BRUTUS (ブルータス) 2014年 12/1号 [雑誌]
マガジンハウス


「BRUTUS」12/1号で「特集 進撃の巨人」を読みました!「巨人展」を見てから読むと二度美味しい、と思いました!

ここのところ、「進撃の巨人」関連の話題が多くなっていますが、劇場版・原画展と来て今日は雑誌記事の話題です。

もう発売は少し前になりますが、「BRUTUS」で進撃の巨人特集が組まれました。普段マンガやアニメを見ている人にとってはあまり馴染みのない雑誌で、アルマーニの宣伝などが載っています。逆に言えば、普段そういうものを読んでいる人まで「進撃の巨人」に関心を持つ、それだけ大きな社会的反響を読んでいる作品なんだなあと思います。

何しろいきなり最初に「進撃の美人」のコーナー。女性のポートレートにプラス「進撃の巨人」の感想、というのが見開きの石原さとみさんを含めて4ページ続きます。リア充度が高いですね。

それに続けて「進撃の巨人」展の記事。製作中の実物大超大型巨人を作者の諫山創さんが監修のため見に行った場面のスナップ。諫山さんの執筆風景に続いて、展覧会の模型でしょうか、そして展示されていた原画が4ページ。

そして、実際の「巨人展」の展示をチェックしているところの記事では、ミカサのマフラーやイルゼの手帳など、展示されていたものは諫山さんが実際に手に取ってチェックし、細かい要望が伝えられたとあり、かなり熱を入れて作られた展示だということがよくわかりました。

そして、私はまだ見ていないのですが「360度体感シアター「哮」」のレポートが2ページ。リアルなバーチャルリアリティの映像に作者の諫山さんも興奮したそう。「巨人展」関係の記事は全部で19ページありました。

正直言って、「巨人展」に行く前はあまりこれらの記事を読みたい感じがなかったのですが、実際に見て帰ってくると、読んでいて面白いです。普通なら展覧会の「図録」を見て展覧会の記憶を新たにするわけですが、今回は図録の発行が3月ということで、それができない。だから、もう一度展覧会の記憶を蘇らせたい、という方には、この「BRUTUS」の特集はオススメです。

そして諫山さんのラフスケッチや過去の作品が8ページ、既刊の単行本の内容紹介が1巻ずつ丁寧に15ページ。また諫山さんにインタビューをしている精神科医の斎藤環さんの「関連本」紹介のページがあり、途中広告ページ等があって各分野のクリエイターが「進撃の巨人」を題材に制作した作品が18ページ続きます。

「進撃の巨人につながるエンタメ映画の系譜」と題して、巨大生物、人食い、変身、謎、閉鎖、ディストピアというテーマを掲げて関連する映画の紹介記事が6ページ。

「進撃の巨人が日本を夢中にさせる6つの理由」と題してマンガ構造、美術、生物、キャラクター、政治、建築と土木、というテーマでそれぞれの筆者が理由を解析しています。

そして「壁論」「巨人論」「家族論」として「~とは何か」みたいな考察が6ページ続き、「巨人とかけて…」というネタのサラダボウル的なページが5ページ、そして最後に斎藤環さんによる諫山創さんインタビューが11ページ、最後には「進撃の巨人シール」までついてます。

非常に量的に多い特集だったのですが、普段読み慣れている作品中心の特集というよりは、そこからどういうイメージが派生してくるかとか、どちらかと言うと周辺的な、つまり「進撃の巨人」特集というより「「進撃の巨人」現象」特集という印象だったかなと思います。また、アニメ画像がほとんどない。あくまで原作中心の作りになっていて、そこがひとつの特徴かな、と思いました。

しかしまあ、メインイベントは「進撃の巨人展」の紹介と、作者の諫山創さんのインタビューでしょう。

ということで、諫山さんのインタビューで印象に残ったところをいくつかあげて行きます。

ひとつ目は、一貫したモチーフとして「主人公が変身して強くなる」というものがあると言うこと。ご本人は自分の身体に対するコンプレックスをあげておられて、それは格闘技好きというものとも関係があるのだろうなと思いました。

また、自分の作品が不当に評価されているのではないかという罪悪感がある、というのも何か諫山さんらしいと思いました。編集の川窪さんが劇場版のパンフレットでアニメ公開の頃の単行本の売れ方について、「宝くじの一等が毎日当たっている感じ」と言っているのだけど、当人たちがある種戸惑っている感じが初々しいなと思います。

また、最初に生まれたキャラがエレンでなくミカサだった、というのはちょっと納得するものがありました。斎藤環さんの表現で言えば「戦闘美少女」であって、やはり存在として分かりやすいですからね。ただ、例えば「エヴァンゲリオン」の綾波レイにも、「最終兵器少女」のちせにもない、独特の屈強な感じがミカサにはある。屈強なのだけど肉体的には逞しすぎず、エレンに固執して周りが見えなくなったりするけれども、それ以外は常に冷静沈着で、ものすごい熱さと氷のような沈着さが同居しているキャラは、ミカサならではだと思います。エレンは諫山さん自身が言うように「物語の奴隷」的なところがあり、アニメで声優の梶さんや監督の荒木さんが造形して行くのを見てキャラクターの輪郭がはっきりしてきた、というのは分かるなと思いました。

リヴァイに関しては「自分の中にも腐女子がいるのかもしれない」というセンサーが働いた、というのは可笑しいなと思ったのですが、自分の絵が下手であるために「自分の絵で描き直したい!」欲望が働いたのではないかと言う自虐ぶりもまた諫山さんらしいと思いました。

また最新のハリウッド版「GODZILLA」は怪獣映画を分かっている感が濃厚で、最高だった、というのも面白いと思いました。やはり見せ場は神のように巨大なもの同士の肉弾相打つ戦いだ、という指向はとてもはっきりしているのだなあと思います。

また、「格闘技好きに取って、身体の制約こそが面白さ」というのも面白いなと思います。将棋でも、歩は前にしか進めないとか、そういう不自由なところに面白さがあるのと同じで、格闘技というものも思ったことのすべては実現させられないが、その不自由な中でどんな技を繰り広げて行くのか、というところが面白いんだろうなと思いました。

また、原稿に関して、「読んでいただくときには印刷されて平面になっていますが、原稿は立体なんです。厚い原稿用紙を削ったり、ホワイトを盛り上げたりして、紙がボロボロになって行くのを感じながら描くのが好きですね」というコメントは、原画を見て私自身が強く感じ、いいなと思ったことなので、ご本人もそう考えているということが分かったのは楽しかったです。

それから、いわゆる「エロゲー」の「マブラヴ・オルタネイティブ」というゲームが、「宇宙人がせめて来て人類は滅亡寸前にも関わらずいがみ合っている」という設定で、「日本は大東亜戦争に勝利して天皇制も当時のまま維持しているんだけど、その外側のユーラシア大陸はすでに宇宙人に占拠されているから、抵抗戦争の最前線が日本になっている」と言う、どこがエロゲーなんだ、と言う設定だということを知って、かなりウケました。

エロはあるにはあるけど嗜好が特殊で、いきなりハードなグロになったりするのだそうで、そういうところは「魔法少女まどか☆マギカ」も影響を受けて要るんじゃないか、と言っておられ、「18禁にしておけば規制が弱くて、凝った表現に踏み込めるという利点もあり、エロゲーが作家性を育む土壌になっている」という話はなるほど、と思いました。

このインタビューに関しては、インタビュアーがマンガやアニメの世界の中の、いわばオタク界の人ではなく、いわばリア充側の人であることによって、諫山さんの人間像というものがある意味分かりやすく捕えられた、という感じがします。同業の世界の人だと、向かい合って話しているというより横に座って同じように前を見ているという感じになって諫山さん自身が見えて来ない感じがあるのですけど、全然違う世界の人に自分を説明しようとしている感じがあって、凄く分かりやすくなったと思います。

ちょっとなかなかとらえにくい特集ではありましたが、実際にいろいろなことを考えるきっかけになるのではないかという特集ではありました。