別冊少年マガジン 2015年 04 月号 [雑誌]
講談社


別冊少年マガジン4月号で諫山創さんの「進撃の巨人」第67話「オルブド区外壁」を読みました!ヒストリアがかっこ良かったです!

前回66話は、ヒストリアを巨人化させエレンを食わせ、エレンの中に蘇った「巨人の記憶」をレイス家に取り戻そうとした「真の王」ロッド・レイスの計画はヒストリアの抵抗により失敗し、ロッド自身が注射の中身をなめて巨人化し、そのあまりの巨大な姿に地下の洞窟が崩壊して、エレンとヒストリアを救出に来た新リヴァイ班のメンバーも下敷きにされそうになる、というところ、エレンは「もう一度だけ自分を信じる」決意をしてその場に転がっていた「ヨロイ」と書かれた瓶を口から吸収し、巨人化した、というところまででした。

さて、今月の展開。面白かったです。私は好きでした。特にヒストリアがいい。リヴァイに口答えするなんてヒストリアの特権という感じでした。

それに、「自分も自分の父親もいないほうがよかったのではないか」と迷いに迷っていたエレンの迷いが晴れて行ったことも、やはりエレンに思い入れをしがちなここ数ヶ月の展開があったこともあって、ほっとするものでした。サシャに「感謝されながら罵倒され」ていたように、ここのところのエレンはぐずぐずした印象が強かった。最初の頃のエレンが「巨人を駆逐してやる」という思い込みが強烈すぎて空回りしがちなキャラだったのがだんだん成長して行く感じがあったのが、父がレイス家の子供たちを虐殺した事実、また巨人化したエレンが父を食ってしまった事実が判明して後、迷いの渕に沈んでしまっていましたから。

そして、新たなる巨人、ロッド・レイスが変身した巨人の巨大さと奇妙さ。今月もいろいろと見所がありました。

ということで、第67話の感想を書きたいと思いますが、例によって内容に触れつつ書きますので、まだお読みでない方はぜひ別冊マガジンを読んでいただいてからお読みください。

背骨と肋骨の描写、というのが先月からよく出て来るのですが、今回の最初のページもエレンのその姿。これはエレン自身の意識がそうなっていたのでしょうか。この表現は何か引かれるものがあるのですが、意味はあまりよくわかりません。まあ分からなくてもいいんですけどね。

ミカサに「エレン!」と呼びかけられて、目が覚めるエレン。エレンは真っ白に硬化した巨人のうなじから、ミカサとジャンによって「掘り出されて」います。エレンは巨人化したときその能力で一気に何本も柱を立てて、地盤が落下して来るのを防いだようです。地上の方へ探りに行ったコニーとサシャは、出口を発見してリヴァイに報告します。エレンは洞窟の中に自分が硬質化能力で柱をたてて岩盤の落下を防いだことにようやく気がつきます。

リヴァイは、「硬質化ってやつだろ。お前を巨人から切り離してもこの巨人は消えてねえ。結構なことじゃねえか」と言います。はっと気がついたエレンは、「あの瓶は?」と叫びます。しかしヒストリアはロッドの鞄を示し、「鞄の中も飛び散った他の容器も、潰れたり蒸発したりしてもう残ってない」と下を向きます。

しかしリヴァイは、「いやまだ他の場所にあるかもしれない。この瓶の中身を取り入れたお前は、これまでどうしても出来なかった硬質化の力を使って、天井を支え崩落を防ぎ俺達を熱と岩盤から守った」と言います。「つまりこれでウォールマリアの穴を塞ぐことが可能になった」と。エレンははっとします。リヴァイは続けます。「俺達は無様にも、この到達点にたどりついた」と。いや、いいことなんですけどね。

エレンは思います。ウォールマリアの奪還。そうすればイェーガー家の地下室を調べられる。でも父親の正体は、とさっきまでロッドが話していた内容、自分の中に蘇った記憶を思い返して、エレンは暗い気持ちになります。

一方地上では、ロッドが変身した巨人が何やら大変なことになっているようです。リヴァイに「それにしてもお前、ひでえ面してるぞ」と言われるくらい落ち込んでいるエレンですが、地上に出る際、アルミンに手を取られてがしっと握手し、久々にシガンシナ組の三人が一緒になります。やはりこの三人が揃うとほっとしますね。彼らの故郷はまだ取り返せていないけれども、彼ら三人が揃えばそこが彼らの故郷だ、という感じがします。エレンが落ち込んでいるせいもあるからでしょうか、本当に力強い仲間たちだなと思います。


地上の様子を見たエレンたちは愕然とします。アルミンはいいます。「この世の終わりかと思ったよ。突然地面が破れて陥没したと思ったら、あれが這い出てきたんだから」と。巨大な地下空間のあったところの岩盤は無惨に陥没し、そして地面を這い擦っているロッドの変化した謎の巨人。「いろいろ変だ」とアルミンはいいます。大きさは超大型巨人の倍、手足はあるけど頭はないように見えます。そして高温で、その巨人が近づいた木々が発火してしまうのだそうです。

そして近くにいる人間に興味を示さない。それは、久しぶりに聞く言葉ですが、「奇行種」だということなのですね。アルミンは、他のメンバーの暗い顔を見て、「何かあったの?」と聞きますが、リヴァイは「あの巨人を追うぞ」と出発を命じます。

荷車に横たわるハンジの横で、エレンとヒストリアがロッドとの会話の中で判明したことをハンジに説明し、ハンジはそれを整理します。

エレンの中にある巨人の力を「始祖の巨人」と呼ぶとすると、その巨人の力は、レイス家の血を引くものが持たないと真価を発揮出来ない。しかしレイス家の人間が持っても「初代王の思想」に支配され、人類は巨人から解放されない、と。ハンジは自嘲気味にいいます。「すごく興味がある。初代王いわくこれが真の平和だって?面白いことを考えてるじゃないか」と。この構造に支配されている限り、人類が巨人を倒すことなどあり得ない。そのことが、一行の心を重苦しくさせているのですね。

エレンは言います。おれをあの巨人に食わせれば、ロッドレイスは人間に戻り、完全な始祖の巨人に戻すことは可能だ、と。そして彼にかけられた「初代王の洗脳」を解けば、人類が助かる道が見えてくる。そして食われる覚悟は出来ている、というのです。

マルロやヒッチ、ジャン、コニー、サシャ。重苦しい顔。それに歯を食いしばるアルミンとエレンを止めようとするミカサ。しかしそこに、ヒストリアが口を出します。

ロッドを始祖の巨人にするのは問題がある。初代王の洗脳はいままで何十年も解けていない。またロッドを拘束しても人類の記憶を改竄されてしまったら終わりだ。「むしろ、ロッドから始祖の巨人を取り上げているいまの状態こそが人類にとって千載一遇の望みなのです」と。

ここのヒストリアの必死になっての語り、自らのレイス家の血を否定する語りは、何かすごい、迫力があります。唖然としてヒストリアを見つめるエレン。ここの緊迫感はすごいですし、何というかヒストリアというキャラクターが十分主役を務め得る存在なのだということをまざまざと思い知らされます。

ヒストリアはもともと諫山さんの初期作品に出て来るキャラクターを使ったものだと読んだことがありますが、最近そういうことをよく意識します。彼女はこの「進撃の巨人」という物語の枠を超えて存在しうるキャラクターなのだと言えるのかもしれません。エレンはやはり主人公であるために物語の枠内に縛られている。他の男性キャラも、実はそうだという気がします。しかし女性キャラはミカサにしろヒストリアにしろ、物語の枠を超えて存在し得るある種の一般性を持ったキャラクターである気がします。

ヒストリアは続けます。「あなた(エレン)のお父さんは、初代王から私達人類を救おうとした」と。「姉さんから始祖の巨人を奪い、レイス家の幼子ごと殺害したのも、それだけの選択を課せられていたから」と。

エレンの脳裏に、父に巨人の注射をされたときの記憶が蘇ります。涙を流し注射を打つ父の顔。眼鏡。そして地下室の鍵。「ミカサやアルミン、みんなを救いたいならお前はこの力を支配しなくてはならない」と言う父の言葉。

エレンの表情から苦悶の表情が消えて行きます。父がやろうとしたことの意図が、ようやく分かってきたのですね。アルミンも叫びます。「そうだよ!あのイェーガー先生がなんの考えもなくそんなことするわけがないよ!」と。ミカサも重ねます。「レイス家の血がなくてもきっと人類を救う手だてはある!だからエレンに地下室の鍵を託した」と。

一行に希望が蘇ります。「壁の穴を塞ぐめどがようやく立ったんだ。選択肢はひとつしかねえだろ」とジャンがいい、リヴァイも「少しはましになってきたな」といい、「私もそっちの選択肢に賛成だ」とハンジも言います。

余談ですが、リヴァイのこのセリフは彼の性格を考えると非常に肯定的なセリフなんですよね。この場面を何度も反芻しているうちにそのことがよくわかってきました。

でも、そうならば、ロッド・レイス(が変身した巨人)を殺さなければならない、とハンジは言います。巨人化した父を見、父に抱きしめられたときの記憶を思い出すヒストリア。ヒストリアはエレンに謝ります。私はお父さんに嫌われたくなかった。だからあなたを殺そうと本気で思った、と。ここの表情はいいですね。そして言います。「でももう…お別れしないと」と。

この決然とした意志に満ちた表情。父と、そして自分の血と、運命と「お別れする」ことを決めたヒストリア。本当にここのヒストリアは魅力的です。

一方、この超超大型巨人の近くには、エルヴィンたちがいました。リヴァイたちと合流するエルヴィン。エレンは「巨人を操る力」使ってこの巨人を従わせようといろいろやってみますが、上手く行きません。「あの巨人は?」と尋ねるエルヴィンに、リヴァイは「ロッド・レイスだ。お前の意見を聞かねえとなあ、団長」と答えます。

一方、ウォールシーナの外壁都市、オルブド区。超超大型巨人は、この町に近づいてきます。この巨人、頭がないのかと思っていましたがなんだか小さいのが付いているということがこの場面で初めて分かりました。だから一応、うなじはあるんですね。

ということは、倒すことが不可能ではないだろう、ということでもあります。(最近その描写がありませんでしたが、巨人の弱点はうなじにあり、そこに「本体としての人間」がいることになっています)もちろんどんな展開をするのか予断は許しません。大体、超高熱で近づくことさえ出来ない巨人なのですから。ロッド・レイスは「最も戦闘に適した巨人を選んだ」と言っていましたが、その意味がまだよくわからないからです。多分、そこに何かある筈なのですが、まだよくわかりません。

さて、本編。エルヴィンが、城壁の守備兵である駐屯兵団の責任者にくってかかられています。住民たちを避難させないなんて、と怒る駐屯兵に、ハンジは「あの巨人は奇行種で、より人が多いところに吸い寄せられる。だからオルブド区の住民をウォールシーナの中に避難させれば、王都ミットラスが巨人に襲われ、人類は壊滅的な被害を受ける」と。あの巨人はこのオルブド区外壁でしとめるしかない、と説得するエルヴィン。駐屯兵たちも納得せざるを得ません。そして壁上固定砲の砲撃は有効であろうけれども、もしそれで倒せなければ「調査兵団最大の兵力を駆使するしかありません」とエルヴィンは言います。

「調査兵団最大の兵力」それは、文字通り人間の兵力のことなのか、それともエレンが巨人化して戦うことを意味しているのか。私は最初は後者だと思っていたのですが、読んでいるうちにだんだん前者の意味もあるかもという気がしてきました。

そして、オルブド区の夜明け。作者の諫山さんも書いていますが、「地下の話がずっと続いた後で、ようやく地上に出て朝日を拝めた」という感じですね。外壁上に集まる兵力、新リヴァイ班の面々も外壁上で市内の様子を見ています。朝食の時間のようですが、食欲がない、と食べないサシャ。驚くエレンに、「さっきまでさんざん人殺しまくってたせいかもな」というジャン。さらに驚くエレン。「いろいろあったんだよ。ここさえ凌げば先が見えてきそうなのに、しくじりゃ地獄の鬼ごっこだ」というジャン。そこにやってきたのは、ヒストリアでした。

このヒストリアの、立体機動装置姿、好きですね。「お前は戦闘に参加出来ない、そりゃ何のつもりだ」というリヴァイに、ヒストリアは「自分の運命に決着をつけにきました」と答えます。

!!!

かっこいい!

「逃げるか戦うか、選べと言ったのは、リヴァイ兵士長、あなたです。」

・・・・・歯嚙みするリヴァイの表情。人間相手にこんな顔は見たことありませんね。ヒストリア、リヴァイに口答えするとは、何というか女王の資質を感じさせます。

しかしもう時間がない。あの超超大型巨人は、オルブド区外壁に迫り来るのでした。

ふう。

ということで今回はここまでです。

今回は、というかまた今回も、主役はヒストリアという感じでした。運命に翻弄されるエレンと、自分の運命を自分で摑み取ろうとするヒストリア。その意志は、たとえリヴァイでも止められない。ここは凄くいいですね。

「One Piece」でも超巨大な岩石人間ピーカとゾロの戦いが描かれていましたが、ピーカの手のひらは「街の大きさ」でした。オルブド区の描写を見ると、超超大型巨人の大きさも町ほどあります。ウォールシーナの穴を塞ぎ、巨人を排除すると言う「シガンシナの地下室への道」が見えてきた今となっても、目の前に巨大な障害が立ちふさがっていることに違いはありません。

人が近づけないほど超高熱の、そして超巨大な巨人をどのように倒すのか。いやそれ以前に倒せるのか。

来月以降どのような展開になるのか、さらに楽しみになってきました!