子供はわかってあげない(上) (モーニング KC)
田島列島
講談社


田島列島さんの『子供はわかってあげない』上下巻を読みました!

モーニングに連載されていっぺんに好きになった田島列島さんの『子供はわかってあげない』が上下巻で一気に全話発売になりました。

二冊とも水彩っぽい表紙で上巻は青、下巻は緑が基調です。上巻はどこかの島のある海の上を、門司くんと朔田さんがパンダに乗って歩いているところ。なぜか黄色いひよこたちが周りにいて、青い海には空と雲が映っています。夢の中の風景みたいです。

下巻は竹やぶの中。門司くんがテレビに腰掛けてアイスをかじっています。テレビからなぜか魚が出てきて、竹やぶの空中を泳ぎ回っています。朔田さんはその中の一匹にパンの耳をやっています。田島さんのあとがきによれば「不思議絵」ですね。(ちなみに最初はイルカのイメージだったようですが、「不思議絵にイルカだとラッセンになる!」からと魚に変えたそうです。・・・・・・ならないと思いますけどね。(でも描く方がそう言うことが気になることはよっく分かります。)

上下巻、全20話は、全体的に修正には気がつきませんでした。細かい書き文字とかに修正がある気もしますが、確かめていません。個々の話の内容についての感想は、こちらの方から読んでいただければと思います。

あ、15話「フランダースで見た少年」で朔田さんの(生き別れになった)本当のお父さん(新興宗教団体「光の匣」の教祖)が門司くんにお酒を飲ませようとする場面の欄外に「※未成年の飲酒は法律で禁じられています」という注意書きがはいりましたね。これは田島さんの書き文字で入った方がトータルな印象としてはよかったと思うのですが、ちゃんとしたアリバイみたいな感じにするにはこういう活字の方がよいのかなとも思いました。

全体に本当に躍動感のある、と言ったら変かな。本当に読む人が朔田さんと門司くんを好きになるようなお話なんですよね。おてんば(死語?)で活発で真っ正直な朔田さんと、思慮深くて世の中から少し引き気味なところはあるんだけど朔田さんを心配した時は一目散に江虫浜まで駆けつけた門司くん。このふたりの「ボーイミーツガール」のストーリーは(まあガールミーツボーイでもいいんだけど)「永遠」、という言葉がぴったり来ます。

すべての「コト」は14話までですべてが出揃っていて、15話以降はじっくりとその騒動の中で芽生えた(あるいは爆発した)何かをそっと確かめながら育てて行く、そのゆっくりゆっくりと育って行く何かの育ち方が、たまらなく愛しい感じがします。

単行本の読みどころの一つは、巻末の4ページの「あとがき」です。田島さんがこの作品を描くまでに至った過程が描かれているわけですけれども、「いろいろあって心が折れていた私は「これは趣味だ」と言い聞かせなければどうしても描きだせなかった」という言葉には本当にリアリティを感じる、と言うかほんとそうなんだよな、と思います。無理矢理にでも理由をつけないと描き出せない、物事を、新しいことを始められない、そう言う感じはすごく良くわかります。

「友達に説明することで物語がいなくなったり」というのも、すごく実感として良くわかりました。あれ、確かにそうなんですよね。説明した時点で「そう言うもの」になってしまって、言葉の中に物語が雲散霧消して行ったりする。だから物語の構想中(マンガだったらネームということになりますね)は人に会えない、というのはそうだろうなと思います。

「一枚絵は誰かにあげる名目でないと描けない」というのは、私に思い当たるところは必ずしもないのですが、何か印象に残る言葉でした。

本当に、田島さんは言葉のセンスが抜群なんですよね。それで、絵が他の誰の真似でもなく、可愛い。言葉と絵の好きな私には、本当に「たまらない」作家さんです。

最後に、この作品の中に出て来る門司くんの言葉で印象的な言葉を一つあげておきましょう。

「あとから生まれた時点で後手に回されてるんだからその上混乱したら負けがこむだろ」

これは、朔田さんが生き別れになったお父さんに周りに内緒にして会いにいき、帰るはずの日になっても帰って来ず、連絡もできてないことが分かった門司くんが心配して江虫浜に飛んで行ったら泳いでいた朔田さんにドンピシャで出会い、朔田さんが門司くんを好きになってしまったあと、「まだお父さんと一緒にいたい?」と聞く門司くんに「私がまだお父さんって言えてないのに門司くんが言うな!…呼ぶとしたらお父さんなんだけど、私のお父さんはウチの(母の再婚相手の)お父さんのものであって」という朔田さんに、「じいちゃんとかばあちゃんもツーペアいるだろ」「適当だな!」「適当だよ。俺なんか女になった兄貴をいまだに兄ちゃんて呼んでるんだぞ(この女になった兄貴が難事件?を解決した「名探偵」なんですが)」と返したあとのことばです。

そう言われて朔田さんはちょっと顔を赤くするのですが、沈黙した朔田さんに振り返った門司くんに「そうっすね、人生勝ち負けっすね。」と答えるのでした。

これは「大変なのは私だけじゃなくて、門司くんもそうなんだよな」と思ったということでもあるけれども、そう言う大変なことを「勝ち負け」というかたちで整理して乗り切って行こうとする門司くんの考え方が何か男らしいと思ったからなんじゃないかなという気がしました。

何かこのセリフ、妙に好きなんですよね。(笑)

人間誰でも誰かのあとから生まれて来るわけで、そう言う意味では最初から後手に回されているのですけれども、それを乗り越えて一歩でも前に出て行く。そんなことが必要だと私自身が感じているからかもしれないな、と思いました。

ついでに、お父さんに酒を飲まされて門司くんが眠ってしまったあと、初めて朔田さん(美波)が「お、お父さん」という場面もこの場面を受けてのことな訳で、何かストーリーの白眉でもあるんですよね。門司くんの力を借りて、初めて朔田さんはお父さんをお父さんと呼べた、みたいな。「お父さん」と呼んでもらうことはお父さんにとっても幸せなことな訳で、まあそう言う意味でまたお父さんの方も門司くんに「借り」があるわけなんですけど、この二人の関係もすごくイイです。あとになるとまた別のものももらうのですが。

というわけで、このストーリーは本当に読む人によってそれぞれに思うところができるお話なんじゃないかなと思います。

今年出会ったマンガの中でも、最も印象に残る作品の一つになりました!

子供はわかってあげない(下) (モーニング KC)
田島列島
講談社