五十嵐大介: 世界の姿を感じるままに (文藝別冊/KAWADE夢ムック)
河出書房新社


KAWADE夢ムック『文藝別冊 総特集 五十嵐大介』で、五十嵐大介さんのインタビューを読みました!

この秋、実写映画『リトル・フォレスト』が公開されています。原作は、五十嵐大介さんのマンガ。東北の山奥の村で、自給自足のひとりぐらしをする20代女性を主人公にした話です。(残念ながら、わたしはまだ見られていませんが)

五十嵐さんは、そんな東北の村で実際に自給自足をして暮らしていた時期があり、その時にこの作品を描いていたのだそうです。

五十嵐さんの作品は、「はなしっぱなし」「そらとびタマシイ」「海獣の子供」など、「人間と人間でないものの間」みたいなものを描いた作品が多いのですが、この「文藝別冊」の表紙も、髪の毛が鬼カサゴのとげみたいになっている「海に棲む少女」という感じの絵になっています。

いろいろと面白い、というか自分の中の心というよりからだのそこに眠っているイメージを揺り動かされるような言葉が多いのですが、特に面白かったのが「獣の奏者」の上橋菜穂子さんとの対談で、予備校時代に浦和の調(つき)神社に入り浸っていたとき、鬱蒼とした森の中でちょっと「渦巻きが見えた」という話が面白かったです。五十嵐さんは渦巻きは「命と結びつく感じがして、凄いテーマ」だと言っていて、何かそれを読んだあとずっと、自分の中で渦巻きを感じる感じがしたのですね。(笑)

渦巻き模様って、たとえば海星の形にもそう言う感じのがあるし、銀河系も渦を巻いてるわけですし、当然排水口とか見ててもありますし、蚊取り線香にもありますが、例えば太極図(韓国の国旗になっている)とかお寺の卍なども渦巻きの感じがしますよね。

冒頭のインタビューでも一番印象に残ったのは調神社にまつわるエピソードでした。

「結構凄い、樹齢数百年の木々が鬱蒼と茂ってるようなところで、池もあって、そこには亀がいたりナマズとかが水面までスーッと上がってきてボコッと息吸って沈んで行ったり。あとは能舞台と言うか舞殿みたいなのがあって、雨の日はそこの軒下でぼんやり時間を潰したり。毎日そこに通って、ちょっとした木に囲まれた空間に座ってボーっとしてたりしたら、何となくゴミとか気になってくるじゃないですか。なのでゴミ拾いとかしてたら、いろんなものが見えてきたって言うのかな。(中略)

池が鳥の遊び場になってたし。キツツキ——コゲラかな、あれは——を初めて見たのもここでした。ずっと入り浸っているとだんだん鳥が近くに来てくれるようになったりして。雨の日とか、舞殿の軒から雨だれが落ちるんですけど、その下の砂利の層に水がたまっていて、そこに落ちて「ポヨンポヨン」みたいな変な音がするのを聞いて、「ああこれって音楽だなあ」と思ったり。そう言うことが本当に今の自分のベースになっていますね。(中略)周りの雰囲気も含めて、その神社は本当に自分の中の原風景だなと思います。」

本当に、恋人を語るような(笑)、愛情に満ちた語り口ですよね。懐かしい故郷であるだけでなく、そこが自分の出発点であると言う。わたしも子供のころを思い返すと、慣れない田舎の暮らしを小学二年生から高校二年生までしたのですが、その頃感じた自然への畏敬の念とか、自然へのとけ込み具合とか拒絶されている感じとか、それぞれ凄く体感的に感じていたことを思い出しました。これは多分、若い頃にしか感じられないことで、今わたしが山に入ってもそう言うものよりももっと世知辛いものを感じてしまうことが多いのですが、そう言うものを原点、原風景にして作品をつくり続けていられているところが、凄いなあと思います。

この特集、自分の中のそう言う感覚をよみがえらせながら読んだ方が自分の身に付くような感じがしますので、また少しずつ感想を書いてみたいと思います。

五十嵐大介さん、おすすめのマンガ家の一人です。