの正装をした104期たち。ヒストリアは、「リヴァイ兵長をぶん殴る」と言う「リーブス会長の最後の冗談」を実行しようとしています。例によって兵長を畏怖とともに尊敬しているエレンは「別に恨んでねえならやめとけよ」と言いますが、ヒストリアは「こうでもしないと女王なんて務まらないよ」といい、ジャンも「いいぞヒストリア、その調子だ」と煽ります。このあたり、シェイクスピアの「ヘンリー4世」のハル王子の悪仲間たち、フォルスタッフとか、を何となく思い出しました。

そこに、リヴァイがいました。

ヒストリアは一大決心をしてなんとかリヴァイの肩を殴ります。みんな驚いて怖そうな顔をしていますが、ミカサだけニヤっとしてるのが可笑しいです。ヒストリアは「どうだ私は女王様だぞー!?文句あれば」と言いますが、リヴァイは今までにないほどの笑顔で(それを見てミカサを含めてみな驚愕しているのが可笑しいのですが)「お前ら、ありがとうな」というのでした。

!!!

笑・笑・笑!!!

いやあ、すごかった。

もう、これからどうなって行くか分かりません。

敵はもう、壁の中にはなくなったわけですからね。

そして、巨人と戦うための手段もいくつか(決して満足とは言えないでしょうが)手に入った。

いや、どうなって行くかって、普通に考えればまず、シガンシナ区へ行って壁の穴を塞ぎ、イェーガー家の地下室を目指すことになるでしょう。そうすれば今度の敵は、獣の巨人か、ライナーたちになるか、どちらかだと思います。

ウーリも含め、みんな何かの奴隷だった、とケニーは言います。リヴァイがエレンたちに礼を言ったのは多分、そんな世界から脱出する何かをリヴァイが見いだした、ということなのかなという気がします。

しかし、それなら調査兵団は奴隷ではないのか。何かの奴隷であるとしたら、「希望」、巨人のいない世界を回復する、という希望の奴隷だと言えなくはないのですが、(そういえば作者の諫山さんはエレンのことを「物語の奴隷」だ、というような言い方をしていた記憶があります)でも、「壁の外」に出たらそこには自由があった、というようなことも言っているわけで、そこには多分奴隷でない生き方、自由な生き方が示唆されている、と思った方がいい気がします。

エレンもまあ言えば、復讐心の奴隷だったみたいなものですが、それがこの先どうなるか。エレンの中にある「始祖の巨人」の記憶と力がどんなふうに働くのか、ここから全く新たな展開になるんだろうと思います。

13巻52話でリヴァイが「今後の方針は二つだ。背後から刺される前に外へ行くか、背後から刺す奴を駆除して外へ行くか」と方針を言いますが、結局「背後から刺す奴を駆除」したわけで、ここまで17話、1年半かかったということになります。

いろいろ考えると次回からはさすがに対巨人戦が再開されると思いますが、この物語のことですので何があるのか予断は許しません。来月も楽しみにしたいと思います!